6.オレの仮面を覆い隠すように後頭部にリボーンの腕が周り、焦りを覚えたところで唇を押し付けられた。 2度目となるそれも突然でしかも今度は逃げ出すこともできない。 ブルブルと震えているのは羞恥と怒りのためだ。 そんなオレの事情を知っているリボーンは、重ねた唇をずらすと悪戯するようにオレの唇を啄ばみはじめた。 逃げたい。というよりド突き回したい。 しかし逃げれば仮面をつけているせいで風紀委員たちにバレ、仮面を外せばこいつに正体がバレる。 どちらに転んでもオレのお先は真っ暗になることだけは間違いない。 リボーン後で殺す!と呪詛の言葉を心で唱えながらされるがままに身体を強張らせていると、肩に回されていた手がすっと背を伝い腰へと落ちていく。 軽く啄ばんでいた唇がぴったりと重なり合うと、腰を抱いていた手がもぞもぞと妙な動きをはじめた。 「ん、んンっ!」 咄嗟に止めろと抗議の声をあげようとしたところにぬるんと何かが口の中に入り込んできて塞がれてしまう。 後頭部を掴む手に力を込められて顔を逸らすことすら出来ない。焦るオレを無視して中に進入してきたそれが歯列を割るに至ってやっとリボーンの舌だと分かった。 風紀委員たちを後ろに貼り付けたままの行為に赤らむ頬と沸騰しそうな心中を抱えたまま、それでも抵抗をしようと振り上げた手がスカートの裾を割って内腿を撫でられることに震えて力をなくす。 背中から注がれる視線を感じて、羞恥と怒りとそれから認めたくはないが気持ちよさとに身体が凍り付いたように動けなくなった。 押し返すつもりが縋るようにリボーンの腕のシャツを握っていると、ちょっと、と冷たい声が後ろから聞こえた。 「君たち、ここをどこだと思ってるんだい?…噛み殺すよ。」 覚えのあるフレーズに霞がかっていた意識が浮上して、一気に現実へと引き戻された。ザァーと血の気が引く身体をリボーンに抱きとめられてホッとしてからまた気が付いた。そんな場合じゃない。 なのにリボーンはオレの頭と腰を自分の身体に抱き寄せると、やっと唇を離してから顔を上げた。 「どこもなにも、てめぇら風紀委員の犬どもが妙な女を見なかったかと煩ぇから見ていられなかった訳を教えてやっていたところだぞ。」 不敵に笑う顔が容易に想像できる口調での言葉を頭の上から聞いて、ドキドキと煩い心臓を叱責する。飛び出してきそうな心拍音は後ろで殺気を迸らせている風紀委員長のせいでもなければ、自分の正体がバレそうだと焦っているためでもない。 本当に女の子にでもなったかのように大切に抱き留められている腕があまりに暖かくて、心強くて、こいつは安心できるところなんかない筈なのに安心できるようなそんな気がして困った。 本当にオレと同い年なのかと思うような広い胸板にぎゅっとしがみ付くと後ろからシャキンという金属音が聞こえて慌てる。 「…どうにも君はいけ好かないね。どう調べてもなにも出てこないことが怪しいよ。」 「調べさせて分かることなんざ世の中には少ねぇんだぞ。調べたきゃ、自分で調べるんだな。」 言うと抱き締められていたオレを離して前に回りこむとオレの顔を見せないように背中に庇った。 その行動にフェミニストという言葉が浮かんだが、それを否定するように風紀委員長がトンファーからジャラリという音を響かせて玉鎖を振り回しながら呟いた。 「ふぅん…いつもと違ってその子はよっぽど大事なんだね。どうでもいいけど、それで君が本気になってくれるならね。」 ビュン!と真横に飛んできた玉鎖を懐から取り出した黒いなにかで叩きつけるともう片方の腕も握っていたそれからパン!とタイヤが破裂したような音が響いた。 驚いてリボーンを覗き込もうとしたところで抱きかかえられ、開いていた窓に足を掛けると躊躇いなく飛び降りていく。 オレ一人ならば死ぬ気の炎の逆噴射を使えば平気だ。だがそれすら封じられたままで3階から落下するリボーンは、オレを抱えていることもものともせずに隣の校舎の屋上に飛び移ると何事もなかったようにオレの顔を覗き込んだ。 「平気か?」 「へい、き…だけど、」 お前は誰だと口に出しかけたところを他の風紀委員たちが現れて邪魔をする。 「行け。お前だけなら平気だろう。」 そう言うと制服のズボンのポケットから丸いなにかを取り出してそれを思い切り屋上の床に叩きつけた。 ただでさえ夕方の一番視界が悪い時間帯である。そこに煙幕を張られ、右往左往する風紀委員たちをチラリと見ながらもどうにかその場から逃げ切ることに成功した。 リボーンがその後どうしたのか、オレは分からなかったけれど。 女の子の制服姿で家に帰りついたオレを待ち受けていたのは、3年ぶりに姿を現した父さんとそれから… 「はじめましてだな、綱吉。」 「ハジメマシテ…」 金髪碧眼とくれば外人さんだ。どう見ても外人さんだ。 少しくすんだブロンドに深い青は晴れ渡った青空のようで、だけど妙に既視感がある。どこでだろうと思わずその顔をぼけーっと眺めていると、同じようにオレをじっと眺めていた外人さんがマジマジとオレの足元を見て呟いた。 「綱吉は男の子だと聞いていたのだが、女の子だったのか?」 「え…?あ、これは!」 母さんは父さんの妻である上にオレの母さんでもある。つまり多少のことでは動揺しない鋼の心臓を持ち合わせてるのでこの格好で帰っても驚きこそすれ心配されることはないだろとタカを括って帰ってきてしまった。 「ち、違います!これは、あの…ちょっと事情があったっていうか…!」 急に自分の格好が恥ずかしくなってモジモジとスカートの裾を下げていると、父さんが外人さんの横でうーんと唸り声を上げた。 「ツナ、スクール水着よりマシだがその解けたリボンと胸元まで開いたシャツはどう見てもエロい!いかん!いかんぞ!」 「オレ男だよ!エロくなんか…って、なんで父さんがスク水のこと知ってるの?」 慌てて掻き合わせた胸元を握りながらそう叫ぶと、父さんはしまったという顔をして視線を泳がせた。 スク水に仮面姿になったのは今日で3回目。しかも学校でだけだ。 どういうことだと父さんを睨んでいると、父さんの隣に座っていた外人さんが口を開いた。 「色々と話さねばならない時期なのだろう。リボーンも呼んだ。」 突然リボーンの名前が出てきて慌てて外人さんの顔を見る。 「オレの名はジョット。君の遠縁にあたる。」 「………は?」 短いスカートの端を掴んだまま、その綺麗だがどこか見覚えのある顔をただ呆然と見つめた。 . |