リボツナ4 | ナノ



自覚しているのか、いないのか




そして、何故かうちのリビングで犬も食わない口喧嘩の2回戦が勃発していた。
いい加減帰れ。いや、帰って下さい。

「おい、パシリ。聞いてんのか?」

「オレはパシリじゃないっ!」

おかしい、まだビールは開けてもいないのに絡み上戸になっている。いや、違う。これはいつも通りか。
しかし、

「お前最低だな!未成年の癖に酒飲もうとしたり、友だちのことをパシリ扱いかよ!」

こちらがヒートアップしていることは確かだ。
普段の沢田ではありえないほど声が大きい。ついでに顔も赤い。

彼女の怒り顔が好きだと惚気ていた前の席の同級生の言葉をふと思い出して妙な気分になる。
彼女でもなければオレに向けられている顔でもないのにどうして動悸が激しくなるのか。
きっとこんな馬鹿馬鹿しい言い争いを聞いていられないからだろう。多分。
そう思うことにするしかない。そんな風に結論付けたオレに沢田が顔を近づけてきて仰け反った。

「どうしたんだよ?顔赤いぞ。」

大きな瞳が先輩との言い争いのせいで少し潤んでいて、それがまた一段と胸にぐっとくるというか、どうにも妙な気分で沢田を見ていればすごい勢いで先輩の腕が伸びて沢田をオレから引き剥がした。

「パシリに近付き過ぎだぞ。パシリ菌が移る。」

「あんた…っ!オレがパシらされているのが菌によるものなら、あんただってとっくに移ってるだろ!」

「フン、オレにそんなもんが通じると思ってんのか?おめでたいおつむじゃねぇか。だから『算数』が出来ないんだぞ。」

と、これまた小憎らしい顔で言われて余計に腹が立つ。数式を覚えることも科学反応式を暗唱することも軽いのだが、単純な計算が合わないことが多いオレはいつも先輩にこれを言われてぐうの音も出なくなる。
そんなオレと先輩を見ていた沢田はぎゅっと眉を顰めて、掴まれていた腕を振り解くと先輩を睨みつけた。

「リボーンは頭がいいかもしれないけど、スカルの方がオレは好きだな。」

などと言い出したために先輩の顔が強張った。
それに気付かない沢田は先輩に背を向けたまま卵に齧りつく。

「…とすると、ツナはパシリみたいな馬鹿がいいのか?」

「パシリじゃない上に馬鹿でもない!」

そう怒鳴りながらも、あからさまに顔色を変えて沢田を覗き込む先輩の姿を見て少し溜飲が下がる。
そんなことを言い出した沢田を見れば、何故か拗ねたように口を尖らせていた。

「別に、いいって訳じゃないけどさ…でも、いつもパシリパシリって仲いいよな、お前ら。」

どこをどう見たらオレたちが仲良く見えるというのだ。あんたは目が悪いと心の中で絶叫する。
しかしその顔と言葉に先輩が俄然気力が湧いたのか、ニヤリと笑うと沢田に顔を近づけていく。

「どうした、オレとパシリが仲がいいと嫌なのか?」

「んな!?ばっ馬鹿言うな!別にお前が誰とどうだろうと何ともないんだからな!」

「ほぉ?その割には涙目になってんじゃねぇのか?」

「なってないよ!」

涙目にはなっていないが、顔は赤い。
そんな沢田をみてニヤニヤと笑う先輩はテーブル越しに沢田の顔の前に乗り出して、齧りついて半分残った卵を刺した箸を握る手を掴むとそのまま口に入れてしまう。
目の前から卵を奪われた沢田は大きな瞳をもっと大きく見開いて先輩を凝視していた。

「そういう意味でなら、オレとツナの方がよっぽど『仲良し』だぞ。パシリはあくまでパシリだ。」

「そっ…」

食べられてしまった卵を気にすべきか、それとも先輩の言葉を考えるべきかとうろたえていることが手に取るように分かる。と、いうか顔に出すぎだ。
顔を赤くしてパクパクと口を開閉させている沢田の手を握ったまま、今度はちくわを刺すとパクリと半分食べて沢田に突きつける。

「代わりにちくわを半分くれてやるぞ。」

「…ありがとう?」

疑問符をつけながらも先輩の食べ掛けのそれに食いつくと、小首を傾げながらもぐもぐと咀嚼していく。
嫌がる素振りもない。
なんとなく納得できなかったオレはおでんの鍋から卵をひとつ取り出すと半分齧り付いてから沢田に差し出した。

「そんなに食べたかったならこれを食べるか?」

「え…嫌。っじゃない、いいよ。」

差し出した卵を握る手をそっと押し戻されてショックを受ける。
先輩とオレとどこが違うというのか。沢田への態度という点ならば決して先輩ほど酷くもなければ嫌味も言ったことなどないというのに。
納得できずにもう一度差し出すと、今度は先輩の手が伸びて無理矢理口に押し込められた。

「てめぇの分はてめぇで食え。」

「分かりました…」

納得いかないことだらけだ。






おでんが底を付くと今度は飯が食いたくなったと言い出した先輩に、言動を把握していたオレはキッチンにおにぎりを作りにしぶしぶ足を伸ばした。
するとひょっこり沢田が後ろから現れてオレからしゃもじとご飯を取り上げる。

「オレが握るよ。中身はこれでいいのかよ?」

「あぁ…あと、塩昆布もあるが、」

「あ、オレ塩昆布にしよう。」

そう言って炊飯器からご飯をよそうとまずは明太子から握り始めた。
手馴れているのかあっという間に3つ握り終えたところで先輩が顔を出す。

「貰ってくぞ。」

「ん、明太子とツナマヨ2つでよかったんだよな?」

「ツナマヨは外せねぇだろ?」

「そっかな…塩昆布と梅は基本じゃないの?」

「分かってねぇな。」

「そっちこそ!」

今度はおにぎりを挟んで第3ラウンドの始まりのようだ。
勿論オレは犬も食わないなんとやらを放って、自分のおにぎりを握るとため息を吐きながらその場を後にした。

.







人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -