リボツナ4 | ナノ



凶悪ウイルス(黙秘権死亡)




そんなこんなでミスコンが幕を開けた。
しょせん学生の主催するものだからとたかをくくっていたら、意外や優勝賞品がすごかった。

「な…っ、4ヶ月前に出たばっかりの新型ハードとソフトが2本を好きに選べるのかよ?!」

それでだけではない。
参加者が女子ために、ペアでレストラン招待券と洋服代としてなのか商品券もついていた。
男子はゲーム機、女子は普段は入れないようなフレンチで食事という餌で釣られていたという訳だ。
無論オレは新型のゲーム機が欲しい。
あれは高校生のお小遣いで買える範囲を越えていたから諦めていたのだ。
それが手に入るのならば、頑張っても悪くない。
初めて知った事実に俄然やる気を出したものの、そういえばリボーンは何が目的でオレを推薦したのかが分からない。
他校生の上に、こいつがゲーマーだとは思えず、さりとて女の子とデートし放題の現状でこれ以上増やすのだろうかという疑問が頭を掠めた。
よく見ればオレとお揃いらしき執事の衣装を身に纏っているリボーンの横顔を斜め下から覗き込む。そんなオレの視線に気付いたのかリボーンは顔をこちらに向けてきた。

「どうした?」

「いや、あの……お前どうしてこんな茶番に付き合ってるんだよ」

小学生までは遊んでいた記憶がある。まあ遊んでいたというより、遊ばれていたような気がしないでもないが。
中学に入り、学力が違ったり、互いにつるむ顔ぶれが変わったことでが話す機会が減っていった。
高校に上がるとそれが顕著に表れて、あの時顔を合わせたのは半年ぶりという驚きの疎遠さ加減だ。
なのにだ。
どうしてかうちの高校の行事をオレより詳しく知っていて、なお且つ推薦者として名乗りを上げたのだろうか。
オレをからかう目的だとしても手間がかかり過ぎている。
中学の卒業式で聞いてしまった言葉が浮かび、それを打ち消そうと慌てて頭を横に振った。

「何してんだ?ハエにでも集られてんのか?」

「違うよ!って、だからお前の目的はなんだよ?!」

煩いぐらいに視線を集めているリボーンと話をするのは大変だ。しかもオレが誰なのか知られたくないから尚更。
あまり低くはなっていないが、それでも女の子みたいに高い訳でもない自分の声を聞かれまいと、背伸びをしてリボーンの耳元に口を寄せる。
そんなオレに応じるようにリボーンが身を屈めて顔を近付けると、途端に悲鳴とも怨嗟ともとれる声が聞こえた。
これが終わったら背後からブスリと刺されそうな気さえする。
縁起でもないと身震いをしながら、それでもリボーンの返事を待つと。

「…物理的に離れりゃ忘れると思ったんだ。それが半年経っても頭から離れねぇ。どころか気になってイラついてどうしようもなくなってきた」

オレはリボーンの目的を訊ねただけだ。なのにどうして意味不明な独白を聞かされなければならないのか。
正直にいえばさっぱり分からない。
眉間に皺を寄せて首を傾げれば、それを見ていたリボーンはチッと舌打ちして高くもないオレの鼻をぎゅうと摘まんだ。

「ふぁにふるんだひょ!」

やめろと抗議しながら手でリボーンの腕を叩くと、それを見ていた周囲がひそひそボソボソと囁き始める。
這いつくばって逃げて行った副会長みたいな顔でこちらを遠巻きに見ていた顔を睨みつけると、何故か男の顔が真っ赤に染まった。
確かに炎天下の待機はきついが、突然発熱でもしたのだろうか。
風邪を移されたらたまらないと顔を背ければ、今度は横から顔を覗き込まれそうになる。
バレたらお終いだから慌ててリボーンの腕に額を押し付けて顔を隠すと、頭の上から妙な威圧を感じた。

「リ、リボーンさん…?なんか人殺しそうな目デスヨ?」

間違いなくリボーンのせいで周囲が寒々しくなったが、オレは無視を決め込むことにした。

「そっ、そういえばリボーンは何が目当てなんだよ」

話題を逸らしてしまおうと話を振れば、やっと顔をオレに向けたリボーンが肩を竦めて小さく笑う。

「そうだな…食事券だな」

「ふーん」

ゲームだと言われなかったことにホッとしたのに、ペアだという食事券が目当てだと告げられたことに腹が立つ。
わざわざこんな手間まで掛けるほど行きたい場所なんだろうか。
…それほどまでして一緒に行きたい相手が居るのだろうか。

オレには関係ない話なのに、どうしてこんなに苛々するんだろう。


何かから逃げるように視線を横に逸らせば、また男たちが手を振ったりケータイを取り出して何かを訴えかけている。
その隣にいる女の子たちはリボーンに夢中で自分の推薦者どころじゃない。
ウイルスに感染したみたいに騒ぐ周囲を余所に、オレだけが波に乗り遅れたようでもある。

ふっと洩らしたため息は誰に聞かれることなく、秋空に消えた。


2012.09.18







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