リボツナ4 | ナノ



6.




「本当に平気なの?」

「あぁ、生半可な天使じゃくたばっちまうがオレはどうってことねぇ。」

「そう…」

ツナの腕の中にちんまりと納まるのは見た目だけは可愛い赤ん坊。勿論リボーンである。
あれからどうした訳か猥褻物…もとい、エロースに戻ることはなくそのまま魔界に着いて来たリボーンは、意外や大人しくツナの腕の中にいる。

置いていこうとしたツナを赤ん坊姿で落とし、それからゴクデラを服従させての来訪だった。
赤ん坊姿でいることに不満などないツナではあるが、それでもリボーンを魔界に連れて帰るのはいささかどころかかなり不安である。
何をしでかすか知れないというだけではなく、天界の住人には魔界の瘴気は毒なのだと聞いたことがあるからだ。

ツナの胸にぴったりと寄り添うリボーンに不安げな視線を投掛けると、それを感じたリボーンがまん丸お目々でツナを見上げた。

「てめぇが死にそうな面になってんぞ。」

「だって…」

キューピットの矢に射られる前からこの姿のリボーンにメロメロだったのだ。人間界の瘴気の薄さに力の源が尽きかけたからこそ魔界に戻ってきたとはいえ、それでリボーンが弱ってしまったらと思うと心配でどうにかなりそうだった。

やっぱり戻ろうと言い掛けたその時、魔界の門を越えてすぐそこにある赤い色の血の池のほとりに覚えのある魔力が現れた。
雷鳴が鳴り響く中、突然姿を見せたのはツナの父である悪魔界でその名を知らぬ者はいないイエミツだった。

いかつい顔に立派な体躯を持つイエミツだが、愛妻家の上に子煩悩な親バカであることも知られている。
そんな父親の登場にゲッと呟いたツナは背中の羽を広げると一目散に逃げ出そうとした。

「ツナァーー!やっぱりツナだったな!この気配はそうだと思った!!さあ、おいで!パパの広い胸に!」

「ぜったいイヤだっ!」

リボーンを抱えたまま門の外へと飛び出したツナを覆うように黒い霧が包んだ瞬間、硬い筋肉に抱え込まれて悲鳴を上げた。

「ひぃぃいい!」

「会いたかったぞ、ツナ!奈々も毎晩お前のことを心配しては夜なべしてツナの衣装ばかりを繕っていてなぁ…」

「冗談じゃないよ!母さんの衣装はスカートばかりじゃないか!」

「似合うんだから文句は言うもんじゃないぞ。男の子だろう?」

「男だから言うんだろ!」

魔界名物になりつつある、次期魔王と魔族長の親子喧嘩だった。
ポンポンと頭上を行き交う掛け合い漫才をしばらく聞いていたリボーンは、ヤレヤレと小さい肩を竦めると顔を赤くして叫ぶツナの頬に手を当てて、それから大きく開いた唇にちゅうと吸い付いた。

「んなっ!!?」

「…その赤ん坊はどこの子だ?」

やっとリボーンの存在を思い出したツナと、ツナ以外の存在にはじめて気付いたイエミツはぎょっとした顔でそう訊ねる。
それにリボーンはニヤっと笑みを浮かべるといつものように口を開いた。

「チャオっす!ツナの伴侶のリボーンだぞ。」

「伴侶…?イヤイヤ……今リボーンって言ったか?」

「違、」

慌ててリボーンの口を塞ごうとしたのに、その指を小さい唇に噛まれてしまいあまりの可愛らしさにヘナヘナと身体の力が抜けてしゃがみこんでしまった。
そんなツナの指をはぐはぐと咥えてから、ついでだといわんばかりに吸い付くと赤ん坊姿の行為にまんまと騙されたツナが煩悶しながらリボーンを抱き締めてきた。

「可愛い…!好き!」

「っつー訳でツナはオレが頂いたぞ、悪魔界の魔将軍殿。」

「なにぃい!!」

突然の宣戦布告に血管が浮き出るほど顔色を変えたイエミツは、ツナの後ろに控えていたゴクデラにその般若のような顔を向けた。

「これはどういうことだ?!」

「…すみません!オレがお迎えにあがった時には既にリボーンさんに魅了されていて……どうしてもお止めすることが出来ず、こんなことに!」

「それじゃあ、こいつは本当にあのリボーンなのか?」

「そうだぞ。」

魔将軍の叱責を受けて小さくなるゴクデラと、親バカ全開のイエミツの間に割って入ったリボーンは、ツナの腕からひょいと抜け出ると赤ん坊姿からあの輝かしいまでの美貌の青年へと姿を変えた。

「ひっ…!」

黒いスーツを身に纏っていても、内から輝く光が天界の存在だと知らしめている。
瘴気の濃い魔界だというのに不自由なく動けるリボーンは、慌てて逃げ出したツナの腕を掴むと軽々と抱き上げてイエミツに顔を向けた。

「キューピットの矢で愛を誓い合った仲だぞ。もう何を言われても離れらんねぇんだ。」

「誓い合ってないよ!」

少なくともこのエロっちい方とは、と声を上げようとして大きく広げた口を口で塞がれた。最初は嫌がって手足をバタつかせていたが、その内これもリボーンだよなという諦めにも似た感情に流されて、ついでにはじめての淫猥なキスにも流されて、快楽を追うことだけに集中していると後ろから男泣きの惨めな声が2つ聞こえてきてやっと意識が戻ってきた。

「あれ…?」

夢見心地から引き摺り戻された現実には、右腕候補と父親が地面に膝をついて泣き濡れていた。

「気持ちよかっただろう?」

「うん、よかっ……っつ!?」

うっかり答えかけてツナは慌てて口をつぐんだ。
必死に心の中で好きなのは赤ん坊姿のリボーン、赤ん坊姿!と呪文のように唱えていると、それすら気にした様子もなくリボーンはツナを抱えたまま男泣きの雄叫びを上げるイエミツに声を掛けた。

「こういう訳だ。分かったら素直にツナをオレに嫁がせろ。」

「バカ言うな!ツナは次期魔王だぞ!!誰が天界の神なんぞに、」

そうイエミツが吼えているところに、緊張感の欠片もない声が突然響いた。

「あら?つっ君が帰ってきたと思って迎えにきたら、イエミツさんも来ていたのね?でも、つっ君を抱っこしている方は誰かしら?」

悪魔にしては清らかすぎる声に、ツナにそっくりの顔。それから見覚えのある白い羽を見てリボーンは驚きの声を上げる。

「お前は、前天使長の奈々か?」

「まぁ…ひょっとしてあの小さかった神様かしら?」

ニコニコと零れる笑みは悪魔ではなく、けれど本来の輝きは閉じ込められている。
ツナの母であり、魔将軍の妻である元天使長の堕天使奈々が現れた。


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