リボツナ4 | ナノ



ここまで周りにばれてるってある意味すごい




気の抜けた声がドアフォンから聞こえ、すぐに玄関を開けるといつ櫛を通したのかと訊ねたくなるような鳥の巣にも似た茶色い髪の毛が現れた。
ここ数日でやっと朝晩の気温が下がり、過ごしやすくなった外からの風が沢田と一緒に入り込む。
沢田を見れば、手には炭酸飲料とアイスが入った袋を掲げていた。

「やっぱおでんだけじゃ飽きるかと思ってさ。」

「それはいいがおでんに炭酸か?どうせ炭酸ならアルコール入りのにして欲しかった。」

「馬鹿言うな!未成年は飲酒禁止だよ。」

沢田から手渡されたアイスを冷凍庫にしまい、2つのコップに氷を入れてリビングのTVの前のテーブルに置く。

見た目だけでいえば沢田の方が余程未成年に見える。これで大学を出ているというのだから人は見た目で判断してはいけない。
この就職難にいかにもトロそうな沢田はついていけなかったのだろう、コンビニの店員をしながら求人を探す日々だと言っていた。

手洗いを済ませた沢田がいつもの指定席を陣取りつつ、温めなおしたおでんに齧りついた。
どうしてだろう、ウインナー巻きがいやらしく見える。
ハフハフと口を広げながら食いつく沢田をじっと見詰めていると、それに気付いてペットボトルを差し出した。

「ま、炭酸でも飲みなって。」

「…どうも。」

立場が逆の気もしなくはないが、沢田にかかるといつもこんな調子だった。如才がないという訳ではなく、気が削がれるとでもいうのか。
注がれた炭酸飲料に口をつけならが、100インチという大画面のTVでロードショーを見ている沢田の頭に声を掛けた。

「あんた、先輩がおでん買ってたのに無視してたんだ?」

「…て、ない。」

「はぁ?」

TV画面を向きながらのせいで声が聞き取れなかったオレが聞き返すと、今度はしらたきをバラしながらこちらを振り返って言った。

「無視なんかしてないって言ったの!仕事だし、よそってやろうとしたらリボーンのヤツなんて言ったと思う?」

「なんて言ったんだ?」

そう訊ねると、思い出したせいか顔を赤らめてしらたきをすすり出した。

「ずずずっ…んぐ、のヤロウ、むぐむぐ…『お前みたいな不器用なヤツがよそったら全部零れちまうんじゃねぇか』って!嫌味なヤツ!」

だから自分でよそえばいいと無視していたらこうなったという訳か。
平たくいうと先輩の自業自得ともいえる行動に頭痛がしてくる。

「だってその時オレ以外の店員がいたんだ。その子が手を出そうとしてもいらないって。だからオレは悪くないっ!」

最近ではあからさま過ぎる先輩の態度に、沢田のいる時間帯には女性店員ですら先輩に声を掛けようともしない。
コンビニ以外では引く手数多、フェミニストだ、現代の光源氏だと名高い先輩がだ。
どれだけ沢田以外、視界に入ってないのか分かる。

今度は卵に手を伸ばした沢田が、ぴたりと手を止めてはんぺんに箸を突き刺す。ふんわりしたはんぺんが箸によって形を歪める姿は何故か痛々しい。

「もう、あいつなんなんだよ。どうしたいんだか分からないよ…」

男のくせに零れそうな大きな瞳を伏せて呟く沢田に掛ける声もない。
できることなら言ってしまいたいが、如何せん先輩本人には自覚がないのだからそんなことをしたらお節介を通り越して迷惑だろう。
そもそも、沢田は男にいい寄られて嬉しいのかどうかすら分からない。

はんぺんに齧りついた沢田がもそもそと咀嚼しながら俯いていると、恐怖の着信音が聞こえてきた。
イヤイヤながらも携帯に手を伸ばし、メールの確認をすると…

「ゲッ、今から酒持って来るって書いてある。」

「誰が?」

「…先輩が、」

言った途端に沢田が立ち上がる。そこまで嫌われてるのかと少し不憫に思っていれば、慌てた様子で玄関へと沢田は向かう。

「そこまで慌てなくてもいいんじゃないのか?」

「いいや!長居するのは悪いって思ってたから!じゃ!」

口の中ではんぺんをもごもごさせたまま、靴に足を突っ込むとくるりと振り返ってオレに別れを告げる。
近所で鉢合わせすることも嫌なんだろうなと分かる勢いで沢田が玄関のドアノブに手をかければガチャリと扉がひとりでに開いて驚いた。

「なんだ、どうして玄関に…」

「ひぃぃい!」

間の悪いことに玄関で沢田と先輩が鉢合わせしてしまった。
表情が固まる先輩と、それを見て悲鳴を上げる沢田を前にして神を恨んだ。どんなタイミングだ。オレはそんなに悪いことをした覚えはない。
すぐに状況を判断した先輩はクールな表情が素敵と評判の顔をにやりと歪めて沢田に近付いた。

「どうしたんだ、コンビニ店員の沢田さん?そんなに慌てて逃げ出すから口になにか付いてんぞ。」

「ふへ?」

躊躇いなく伸ばされた先輩の指が沢田の上唇の白いはんぺんに伸びてすいっと掬い取るとそのまま口に入れてしまう。
どこの新婚さんかバカっぷるだと顔を引き攣らせていれば、沢田は気付いた様子もなく手で口を拭うと先輩を睨み付けた。

「勝手に食うなよ!うちの店の美味しいおでんだぞ!」

「バカ言ってんなよ。オレが買ったんだ、オレが食って何が悪い。」

イヤイヤイヤ。論点がずれている。
買った買わないではなく、どうして沢田の唇についたものを食べたのかだろう。
しかも沢田は嫌がりもしない。
何だこの言い知れない虚脱感は。

相手にするだけ無駄なんじゃないのかと、やっと悟ったオレは口喧嘩を繰り広げている2人を玄関に置いたままリビングへと踵を返した。

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