すばらしい友達がいるお前に嫉妬したリボーンと雲雀さんのせいで時間を少しオーバーして到着したのだが、残念なことに受け付けは済んでいたから退場には至らなかった。 そこはもっと厳格にしてもいいと思う。 出番は一番最後と言われ、何をする訳でもなく講堂の横をブラつく。 出場者と推薦者を合わせて30人ぐらいは居るだろうか。物好きがこんなにいる事実に驚いていると、こちらをチラチラと覗き見する視線に気が付いた。 勿論女の子たちの熱視線を一身に集めているのは隣にいるリボーンだ。 相変わらずモテるんだなとは思えど一々口に出してやるのも癪に障る。 こっちは現在進行形で生き恥じを晒しているというのに、この違いはどこからきているのか。 俯いた視界の先にワンピースの裾が見えて余計に落ち込みそうになる。 頭を振って顔を上げると、リボーンはオレの顔をのマジマジと覗き込んでいた。 「…なんだよ」 「いや、化粧はどうした」 「はぁ?する訳ないだろ!」 女じゃあるまいし!とは口に出せない。墓穴を掘るバカはいまい。 それに女物の下着は履いている。なけなしの努力はしているのだ。 不満が漏れて八つ当たりだと分かっていながらもムッと唇を尖らせる。 そんなオレに何故かリボーンの手が伸びてきて強引に顎を引き寄せられた。 左右から女の子たちの悲鳴とも興奮とも取れる声が聞こえてくるも、負けるものかと睨み返した。 「お前、モテない人生が透けて見えるぞ」 「う、うるさいっ!」 顔を赤くして頬を膨らませたオレをからかう口調で顔が近付いてきた。 負けたくないと妙な対抗意識が頭をもたげる。絶対に目を逸らすものかと意地になって睨んでいると、後ろから声が掛った。 「おまえら、ここは公の場だ!自重しろ、自重!」 何のことだと声のする方へ振り向けば、オレに女装を強要した本人が立っていた。 汗だくで肩で息を吐いている副会長は、手に何かを握っている。 それをこちらに向けて差し出して。 「言われた通りに買いに行ってきたぞ!」 「遅ぇぞ、パシリ」 オレを素通りした品物と会話に目を瞠った。 10分しかない休み時間で行ってきたんだ!と吠える副会長を無視してリボーンは手の平サイズの細長い箱から中身を取り出した。 こいつとうちの副会長が知り合いだったことに茫然としていれば、リボーンはスティック状のそれから蓋を外してクルリと指で回した。 現れたピンク色の物体に首を傾げる。 「こんな派手な色が似合うってのか?」 「見た目はすごいが塗ると淡くなるんだ。地の唇の色にほんの少し色と光を添えるだけで十分だろう」 会話の意味は分からないが、多分口紅というヤツで間違いない。 問題はどうして2人がオレを見ながら話しているのかだ。 まさかという予想より、やっぱりという諦めが湧いてくる。 どこから取り出したのか小さな筆が現れて口紅にそれを押し付け色を移した。 筆の先に乗った口紅を顔の前に差し出されて首を横に振るも、リボーンの手が頬に添えられて固定していく。 止めろと開いた唇にリボーンは構わず筆を走らせた。 「動くんじゃねぇ、バケモノみたいに仕上がるぞ」 唇に触れるぬるりとした感触に眉を潜める。 心底逃げ出したいと思いながらも、顔を掴まれた手の強さにそれも出来なくて泣ける。 唇の内側まで塗りたくられて息を吸い込むと、やっとリボーンの手から解放された。 「悪くねぇか」 だろう!と胸を張る副会長をジト目で睨めば、離れたと思っていたリボーンの手がまた顎に伸びて戻される。 「痛いってば!ってか、なんでお前ら知り合いなんだよ!」 オレが猫耳メイド姿にされた理由はこいつなんじゃないのかとさえ思えてきた。だけど周りの目が気になるから大声は出せなくて余計にイラつく。 あらん限りの目力を込めて睨み付けるも、リボーンは舌打ちをして妙な台詞を呟いた。 「そういう顔は2人きりの時にしやがれ。そうしたら邪魔もなく最後までことが運ぶ。怖がらなくていいぞ、オレは上手いからな」 「何の話だよ!いいからオレの質問に答えろって!」 年々リボーンの言動がおかしくなっていく気がする。誰かバカなオレにも分かるように翻訳して欲しい。 げんなりと肩を落としてリボーンから視線を逸らすと、後ろから副会長が割り込んできた。 「夫婦喧嘩は余所でやれ。見せられるこっちはたまったもんじゃない」 「…副会長も敵か。分かった、リボーンと同属なんだろ!」 そう言ってやると、副会長は顔色を変えて近付いてくる。余程リボーンと一緒にされたくなかったらしい。 オレの胸倉を掴み上げた手が、リボーンによって捻り上げられて地面に叩きつけられた。 可哀想にと思いつつも、オレに言えるのはこれだけだった。 「お前、いい友達持ってるな」 「あぁ?パシリだぞ」 リボーンの辞書には友達という言葉はないらしい。 2012.09.14 |