リボツナ4 | ナノ



ちょっと、お節介を焼こうか




そんな日常に振り回されていたオレは少し意地悪をしてみたくなっていた。
いつも先輩にパシらされているからだとか、沢田にあてられていたからという訳ではないが、正直なところ早くくっ付くなり普通の関係になるなりして貰いたかったということだ。
オレの安らかな日常を取り戻したいと願って何が悪い。



しかし、あのおでん事件からしばらく、沢田はコンビニで見かけることがなくなってしまった。
1日、2日と経過するに従い先輩の機嫌も下降の一途を辿る。5日経つに至って先輩の苛々は表情にまで表れるようになり、女の子たちですら寄せ付けない先輩の八つ当たり先がどこに向くのか知れた話しだった。

そうしていつものように無茶を言われて文句を言いながらも、このコンビニにしか置いていない肉まんを買いに走らされた。

「お、いらっしゃいませー。」

気の抜けたお定まりの挨拶に驚いて顔を向けると沢田がレジに立っている。
沢田のシフトは大抵夕方から明け方にかけてだというのに、どうしてこんな時間にいるのかと驚いているとキョロキョロと店内を見渡して、客がオレ以外いないことを確認すると手招きしてきた。

「あんた、どうしてこんな時間に?」

「しばらくぶり。んー、この時間帯のおばちゃんが倒れちゃってさ。入院だなんだといわれて、ちょっと変則的にシフトが変わってたんだ。」

「そうか…」

沢田が倒れた訳ではないことに心底ほっとしたオレは、少し立ち話をしてから肉まんを買って学校に戻った。
制服のポケットに突っ込んだままの携帯がかしましく何度も鳴ってはいたが、そこはあえて無視をした。

「てめぇ、何のんびりパシってんだ。昼休みが終わっちまうだろ。」

出迎えてくれたのは額に青筋を立てていた先輩で、ご褒美に重い拳を腹に貰った。昼の弁当が出るぐらいのそれにうずくまっていると、先輩は長い足をさも邪魔そうに組みながら肉まんを片手にこちらを見下ろす。

「…ツナはいたか?」

つまりはそれを知りたくてオレをあそこまでパシらせたという訳か。
そんなに気になるなら自分で行けばいいのに、それはチョモランマより高いプライドが邪魔をするらしい。
馬鹿馬鹿しいと思ったが、ふとあることを思いついた。

「居ませんでしたよ。いつものおばちゃんが、最近見かけないんだと言っていました。」

嘘吐きは泥棒のはじまりなんて子供の頃はよく言われたが、今では嘘も方便という言葉を知っている。

「何?……どこか、勤め先でも見つかったのか?」

「さぁ?知りませんよ。」

肩を竦めると先輩の顔が益々険しくなっていく。
これで今すぐ確かめに行かれてしまえばアウトだが、先輩のいつもの行動から計算すると今日中には行くことはまずない。
明日の朝一で覗きに行くだろうことは想像に難くなく、その時間はまだ沢田は出勤前だと言っていたから大丈夫だろう。
その次の日は休みなんだと笑っていた沢田を思い出しながら、これでしばらく顔を合わせることはないと割り出した。

「携帯で聞いてみろ。」

「それもしてみましたが、繋がらないんです。」

先ほどの立ち話で聞いたところによると、おでん事件の次の日に携帯電話を壊してしまったらしく、本当に繋がらないのだ。
学生時代から使っていたから仕方ないんだよと笑っていた沢田は、次の休みの日に新しくするのだと言っていた。

「…あいつの家は。」

「知りません。」

これは本当だった。
いつもうちばかり来ていた沢田に言わせると、一人暮らしの男の家なんて誰かを呼べるもんじゃないと何故か自慢げに言われ、一度も呼ばれたことがない。
近くらしいとは聞いていたが、どこなのかさっぱり知らなかった。

先輩の問いにすべてダメだと答えると、いつもは憎らしいくらいに余裕綽々の表情に焦りが見えた。
それでも、それを素直に出すことのない先輩は眉を顰めて顔を作ると食べ掛けの肉まんをオレに投げ付けて踵を返して教室へと戻っていった。

人気のないパソコン室に鳴り響く午後からの授業を告げるチャイムを背後に、思い通りになりそうだと一人ほくそ笑むと先輩の背中を見ながら自分の教室へと足を向けた。






そんなことがあってから3日過ぎた昼下がり。
すでに機嫌が悪いどころではなくなっている先輩に追い立てられて、沢田のいるコンビニへと避難していた。
あれから意地になった先輩がこのコンビニに近寄らなくなってもう2日経つ。
そうとは知らない沢田はオレの顔を見るといつものように適当な声を掛けてきた。

「いらっしゃいませー…って、どうしたんだよ、スカル。」

オレをパシらせても埒が明かないことに気付いた先輩によって、今度はサンドバック代わりになっていた。お陰で生傷が絶えない。
先ほどなどかったるい体育の授業などやっていられるかとサッカーボールを顔面に入れられたばかりだ。
鼻血は出るは、顔は腫れるはで少し冷やしてきたのだが酷い有様だった。
それでもこの計画を完遂するまでは我慢するしかない。

「丁度いいや。お客さんいないし、手当てしてやるよ。」

あまりに酷かったのか、それとも鼻血が止まっていなかったのか。沢田が手招きをしてレジの横にある椅子へとオレを座らせた。

「これって、リボーンが?」

「それ以外いないだろう。」

「だよな…」

同病相哀れむではないが、沢田はため息を吐いてオレの顔を濡らしたテッシュで拭きながら頬にきず薬と絆創膏を張ってくれる。
手当てのために近付いている顔をまともに見れずに視線を下へと向けていると、ついでのように沢田が訊ねてきた。

「そういえば、リボーン最近見ないよな。」

ポツリと呟いた声にムカッと湧いた気持ちを押し込めて、出来るだけ抑揚のない声で答える。

「何でも今は熱中する相手がいて、それにかかりっきりだ。」

嘘は吐いていない。その相手が目の前にいる人物だと言わないだけで。
すると沢田はピタリと手を止めて吐き出しかけた何かを飲み込むとふうんと頷いた。

「そっか…若いっていいよな。オレ、就職が決まったんだ。だからここで働くのも今月いっぱい。スカルもリボーンにやられてばっかじゃなく、やり返すようにしろよ?」

「そんなことをしたら殺される。」

冗談ではなく本心で言えば、それを汲み取って貰えずに笑われてしまった。
その顔に少しだけ見えた影を見つけて、ズキリと胸は痛んだがそんなことを言っている場合ではない。
嘘が嘘でなくなるなんて思ってもみなかった。
どこに就職するのだと訊ねてもその内なと曖昧に濁されて追い立てられる。

「あと2日だけど、その後もご贔屓に!」

ニコリと笑った顔を見て、自分の計画の穴が大きくなっていくことに焦りを覚えて駆け出した。

.







人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -