リボツナ4 | ナノ



全てがどうでもよくなった




規則と校則を気ままに取り締まる雲雀さんと、誰の言うこともきかない唯我独尊男のリボーン。
つまりはどっちを選んでもバッドエンドだ。
そもそも今現在の見た目はともあれ、オレは男なのでオレよりも図体のでかい2人の男は遠慮させて頂きたい。
何がどうなって雲雀さんがオレを気に入ったのか、リボーンがおかしなことを言いだしたのかはこの際どうでもいい。
分からないことは、分からないまま目を瞑って生きていくのがオレのポリシーだ。
ということで、ここは丁重にお断りすべきだと結論に達したオレがようやく顔を上げると、これまで大人しくしていた司会が後ろから割り込んできた。

『まさかのミスコン優勝者を巡る告白合戦と相成りました。片や並高に君臨する風紀委員長。此方近隣の女子の心を奪う平成の光源氏。どちらを選んでもまことに羨ましい限りだと思われます!』

お節介にも程がある煽りにブワッと汗が噴き出てくる。
選べないからごめんなさいと言うつもりだったのに、退路を断たれてしまったせいで言葉が詰まった。
見れば講堂中の参加者の視線はオレに集中していて、今更2人とも振るなんて出来そうにもない。
オレみたいな何の取り柄もない男をどうして…と考えて、思い付いた。


こうなったら、これしかない。


後ろ指を指されることも、一生バカにされ続けることも分かっているけど、この状況を有耶無耶にするにはやるしかないのだ。
手にしていた靴をステージに放り投げ、それから抱えていた大事な目録もその上に載せた。
両手が空いたことで身軽になったオレは、片手で黒いかつらの端を掴むと力任せに毟り取る。
締めつけられていた頭が軽くなった。
ポトリとつま先に落ちたのはかつらを着けるために髪を纏めていたネットで、かつらと一緒に取れたのだろう。
つまりは今、沢田綱吉として2人と観客の前に立っていた。
ざわめく場内を感じながら、さてこれ以上の説明は必要だろうかと周囲を見渡す。
驚愕する顔の中に親友を見付けて俯きそうになったが、それじゃダメだともう一度リボーンと雲雀さんへ向き直った。
2人とも驚いた様子もないが、かつらを外した意味は伝わっただろうと思う。
だから2人の肩越しに視線を向けて口を開いた。

「オレが今年の女装枠でした。だから、」

破れかぶれで頭を下げ、それから2人にこれで目が覚めただろうと声を掛けようと口を開くと。

「…それで?」

と雲雀さんがさもつまらなそうにオレの台詞を遮った。

「さっき言ったじゃない。僕はこの男のパシリだった副会長から君の正体を聞いているんだけど。分かった上で訊ねているんだけど?」

「え…」

だからyes以外は受け付けないと言わんばかりの睨みに続きが出せなくなる。
カチンと固まった状態でそれでも必死に逃げ道を探していると、今度はリボーンまで口を挟んできた。

「逃げようとしてもムダだぞ。言っとくがてめぇをここに連れだしたのはオレだ。雲雀にまで目を付けられるとは思わなかったが、優勝することもバレることも想定済みだ」

「…」

そこまで手間を掛けるなら、どうして素直に2人きりの時に告らなかったんだ。そうしたら即座に断ってやるのに。
つまりはオレの行動は読まれていたからこの騒動になったと、諸悪の根源はやっぱりこいつだと理解した。
理解したからといって、どうなる訳でもないが愚痴は零せる。勿論、心の中でだが。
オレの目論みが見事に崩れていったことだけは分かる。しかもオレが恥を掻いただけ。
ここでオレの性別をバラせば2人とも引いてくれると思ったオレが甘かったらしい。
再び左右から返事を促され、しかも会場の興味まで先ほどより引いてしまっていた。
ここで気絶できたらどれほど楽かと、気は遠くなれど意識ははっきりしたままで視線を足元に向けた。
その先に、見覚えのある顔を見付けて後ろに半歩下がる。

「ツナ、だよな…?」

「う、あっ」

親友の山本の声に返事も出来ずに顔を背けた。
今更なのは分かっていても、勢いとノリだけの状態から羞恥が戻ってきてしまう。
目を瞑り何を言われるのかと身構えていれば、山本はステージの下から声を張り上げた。

「オレもツナのこと、好きだぜ!」

「…ぇ?」

いつも通りの気軽な口調に思わず目を見開いた。
どうしてこんな状況でその台詞が出るんだと山本の顔に向き直れば、山本は爽やかな笑顔のままオレに言った。

「ツナが女装してたのには驚いたけど、それのお陰で自分の気持ちに気付けたし、見に来てよかったな」

嫌な予感に背中を押されながら、それでも聞かずには居られなかった。

「えーと、山本?何に気付いたんだよ?」

山本はリボーンや雲雀さんとは違う。
健全でかけがえのない親友だ。
だから大丈夫だと自分に言い聞かせて訊ねると、山本は何故か顔を赤らめた。

「だから、さっき言った通りだって!ツナのこと、恋人にしたいって意味で好きなんだ!」

クラリとした。
言葉にするなら「ブルータス、お前もか」だ。
優勝賞品に目が眩んだオレが悪かったから、みんな目を覚まして欲しい。
てか、本当にごめんなさい!オレ、男なんです!女の子がいいんです!

「ううぅ…」

唸るような声が漏れる。
そんなオレの様子に気付いたリボーンがどうした?と顔を覗き込んできた。

「ツナ?」

まだ幼稚園の頃。散々いじめた後にさすがに悪かったという気持ちがあったのか、リボーンはいつも泣いているオレを宥めるようにそう声を掛けてきたことを思い出す。
だから止められなかった。

「ば…」

「バ?」

「バカバカバカバカ!バカ野郎!!オレは男だって言ってるだろっっ?!男と付き合えるか!」

物凄い剣幕でリボーンに噛み付いた。
全てを吐き出してから、ぜぇぜぇと肩で息をして我に返る。すると、リボーンも雲雀さんも山本も、ついでにこちらを見ていた観客たちも言葉もなくオレを見ていた。
唾を飲み込む音さえ響きそうな痛い沈黙が降りる。バツが悪いなんてもんじゃない。
とんでもない暴言を吐いてしまった自分に青くなるも、今更前言撤回も出来ないから逃げ出すことにした。











学祭のメインイベントである後夜祭にも出ず、そのまま駆け足で家に逃げ帰ったオレは、翌日の代休をずっとベッドの上で丸くなりながら過ごした。
リボーンがやってくるかと思っていたが、意外やオレの部屋に乗りこんで来ることはなかった。
雲雀さんはどうやらオレがふて寝をしている間に来たみたいだが、同じく家に上がることなく副賞のゲーム機とソフトだけを置いていったらしい。
山本はメールさえ寄越さない。
そんな一日が過ぎてしまえば、翌日はもう学校だ。
嫌がる足をどうにか動かして校門の前まで辿り着く。
いつもと違って人がほとんど居ない早朝にこうしてこっそり登校してみたが、やっぱり人目が気になって校門をくぐることが出来ない。
きっと今年の女装枠を見に、色んな人が覗きに来るに違いない。しかも優勝した上に、男3人に告白されたのだから期待されているだろう。
ところがどっこい、普段はこの程度と知れたら…。

「帰ろう!うん、それがいい!」

見つかってがっかりされる前に帰ろうと踵を返すと、何故か黒い壁が目の前に立ちはだかっている。
歩いてきた時にはなかった筈だがと顔を上に向けて顔が強張った。

「どうした、まさか気付いてなかったのか?」

「っっ!!?」

驚きすぎて声も出せない。どうしてここに居るのか分からない顔がそこにあったからだ。
オレを見下ろしているリボーンは、オレとは違う制服姿で立っている。
学校からも、リボーンからも逃げ出そうとジリジリと横に逃げれば、それを追うようにリボーンも一緒についてくるから逃げ切れない。

「ど、どけよ!」

「何言ってやがる。どいたら逃げ帰る気だろ」

勿論だとは言える筈もない。ぐっと口をつぐんで黙り込んだオレを見てリボーンはため息を吐いた。

「悪かったな。まさか自分で女装をバラすとは思わなかった」

らしくない台詞に目を瞠ると、リボーンは片手を制服のズボンに突っ込んだまま抱えていたバッグを持ち直した。

「山本は分かってたんだが、雲雀は完璧に誤算だった。ったく、ああでもしなけりゃお前は付き合うなんて言わねぇだろ。だから仕組んだってのに」

やはり仕組まれていたのかと白い目を向けるも、リボーンは平気な顔で言葉を続けた。

「誤算といやぁ、お前の女装姿も誤算だったぞ」

「は?仕組んだのはそっちだろ!」

リボーンのせいでこれから2年と半年は確実に笑い者になるのだ。中学時代は『ダメツナ』で、これからはメイド女装と呼ばれるに違いない。
せめてもの救いは最新ゲーム機が手に入ったことか。
お先真っ暗だと肩を落としていると、リボーンはぐいっとオレの顎を掬いあげた。

「…なんだよ」

リボーンの至近距離からの視線に耐えきれなくて目を逸らせば、睫毛の先にふっと息を吹き掛けられた。
驚いて瞼を瞬かせる。

「これから大変になるって分かってんのか?」

「お前のせいだろ!物笑いのタネだよ…!」

「アホか。そっちじゃねぇ」

悩ましげに眉を寄せるリボーンを下から睨んでいると、分かてねぇなとボヤかれる。

「あの日は雲雀と山本、オレが居たからあんなもんだったんだぞ。それをすべて振りやがって」

また中学時代と同じようにボコられたり、パシらされたりするのかと身構えると、それでもねぇと否定しながら顔が近付いてきた。
顎を取られているから逃げ出せない。
慌てて手を間に差し込んで間一髪、リボーンから唇を死守した。

「ななな…なにする気!?」

「言わなきゃ分かんねぇのか?キスだぞ。そういや、ツナのファーストキスはオレが貰ったんだっけな」

「いつの話だよ!しかもあれはおまじないだって、リボーンが」

あと少しで小学校に上がるという春の日。
届いたばかりのランドセルを見せにリボーンの家に上がり込んでいたオレに、おまじないだと顔を寄せてきたのはこいつだ。
純真無垢だったあの頃のオレは、怒るどころか感謝までしてしまうという残念な頭の子どもだった。
つけこまれて奪われた初チュウを思い出して顔が赤くなる。

「効果絶大だっただろ?虫避けには、な」

悪びれもなく笑うリボーンの意図が読めない。虫避け?そんな効果あっただろうか?
考えることに意識が向いて手元が疎かになっていた。その隙を突いてリボーンの唇が重なる。
すぐに逃げ出そうとするも、いつの間にやら腰に回されていた腕とオレの顎を掴んだままの指先が解けない。
ぬるりと唇の間を舌先でなぞられて背中が震えた。
この先が分からない。小さな頃のように合わせるだけじゃないんだと知識としては知っていても、実際には見たこともしたこともないから怖くて堪らない。
息を漏らすことも出来ずにいると、下唇を弄んでいた唇が離れていく。
上を向かされていた顎から手が外れ、腰を支えていた腕から力が抜けて地面に崩れ落ちた。
深い息を繰り返しながらぼんやりとリボーンの顔を見ていれば、唾液で濡れた薄い唇が動く。

「気持ちよかったよな?」

当たり前のように訊ねるリボーンに無言を通すも、否定しないなら肯定したのと同じだ。
悔しいような気もするけど、これがリボーンといえばリボーンだ。
地面にしゃがみ込んだオレの目の前に大きな手が現れて視線をそこに落とす。

「お前がこの手を取るなら、オレが全部どうにかしてやるぞ」

そんなこと出来る訳ないと反論しかけて、でもこいつならどうにかするかもという思いも過る。
どっちに転んでもこれ以上悪くなりようがないなら、乗ってみるのも悪くないかも。
恐る恐る手を出せば、リボーンはそんなオレの葛藤も知っているのか急かすことはしない。
時間をかけてようやくリボーンの手に自分の手を乗せると、少し気になっていたことを訊ねてみた。

「なぁ、アレ以上しないよな?」

アレというのはそれだ。今日2度目までこいつに奪われたやつだ。
聞けばリボーンは含み笑いをして、オレの手を引いて立たせてくれる。

「安心しろ。ツナが嫌がることはしねぇ」

ならいいや。
そう思ったのが間違いだったと知るのは、そんなに先の話ではない。


おわり


2012.09.26



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