リボツナ4 | ナノ



2.




学校の行事というのはとかく朝早くから始まることが多い。
オレの通う高校もやはり準備だなんだとまだ早朝と言われる時間に生徒を集めては自主性という名の下に教師が行事を丸投げしていた。

生徒会なんてものとは無縁でいたかったのに、権力を自分勝手に奮いたいリボーン先輩により無理矢理入らされた上に行事の度に起こしに来いと時計代わりにされていた。

あんたどこまで自分勝手なんだと毎回毎回たて突いても、結局は身に付いた悲しい上下関係に逆らえずにこうしてリボーン先輩の家の前に佇むことになっている。

知りたくもないが、勝手知ったるなんとやらで合鍵を隠してある場所を探るも見当たらない。
どうやって開けろというのか。エスパーのように物質移動もできないんだぞ…と文句を腹の中で零した。

そういえばひとつ下の学年に怪しい生徒がいると聞いたことがあった。
なんでもいつもフードを被っていて、男なのか女なのかさえも不明らしい。
その上サイコキネシスとかいう胡散臭い力で探し物をしたり、物質を移動させたり出来るのだとか。

それを聞いたリボーン先輩がどうにか生徒会に入れたいとか言っていたような…。
いや、今はそんなことはどうでもいい。
どうやって鍵なしで起こそうかと悩みつつも一縷の望みをかけて玄関のドアノブに手をかけるとガチャという音を立てて開いてしまった。

「無用心だな…」

「あら、何が?」

「って、うわぁあ!」

リボーン先輩の父親は仕事に追われて一年の大半を海外で過ごしている。
だからかれこれ8年にはなる長い付き合いの中でも数度見たきりだったので、まさかこの家にリボーン先輩以外の人がいるとは思ってもみなかったのだ。

玄関のあがりばなで小首を傾げる年若い女性は、けれどいつもの火遊びの相手とは雰囲気が違う。
どういうことだと焦っていると、相手の女性があらあら?と声を弾ませて訊ねてきた。

「リボーン君のお友だちかしら?初めまして、新しくリボーン君のお母さんになった奈々です。」

「おか、お母さん…?!」

にっこりと微笑んだ顔は以前一度だけ会った綱吉少年とそっくりだった。
それにしてもこれでお母さんとは。
若すぎだろうと目を見開いて固まっていると、よかったら上がっていってねと声を掛けられた。

「お邪魔します…じゃない、起こしてきます!」

「まぁ、わざわざリボーン君を起こしにきてくれたの?それなら私に言えばいいのに…やっぱりまだお母さんって思ってくれないのかしら。悪いけどお願いできるかしら?」

「はいっ!」

「えっと…」

「スカルです。」

「スカル君ね。スカル君、よろしく。」

こんなに若くて可愛ければお母さんなんて思えないのは当然だろうと思いながらも、任せて下さいと頷いた。

それからいつものように2階にある先輩の部屋へと上がると、トラップが仕掛けられていないかを慎重に確認する。
眠りを邪魔されることが嫌いな先輩はオレが起こしに来ることを知った上でトラップを仕掛けていた。

だったら起こさなければいいと思われそうだが、起こさなければその後が地獄を見ることになるので言うことは聞く方が身のためなのだ。

辺りをよく見渡してみたが、それらしいトラップが見当たらない。どうしてだと考えて、そういえば奈々さんが居るからかと思い至った。

身勝手で傍若無人な先輩でも一応の配慮くらいは出来るらしい。
そう思い先輩の部屋のドアノブに手を掛けると頭の上からタライが落ちてきた。

「昭和のコントか!?」

クラクラしながら部屋に踏み込むと、今度は水鉄砲に迎え入れられた。

「っ!先輩、起きて下さい!あんたのせいでオレは制服がびしょびしょですよっ!一旦着替えに戻りま…な、えぇぇえ!!?」

いつものように寝起きのいい先輩が今まで寝ていたとは思えないような顔つきでベッドから起き上がってきたところで、オレは大声を上げた。

先輩の寝起きのよさに驚いた訳でもなければ、過ぎる悪戯に度肝を抜かされた訳でもない。こんなのはいつものことだ。
それではなく、問題は先輩に張り付いている少年の方であった。

一度だけ会った時に寝癖なのか癖毛なのか判断のつかなかった髪の毛はどうやら癖毛で間違いないらしい。
今はリボーン先輩の腕に張り付いたまま眠っている綱吉少年の髪は下になっていただろう方向とは逆に逆立っている。
そんな寝顔も天使だとうっとりしかけてハッと気付いた。

「ああああんた!とうとうヤっちまったのか!?こんないたいけな少年に手を出したら犯罪だ!淫行罪で掴まるだろう!」

オレの絶叫に煩そうに眉を顰めた先輩は、オレの視線の行方を追って自分の腕張り付いている綱吉少年を見下ろした。

「………」

たっぷり2分は無言でいた先輩は、切れ長の黒い瞳をまん丸にしてオレと綱吉少年とを交互に眺めている。
その様子にまだ未遂だったことを知ってホッと胸を撫で下ろすと、うろたえた先輩の声が聞こえた。

「なっ!?どうしてツナがここにいるんだ?」

先輩の大声とオレの悲鳴にやっと目を覚ました綱吉少年は長いがまばらな睫毛をパチパチと瞬かせて先輩の腕にぎゅうとしがみついた。

「ブッ!」

可愛らしい寝起きの仕草にリボーン先輩とオレは思わず出てきそうになった鼻血を押えることでどうにか噴出すことは抑えられた。

そんなオレと先輩の様子など分からないらしい綱吉少年は目を擦るとやっとその大きな瞳をぱっちり開けてからリボーン先輩の顔を見上げた。

「おにいちゃん、おはよう!」

「おはようだぞ、ツナ!」

「って、ヤメロヤメロヤメロ!それ以上は犯罪だぁぁあ!!」

がばっと綱吉少年の上に覆い被さっていった先輩の背中に絶叫すると、急いで先輩を引き剥がしにかかる。
こんな小学生男児相手に何を朝から盛っているんだ!
マジで警察に突き出してやりたい。

どうにか先輩を綱吉少年から引き剥がすことに成功したオレは、チッと不機嫌に舌打ちする先輩から目を逸らしたまま綱吉少年へと問いかけた。

「おはよう、綱吉。オレを覚えているか?」

「うーんと、パシリさん!」

「違うっ!オレはパシリじゃない!!じゃなくて、スカルだ。」

「スカルさん?」

くくくっと低い笑い声が聞こえるところをみると、どうやら先輩がそう教えたらしい。
さすが人でなしだ。
ではなくもうひとつ聞きたいことがあった。

「綱吉はどうしてこんなケダモノと一緒に寝ていたんだ?」

「けだもの…?果物の仲間??えっとね、お母さんがこのおウチに来たら一人で寝なさいって言ってベッドを買ってくれたの。だけどこのおウチは慣れてないから怖くて…」

どうやら母親のところに潜りこめずに先輩のところに潜りこんできたらしい。
それにしても先ほどのトラップをよく通り抜けられたものだ。

感心しつつもその選択はよくなかったと教えていると、先輩の肘が鳩尾に決まった。
綱吉少年から見えないように上手に入れた肘にオレが崩れ落ちていくと、先輩はよしよしと綱吉少年の頭を撫でる。

「そうだな、まだ昨日越してきたばかりだからな。しばらくはオレと一緒に寝るか?」

「いいの?」

「ママンには内緒でな。」

会話だけなら心温まると言いたいところだが、如何せん先輩の顔はにやけきっていて疚しい心根が透けて見える。

床に手をつきながらもどうにか顔を上げると綱吉少年をリボーン先輩から引き剥がした。

「誰が許してもオレと法律は許さない。ショタコンは立派な犯罪だっ!」

ビシッと指を突きつけてやると、理性が戻ってきたらしい先輩が固まっていた。

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