2.また何かお説教が始まったなということだけは分かった。 まあいいやと流そうとしたのについ反応してしまったのは逆らいがたい眠気によってつい零れ出た本音というヤツだ。 だけどリボーンは取り合ってくれない。 分かっていた話だ。今更どうなることもないだろう。 そう思うと益々バカらしくなってそのまま瞼を閉じて柔らかなシーツの波に吸い込まれていった。 3日ぶりの睡眠。しかもベッドの上に転がって、横には気心の知れた人物がいて。 寝るなという方が酷だと思う。 だからこそ3日ぶりの休息に身を委ねていればネクタイをぐっと上に引かれた。 苦しさにしぶしぶ瞼を上げると、ギシッと音を立ててオレの横に膝をついて覗き込む気配がする。 「…このままだと締まるぞ。」 「んー…もう、どうでも、い…」 このまま寝かせて欲しいのだとさっさと瞼を閉じてしまうと、ため息にも満たない何かを吐き出してオレのネクタイの結び目に指を差し込んだ。 ぐっと一瞬だけ締まった首がすぐに解かれて知らず吐き出した息を聞いてか、一番上のボタンを外しにかかる指の心地よいリズムに意識が遠退いていく。 ガチャガチャと音を立ててベルトが外されていくとなにを思ったのか肌の上にリボーンの唇が落ちてきた。 チリッとした熱を伴う痛みに知らず声が漏れると、誘われたとでもいうようにもう一度肌に吸い付かれた。 手の早いリボーンのこと、この行為に意味などないことを知っている。気まぐれと傲岸不遜に服を着せたらこうなったという見本のような男だ。 10年経った今でもボンゴレにいついてくれているのは気まぐれに他ならない。 引く手数多の世界一のヒットマンをいつまで独占していられるのか、それは誰にも分からない。 師弟という立場が横たわるからこそこうして気安くしていられることを知っていた。 愛人だ恋人だと口煩くお説教を垂れるリボーンの言葉を取り合わない理由がそこにはあった。 けれど言える訳もない。 剥かれたままのシャツの上で舌打ちをするリボーンの苛立ちを耳にしても閉じた瞳を開ける気はおこらなかった。 家族同然で過ごしてきた日々。それより少し短い時間をボスとヒットマンとして過ごした。 支えてなんてくれるほど優しくはなかったし、今思えばそれでよかったのだと分かる。 このボンゴレという巨大組織の傀儡に成り果てなかったのは、ひとえにリボーンのスパルタという名の拒絶があったからこそだった。 常に一歩先を見通すリボーンに尻を叩かれ、甘えることを許されず歩かされてきた道。 戻れないそこに突然落とされてからずっと、気が付けばオレの前にいてくれた。 好きとか嫌いとかそんな生易しい感情とは別の、ドロドロとした独占欲が顔を覗かせはじめたのはいつだったか。 どうすればリボーンがオレから離れなくなるのかとそんなことばかりを考えるようになってから、ひとつ気付いたことがある。 苛立ちを飲み込んだリボーンが、またもオレの身体に唇を落としてくる。それを嫌がるように横を向いてリボーンの頭を押さえて呟いた。 「もう止めろって。何されても起きないよ、3日ぶりの睡眠なんだよ。寝なきゃ死ぬって…」 「うるせぇ。こんな時に癒してくれるのが恋人なんだぞ。」 知っている。それをオレに押し付けようとしながらも本心では嫌悪していることも、だからといってリボーン本人は名乗りをあげてくれない理由も。 知っているからこそわざと言いたくなった。 「ふうん。ならオレにはいらない。だってリボーンがいるからさ。」 「なっ!」 言葉を詰らせたリボーンを置いてまた遠ざかるままに意識を手放した。 口では冷たいことを言いながらも、その実リボーンは最後までオレを見捨てることができない性分なのだ。 だからまだボスとして不安の残るオレから離れられないでいる。 なにかを呟いた声がどこかで聞こえたが、それを聞き返す術をオレは持たなかった。 . |