リボツナ4 | ナノ



5.




ゴクデラのせいで本来の悪魔の姿に戻されてしまったツナは、黒い羽をバサリと大きく羽ばたかせ部屋一杯まで広げると、またすぐに背中にしまい込んだ。

「窮屈そうだな。」

「…」

狭い部屋をより狭くしている要因の一つであるソファの上で見せ付けるように長い足を組んでいるリボーンにそう言われ、ツナは無言で横を向いた。
向いた先には夢見心地のゴクデラの顔があって、それを見たツナの表情は苦いものに変わる。

黒い羽に黒いジャケット、破れてところどころ肌が見えるTシャツにショートパンツ姿のツナはどうして怪我もしていないのにゴクデラが包帯を脚やジャケットの上から巻くのか分からなかった。
その上ジャラジャラと重くて煩いアクセサリーなるものを身体のあちこちに飾りつけられている。もの凄く煩い。

「戻してよ。」

「どうしてですか?今は力が不足していらっしゃるんスからこの姿の方が瘴気の吸収も効率がいいっスよ!」

「そうだけど…」

それよりもまずはツナを舐めるように見続ける視線から、晒されている肌を覆い隠したかった。
後ろから注がれる視線の淫猥さに裸足で逃げ出したくなったが、この格好で外を出歩くと何故か人間の男につけ回されたり草むらに押し込められそうになったりと碌なことがないのでそれも出来ない。

仕方ないと羽で自身を覆って膝を抱えると、後ろから伸びてきた腕にひょいと抱え上げられてソファの上の変態男の膝の上に据えられた。

「なにするんだよ…!」

手足をバタつかせて抵抗してみせるも、それは見せかけだけで嫌悪感も湧かない自分に腹が立つ。
キューピットの矢の威力はよく聞かされていたが、まさか自分がその効力を身を持って知ることになろうとは思ってもいなかった。

羽の隙間から指がするりと入り込み、ジャケットの上からすーっと指で胸を撫でつけられて肩が揺れた。

「ひっ!ヤだ…ゴクデラくん助けて!」

心に決めた相手とだけ交わろうと、守るとはなしに守ってしまった貞淑さが裏目に出ていた。
早い悪魔なら生まれて間もなくだろうと人と交わることもあるというのに、ツナはもうすぐ成人になろうという年まで一切の交わりも持たずに過ごしていた。

一概にツナだけが悪いという訳でもない。周りも悪かったというべきだろう。
ツナ可愛さにツナの望むようにと命を下した父に、それをバカ正直に忠実に守りきった右腕候補のゴクデラ。それをサポートに回ったヤマモトと、とにかくツナの望むようにと甘く育てたことも原因だった。

ツナの悲痛というには甘すぎる悲鳴に、必死に動こうとするも何かに押し潰されたようにゴクデラは床に沈みこんだ。
その間にも卑猥な神様の手はジャケットの裾へと潜り込んで、それからTシャツの裂け目から直接肌をなぞりだした。

「んん…っ、」

あまりの気持ちよさにブルッと身震いしたツナを見て、ショートパンツと包帯の隙間の腿に手を添えたリボーンはツナの肌を確かめるように動かした。

「っ、あ!」

声を出さないようにと唇を塞いだ手の平に息が漏れて、慌てたツナがもっと強く手を押し付ける。

「な、んで…誰も助けてくれないんだよ…」

誰に呟くとはなしに漏れた言葉に、ツナの項に歯を立てていたリボーンがベロっと耳裏を舐め上げてから平然と答えた。

「キューピットの矢を舐めんなよ。こいつは互いを引き寄せるだけでなく、周囲に邪魔をさせない作用もあるんだぞ。」

「って、それ呪いだろ?!ひっぁあ!」

直接耳朶に響く低音にぞくぞくっと背筋を這うそれは、きっと多分快楽というヤツだ。
息を飲んで堪えていても、堪えきれずに悲鳴を上げる羽目になる。

キューピットの矢にそんな効力まであるとは思ってもいなかった。というより神の力というのはそこまで強いということか。
内心焦りつつも胸を這う手を掴もうとリボーンの手首を探り当てるも、服の裂け目から入り込んでいた指が胸の先を探り当てて爪の先で引っ掻かれた。

「っ…!ヤだ、ヤだ、ヤだ!オレが好きなのはあのちっこい赤ん坊の方だ!お前じゃないっ!!」

精一杯の大声で拒絶してやると身体を這い回っていた手がピタリと止まり、ぼわんと白い煙を立てたかと思うと膝の下の温もりが消えてちまっと小さい影がその中から現れた。

「リボーン…?」

キューピット姿ではなくきちんと黒いスーツ姿の赤ん坊は、くりんとした揉み上げの向こうの頬をぷくりと膨らめながら返事もせずにツナに背中を向けたままで座っていた。
何事かに怒っているらしいほっぺのぷくぷくに手を差し伸べようとして叩き落とされて、呆然とその背中に視線を落とす。

「リボーン、」

「オレだって、嫌だぞ。どうして同じオレなのに、こっちのオレはよくてあっちのオレはダメなんだ?」

ツナが好きだと言った姿に戻ったが、どうにも納得いかないらしいリボーンの小さい背中とぽっぺを見て少し心が痛んだ。
広いソファの端にいるリボーンにそっと近付くと悪魔らしくないとよく言われる困ったような顔を傾げながら呟いた。

「あ、あのね…オレ、ああいうことしたことないんだ。だから怖いっていうか、恥ずかしいっていうか、」

「…でも嫌なんだろ?」

拗ねた調子でこちらを振り返らないリボーンに困り果てたツナは、こっそり横から回り込もうとしてソファの端から転がり落ちた。
そんなツナの情けない姿を視界に入れたリボーンは、仕方ないと小さくため息を吐いてから少しだけ視線をツナへと向けた。

「言っとくが、これもオレならあれもオレだぞ。」

「う、うん…」

分かっているが、納得できないだけだ。
この可愛い赤ん坊があんな可愛げのない猥褻物になるのかと思うと泣けてくる。
赤ん坊姿のリボーンを触りたいならば、あのエロっちい生き物とも仲良くする必要があるのだ。

ジレンマに苛まれながら悶えていると、それを見ていたゴクデラが恐る恐る口を挟んできた。

「あのー…ちょっと質問してもいいっスか?」

「チッ、しょうがねぇ。今日だけ特別だぞ。」

ソファから離れたキッチンのテーブルの横で三角座りでこちらを見ていたゴクデラが、はいっと手を上げてリボーンに質問をした。

「そのキューピットのような姿にはなんでなるんスか?」

「そうだよ、なんで神様なのにキューピット姿になるんだよ!」

ツナとゴクデラの主従が声を揃えた。
それにフンと鼻を鳴らすと赤ん坊の小さいあんよで胡坐を掻いてこちらを向く。

「元々が神であり、またキューピットでもあるんだぞ。まぁ暇つぶしでこの姿に変身しはじめたら楽しくてな。それにエロースの時と違って力の消費も少ないから楽なんだ。」

お前ら悪魔が人間に化けるのと同じだと言われても納得がいかない。
なぜならツナたち悪魔はエネルギーの消費が激しいが、天使や神はそもそもエネルギーを必要としない筈なのだ。
それとも神としては異質な力だからだろうか。

神への信仰心を試すために人間界にいるというリボーンは悪魔が人間を唆すように誘惑するのだろうか。
しかも名前が名前だ。

訳分かんないと早々に諦めたツナは、ソファに肘を付いてその上に顎を乗せた。

「とりあえず、本当はエロースが本来の姿だってことは分かったよ。」

「随分嫌そうだな。」

「うっ…!そそそんなことないよ。」

あるに決まっている。
けれど赤ん坊姿のリボーンには逆らえないツナは、ブンブンと頭を横に振った。

そんなツナをじっと眺めていたリボーンは、ツナの額の髪をかき上げるとそのままそこにちゅっと小さく口づけた。

「てめーはオレのだぞ。いいか、別の誰かに心が揺れたらキューピットの矢が心臓を貫くからな。」

「うん?」

目の前の可愛い赤ん坊のそんな恐ろしい言葉を気にすることなく、適当に相槌を打ったオレは後にそれを死ぬほど後悔する羽目となる。

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