9.ツナとこの9代目を見た後では尚更悪魔に相応しい表情で現れた男は、ツナの手を握ったままのリボーンを視界に入れると間髪入れずに弾丸を撃ち込んできた。 照準ははっきりリボーンだけを狙っていた。 その意味も分からないままリボーンはツナの手を引いて床を蹴ると後方へと着地する。 慌てたツナが翼を広げたが間に合わずに尻からベシャっと落ちていった。 「イテテ…」 こちらへ戻ってきたということは今まさに体力ゲージはMAXの筈だ。なのに受身ひとつ取れないツナに、憤怒の表情を浮かべる男はカスが!と吐き捨てる。 「てめぇみてーな甘ちゃんに、この悪魔界が仕切れるものか。素直にオレの嫁になればいいものを…てめぇ、そのガキは何だ!」 どうやらツナと男は知り合いらしい。しかも自分と同じことを考えていると知ったリボーンは表情を変えずに男を無言で見詰めていた。 そんなリボーンの異変にも気付かぬままに、ツナは男の問いかけに小首を傾げながら答える。 「へ?リボーンのこと?」 「リボーンだぁ?ふざけるなっ!!そのガキを生んだ人間の女共々屠ってやる!」 「って言われても、」 男の怒っている意味が分からないツナは、どう誤解を解こうかと視線が彷徨う。 そんなツナと男を見ていたリボーンは、この状況のあらましを把握することが出来た。 「という訳なんだよ、リボーン君。」 「成る程?あのバカでかい魔力はてめぇのそれとよく似てるな、爺さん。」 「それまで分かるのかい?」 苦笑いを浮かべた9代目がそうリボーンに話し掛けていると、ドスン!と弾が足元に飛んできた。 「カッ消す!」 「消せるもんなら消してみろ、この横恋慕男が。」 蔑みの目で言い切るリボーンに照準を合わせたザンザスがリボーンに向かって床を蹴り上げると同じくして、リボーンも床を蹴り上げた。 空中で金属と金属がぶつかり合う音が響くと、次の瞬間ガン、ガン!と2つの銃声が聞こえて2人は床に膝をついた。 静まり返る室内にドスンと倒れる音が響き渡ると、いっせいに悲鳴と怒号に覆われた。 その中を悠然と立ち上がってツナへと歩き出したリボーンの姿を視界に入れた男の部下とおぼしき男どもがリボーンの背中目掛けて剣を下ろす。 「慌てんな、ガキ。てめぇらのボスは殺しちゃいねぇぞ。そんなにツナが欲しけりゃいつでも相手んなってやるって伝えとけ。」 「なにぃぃ…!」 それだけ言うと腰まで届く長い銀髪の剣士の振り下ろした剣を止めていた銃を自分で蹴り上げる。 それにバランスを崩した剣士が後退り、体勢を立て直した頃には小さい後姿はツナの元へと歩き出していた。 「リ、リボーン!!」 「どうした?なに泣きそうな面してやがる。っと、オイ!」 銀髪の剣士を無視したままツナの横にまでくると、大きな瞳が滲み始めてそのままポタリと雫が落ちた。 「…うっく!だ、て…ザンザスと、やりあったヤツは…大抵殺されちゃった、から…ひっ…ううっ…リボーン、こ殺されたらどうしよ、って、」 「バカ言ってんなよ。あんなひよっこにやられるほど弱っちゃいねぇぞ。」 「う〜っ!」 感極まってリボーンに抱き付いてきたツナは、けれど赤ん坊姿のリボーンだということも忘れて全身全霊でしがみ付いた。 ぎゅうぎゅうと締め付けられる感覚に、痛さを覚えたリボーンだったがボロボロと泣き崩れるツナの情けない顔に免じて口に出すのは止めてやった。 そこは雑踏と人垣を縫って奈々とイエミツが現れた。 イエミツはツナとリボーンの抱擁というより人形遊びのような姿に苦笑いを浮かべていたが、奈々はにっこりとリボーンに微笑みかけた。 「リボーン君、うちのツッ君をよろしくね?」 「…この姿のままでか?」 「ふふふっ…困るかしら?ならツッ君のほっぺたに口付けしてみて。」 「こうか…?」 泣きじゃくるツナの頬にかかっていた髪を小さな指で掻き上げると、少し高揚したせいで赤く染まった頬に唇をくっ付ける。 するとリボーンの身体が輝きはじめ、そしてその光がほんのわずかに膨らんだ。 瞬く間だったのか、それともしばらくだったのか。それすら分からないままやっとツナの頬から唇を離したリボーンは、自分の手がわずかに大きくなっていることに驚いた。 「どういうことだ…」 「びっくりしたかしら?それはね、ツッ君がリボーン君のことを本当に好きだと思ったときだけに起こる奇跡なのよ。」 そう語り始めた元天使長は、ツナの腕からリボーンを抱き上げるとすりすりと頬擦りをする。 それに慌てたのはツナとイエミツだった。 「母さん…!!」 「奈々ぁ〜!」 「もう、2人とも情けない顔しないの。いいじゃない、ちっちゃい子なんて久しぶりなのよ。ね、リボーン君?」 お茶目にウインクをしてみせる奈々に、先ほどザンザスを倒したとは思えないほど情けない顔で目の前の顔を見詰め返した。 「っつーことはだ。これはツナがオレにメロメロになるまでこのままってことなのか?」 「正解〜!」 得意気に微笑む奈々を見て、リボーンは眩暈を覚えた。 先ほどより少し大きく育ったリボーンは、赤ん坊というより幼児に近付いている。 けれど元の姿には程遠い。 つまり、元の姿に戻りたければツナをその気にさせなくてはならない。けれどいつものお色気は封じられた。 元よりツナにはエロース姿の自分は逆効果だと分かっていたが、これではツナにとってのみ美味しい状況になったのだと気が付いた。 「ふむ、それは一石二鳥。」 と9代目が後ろから声を掛けてきたことで、ツナの周りにも都合がいいのだと知れた。 「…全部ジジィの差し金か?」 「いいや、こういう運命なんだろう。」 さすが地獄ということか。 . |