リボツナ4 | ナノ



8.




どろろん、という効果音と共に深い霧の中から現れたのは柔和そうな表情の老紳士だった。

手にはステッキを抱え、どうしてか人間界のスーツに身を包んだ老紳士はそのステッキをトンと地面に押し付ける。
するとその場に居た全員が瞬時に移動させられて、玉虫色に輝く床の上へと放り出された。

高い天井に広いその場所は王の間というべき場所だろう。
9代目とその9代目によって連れてこられたツナ、リボーン、イエミツ、奈々、ゴクデラの周りには今にも襲い掛かりそうな衛兵がジッとこちらを睨みつけていた。

そんな周囲にお構いなく、赤ん坊姿のリボーンを腕に抱えていたツナは咄嗟のことでバランスを崩してその床の上に尻餅をついた。
しかしツナ以外は即座に体勢を立て直していたために、床の上に降り立つことが出来ていた。

あまりのダメっ子ぶりに、こいつは悪魔界だろうが人間界だろうが変わりないのだと気付いたリボーンは、目の前で顔を歪めるツナにひとつ大きなため息を吐くと、そんなツナを優しげな表情で見詰める老紳士へと向き直った。

「ジジィが総大将って訳か…?」

「そんな大したものじゃない…私はただ、この悪魔界の秩序を見守る爺さんだよ、神様。」

チッと小さく舌打ちしたリボーンはツナの腕から抜け出すと、まだ情けなく尻餅をついたままのツナに手を差し出して腕を引っ張り上げた。

短い腕が忌々しいが力は以前と変わりがない。
そんなリボーンの腕の力に引き摺られたツナは、リボーンの横に膝をついたまま老紳士に向き直った。

「あ…ただいまです、9代目。」

「お帰り、ツナヨ…いやツナ君。」

言いかけて止めた名前が気になりはしたが、今はそれ以上に気になることがある。
辺りをぐるりと見渡せば、驚いた表情の悪魔たちがこちらの様子を窺っていた。

屈強に見える大きな体躯のいかにも地獄の門番といった風情の者から、ひょろっとした優男風のツナくらいの子供のような者まで多種多様な悪魔が控えていた。

分が悪いことを悟ったリボーンは腹を決めて目の前の老紳士を改めて眺めた。

「ようこそ、リボーン君と言ったかな?ツナ君のお婿さん候補としてはなかなか問題がありそうだが歓迎するよ。」

「ちょ、何バカなこと言っちゃってるんですか?!そもそもオレは男ですってば!!じゃなくて!こいつ神様なんですよ!??」

よもや9代目こと悪魔界の王までリボーンのことを認めてしまいそうで、慌てて否定すると横から紅葉のようなお手々がブンと飛んできた。

「ふおぉっ!!」

「てめぇが悪魔だろうが何だろうが構わねぇっつてんだろうが。四の五の言わずに嫁いでこい。」

ツナの尻にひとつ張り手を入れてやると、ぴょんとひとつ飛び跳ねたツナは尻を抱えて蹲る。
それを見ていた9代目はその表情に苦いものを混ぜてリボーンに視線を合わせた。

「そこが問題なんだよ、リボーン君。」

コツンと音を立てながらリボーンへと近付いてきた9代目はステッキで自分の身体を支えながら立ち止まった。

「オレには問題はねぇがな。」

「いいや、君も奈々さんによって問題が発生しているだろう?」

「フン、これくれぇどうってことねぇぞ。」

痛いところを突かれたリボーンは、それでも認めずに鼻を鳴らすとそ知らぬ顔で9代目を睨みつけた。

「そうかもしれないね。しかし、その術は条件を満たしていかなければ解かれることはないようだよ。」

「…それは勘か?」

「そう、代々伝わる勘だ。」

はっきり言い切った9代目の言葉に鋭い舌打ちを漏らしたリボーンはチラリと横に座り込んでリボーンを眺めるツナに視線をやった。

呑気そうなぽやんとした表情からは自分の置かれている立場を理解していないことが窺えた。
こんな昼行灯が次代の悪魔界の王だといわれてもピンとくる筈もない。

けれど内包されている力はこの中の誰よりも深く力強い。
ずっと自分と共に在れるだけの力を有するツナは、その力を表に出せない性格なのだとも知れた。

深い、深いため息は吐き出すと、こちらを黙って見続けていた9代目を振り返る。

「で?オレに何をしろってんだ。」

仕方なくそう切り返すと、まるで本当の老紳士のような暖かい優しい表情を浮かべた。

「気が付いているようだが、ツナ君は自分の力を外に出さないようにストッパーが掛かっているようだ。それを外して欲しい。」

あっさりと難しいことを口にした9代目を再び睨みつけると、辺りに静寂が訪れる。
事は重大で且つ深刻なのだろう。

誰かの唾を飲み込む音さえ聞こえそうな中、ひとり意味も分からずキョロキョロしていたツナは、擦っていた尻から手を離すと羽をしまいリボーンへとにじり寄ってきてからちょこんと横に座り込んだ。

「リボーン?」

ツナにそう声を掛けられてもリボーンは振り返ることなく9代目を見上げる。

「チッ…そんな話に乗ると思うか?」

「乗る、乗らないではなく、ツナ君と共に在るつもりならばそれは絶対条件ではないのかな?」

優しい声色ながら有無を言わせない響きを持つ言葉に、珍しくリボーンが声を詰らせた。

「神との婚姻は前例がない訳でもない。ただし悪魔界を放っておかれるのは困るよ。彼はこの世界を統べる王となる人物なのだからね。」

互いに視線を逸らさず向き合っていれば、その間を縫うように爆音が響き渡った。
王を警護する悪魔たちを吹き飛ばしながらその場に辿り着いた男は、傷だらけの顔に2丁の拳銃を手にしながら低い声ではっきりと宣言をした。

「この悪魔界はオレが統治する。そこのガキの首を差し出せ、カスが!」

9代目の養子であるザンザスとその精鋭部隊が広間を占拠した。


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