限界と死に挑戦させるリボーンの台詞一つで騒然とした会場内は、いまだその興奮も醒めやらない。 やっちまったなぁと人ごとのようにリボーンを眺めていたオレに、司会の男は一連の騒ぎを見なかったことにしたのか突然マイクをこちらに向けてきた。 『ではツーにゃん☆さん、観客に向かってアピールをお願いします』 「はぁ?」 あまりに酷い呼び名に思わず唖然と司会を見返した。そういえば本名がバレないように、適当に付けておくからと言われたがこれがそれなのか。 副会長の突き抜けたセンスに固まっていると、横にいたリボーンが一歩前に出てオレに手の平を見せるように差し出してきた。 よく分からないがそこに自分の手を乗せろということだろうか。 恐る恐る手を伸ばすと軽く握り返されて正解だったと知る。 これから何をするのかと思っていれば、リボーンはゆっくりとステージの真ん中から前面へと歩いていった。 それにつられてオレも足を踏み出す。 早くもなく、遅くもない足取りで連れ出されたスポットライトの下でリボーンの腕が回る。 自分の意思ではなくクルリと回転する身体と視界に目を白黒させていると、ステージの下から歓声が上がった。 「エプロンの裾を両手で少し持ち上げろ。ついでに頭も下げるんだぞ」 何がなんやら分からないながらも、リボーンの言われた通りにした。 すると今度は口笛やらツーちゃんコールが聞こえてきて、目を瞬かせる。 ミスコンは参加者として出場するのも初めてだが(当たり前)、見るのも初めてでこんな雰囲気なのかと首を傾げる。 オレも選ぶ側でありたかったと心の奥で呟いていれば、またリボーンの手が伸びてくるからそれに縋った。気のせいか慌てているようにも感じる。 「待っ…わぁ!」 普段とは違うヒールのある靴は躓きやすい。 ステージの端に下がろうとするリボーンの後についていこうと慌てて踏み出した足が、ステージの床で滑るとグキッと妙な向きに曲がる。 そのままペタンと尻もちをつくオレを覗き込んできたリボーンは、オイと声を掛けてきた。 「立てるか?」 「…ムリ、かも」 普段の靴ならどうにかなっただろう。だけどこの頼りない靴ではふんばることすら難しい。 いっそ脱いで裸足になってしまおうかと、熱を持ちはじめた足首を眺めていると、何故かリボーンが迫ってきた。 「え……っ!?」 あれよと言う間に身体が浮き上がると、普段より高い視界で動き出す。 立ってないのに何事だと首を回せば同じ出場者たちも目をまん丸にしてこちらを見ていた。 今度は自分の身体に視線を落とすと、どう見てもリボーンの腕がオレの背中と足を抱えている。 そこでやっと抱きかかえられていたことに気付いたオレが、逃げ出そうともがくもリボーンの腕はびくともしなかった。 みんなに見られているという焦りと、男なのにという矜持がごちゃ混ぜになって気ばかり焦る。 そんなオレを抱えたまま他の出場者たちの隣に移動したリボーンが顎をしゃくって手を振れと言い出した。 「愛想でも振りまいてやれ」 「バッ!出来ないよ!」 情けないやら恥ずかしいやらで顔も手で覆って足を振り回す。 するとまたステージの下から野太い掛け声が聞こえてきて眩暈がした。 隣からはブスのくせに!だのリボーンから離れろだのと女の子が怖いし。 暴れたせいで捲り上がった裾からストッキングが覗き見えて慌てて手で押さえた。 自分の限界が近いことを悟る。というかこれはもう社会的に死んだも同然だ。 早く終れと呪いのように呟き続けていれば、煩い効果音の後にライトが参加者たちの頭上を行き来する。 誰でもいいだろ!と半ばキレ気味に終了を願っているとピタリとオレの頭上でスポットライトが止まった。 『優勝はツーにゃん☆さんです!』 わぁぁあ!!という歓声に包まれて茫然とする。 満面の笑顔の司会と、その横にいつの間にか立っていた雲雀さんに悲鳴が漏れた。 やっぱり群れてたから噛み殺しにきたんじゃないかとリボーンの肩にしがみつけば、雲雀さんはムッとした顔でこちらに向かってきた。 それに気付いた講堂内は水を打ったように静まりかえった。 『なお、今回は特別に風紀委員長から王冠と目録を授与して頂きます!』 チラりと見えたステージのすそからは、副会長がボコボコにされて風紀委員たちに羽交い絞めにされている。 つまりはオレの正体を吐かせたのだろうか。 こんな場面でバラされたらと思えば血の気も下がる。 ガタガタと震える腕から力が抜けて胸の前でぎゅうと握っていれば、真横からクツクツと笑い声が聞こえてきた。 「おおお前、他人事だと思って!」 閻魔さまにすべての罪状を知られた気分で青くなるオレを余所に、リボーンは死刑執行人の前にオレを差し出した。 「その男が邪魔だけど君が誰なのか分かったからいいよ」 そう言って王冠を頭の上に載せてくれた雲雀さんは、目録を隣の風紀委員から受け取ってこちらに渡そうとする。 ひょっとしたら空気を読んでバラさないでくれるのか?!と顔を上げると、目録が渡されて思わず頭を下げた。その空いた雲雀さんの手が今度はオレの身体に回ってきた。 やっぱりこの状態は『群れてる』からダメなのだろうか。 腰を浮かせて床に足をつこうとするも、それさえ遮られてしまう。 つまりはオレがリボーンから雲雀さんの腕に移動するだけだ。 どういうことだろうかと雲雀さんの顔を見るも、オレはいまだリボーンの腕の中だ。 綱引き状態でどちらも引かない状況に、左右の顔を見比べる。 「はっきり言ってやりなよ、幼馴染だからって束縛がすぎて気持ち悪いって」 雲雀さんがそう挑発すれば、 「何のことだ?オレは十分寛容だぞ。高校は別れてるしな」 とリボーンはにべもない。 誰の話をしているのかと思えば、どうやらオレのことらしいが束縛とか寛容とは何のことやら。 そんなオレの疑問が分かったのか、雲雀さんはふふんとリボーンを笑った。 「よく言うよね。副会長は君の長年のパシリじゃないか。この子を監視するために並高に入学させたんでしょ」 あり得ない言葉に首を振ってリボーンを見れば、リボーンはオレに視線を向けることなくあっさりと頷いた。 「それがどうした?」 なにこれ。 今、どいう状況なんだ? 2012.09.20 |