リボツナ4 | ナノ



2.




夕飯にと奈々さんに持たされたカレーとメンチカツを片手に、隣を歩くツナの横顔を視線で追う。
今朝の爆発が嘘のように今は普段と変わらない表情を見せているから混乱した。
あれはビアンキにヤキモチを妬いていた筈だ。
だが相手はツナである。
ヤキモチといっても一番親しいダチを取られたぐらいにしか思っていないのではないのか、と。
そんな不安が頭をもたげてくるが、当たらずとも遠からずだろうと考え直す。
それは自分の魅力が足りないと言われているようでもあり、鈍いツナを恨めしく思うこともある。
だがこいつがまだお子様だからだと自分を慰めて、それから丁度辿り着いた一人暮らしを始めたばかりのマンションへとツナを押し込めた。
防犯の意味でも、防音性も抜群の分厚いドアを閉めれば、ツナは驚いたように後ろを振り返る。

「なんだ?いつも来てるだろうが。いいから入れ」

「う、ん」

妙にビクつくツナの背中を押してリビングへと促せば、オレの手から逃れるように駆けていってしまう。
懐いていた小動物につれなくされた気分で舌打ちを漏らすと、リビングからひょっこり顔を出したツナが手招きをする。
一体誰の家だと思っているのか。

「早く来いって!借りてきたDVD観るんだろ?」

まったくもって我がままなヤツだ。




5枚借りてきたDVDは2枚がアニメで2枚がアクション、最後の1枚がギャグテイストの恋愛物だ。
アニメまでは身を乗り出して楽しんでいたツナだったが、アクションヒーロー物のなんちゃってSF世界の説明が入ったあたりで挫折したらしい。
最後の1枚を再生しはじめた今では、持ってきた携帯ゲームをオレの背中に凭れかかりながらやり込んでいる。
少しはいい雰囲気にならないものかと期待していたが、現実はこんなものだろう。
分かっていたとはいえ、予想通り過ぎてため息も出ない。
スラングの英語訳が違うことに気付いて、さすがにこれは訳せなかったのかと眺めていると、後ろのツナがオレの背中に頭を押し付けてきた。

「あ、あのさ……リボーンはイタリア人だから、ああいうのは挨拶なの?」

どういうヤツだとツナが指さす画面を注視すれば、今まさにベッドインする寸前といった濃厚なキスシーンが繰り広げられていた。

「アホか。いくらイタリアだからって、あんなキスは恋人ぐらいとしかしねぇぞ」

だからお前とはする気がだなとは言わなかった。
機会をみて既成事実を作ってしまえば、ツナは流されていくだけなのは分析済みだ。
とりあえず今日は後ろから抱きついてみるかと邪なことを考えていると、背中にぴったりと張り付いたツナが緊張したように身を硬くした。

「ならさ……なら」

何を言う気なのか、言い難そうに言葉を繰り返すツナを待ってやる。

「オレとキス、する?」

そうして冒頭に戻った。


願ったり叶ったりの棚からぼた餅ではあるが、果たしてこれはツナの本心なのだろうか。
今の今まで散々焦らされてきたオレは、ツナが自分と同じ意味でキスをしたいと思っているとは思えなかった。
そしてハッと気付く。
今日は何月何日なのかを。
ツナと出会って6年。彼氏の座について4年。
強引に彼氏となった経緯もある。
これは乗っても平気なのか。
肩越しにチラリとツナを見下ろせば、真っ赤な顔でこちらを見詰めていた視線とかち合った。
さっと逸らされた目は、嘘を吐いているようにも見えない。
ツナにはそんな頭もないとはいえ、入れ知恵をする輩もいるだろう。
特に獄寺とか、獄寺とか獄寺とかが。
だがそれも利用すればいいと気持ちを入れ替えて、ツナへと向き直る。

「そうだな。オレはお前の彼氏なんだから、するのは当然だぞ」

「バッ…!誰が彼氏だよ!」

口では嫌がりながらも、肩に手を伸ばせば大人しく腕の中に収まってくる。
いつもならこの流れでゲンコツの一つは飛んでくるというのに、今日はやけに素直に身を任せるから益々怪しい。
まあどこかで止められるだろうと勢いでツナを押し倒すも、小刻みに震える身体は逃げてはいかなかった。
ここでいいのか?と聞くバカはいまい。
心の中でいただきますと手を合わせ、唇を近付けていってもツナは目を瞑るだけだ。
誘うように薄く開いている唇を前に、どうにか急ブレーキを掛けた。
眼前のツナはそこいらの少女たちより柔らかそうな唇をわずかに尖らせてオレの口付けを待っているようにも見える。
このまま欲望の赴くままにと猛る気持ちを押し留めると、ツナのズボンの後ろに手を回した。

「ちょっ!いきなり!?」

慌てるツナを無視して、後ろのポケットに手を差し込めば目当ての物を見付けた。
ツナの携帯電話だ。

「借りてくぞ」

そう言うと手慣れた動作で電話帳を開き、『ご』の索引をする。

「へ……?あの、リボーン?」

いくらツナがド鈍な天然とはいえ、こんなことをする訳がないことぐらい承知している。
ようは番犬がツナの貞操を守るために嘘を教えたのだろう。
そうしてまんまと引っ掛かれば、ツナは泣いてオレを拒絶する……という寸法だ。
ツナのテンポを乱しやがってと憤りすら覚えながら、獄寺の携帯に怒りの電話を入れる。

「違うって!リボーン!こっち向けってば!」

獄寺に騙されたツナの分まで苛めてやろうと心に決めて、繋がった回線へと低い声を零す。

「もう!何でキスしようって言ってるのに獄寺くんと電話しちゃうんだよ!バカ!」



4月1日はエイプリルフール

けれど日本にはそれほど根付いてはいないということを、リボーンは知らない



おわり



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