リボツナ4 | ナノ



2.




人間界に降りてきて、一番好きになった文化はゲームとマンガだった。
ゲームはのめり込むほど熱中したし、マンガは足が棒になるほど立ち読みを繰り返した。

しかし何事にも根気もやる気もないツナは、その内家で寝転がりながら出来るということを覚えて今はそれを実践中である。

山積みになったマンガの本の中でも世紀末の破天荒な物語が大好きなツナは、今日も今日とてホアタタタタ!などと口に出しながらゲームに勤しんでいた。

このゲームを全クリできたら一度魔界に顔を出しに行こうと思いつつ…

そんなツナの住むアパートは1DKの独身男性が住むに相応しい大きさだった。
隣近所も同じような学生などが住んでいるそこはツナの右腕であるゴクデラが見つけてきた場所である。

ゴクデラはかなり強力な魔力を持つ魔物で、ツナの周囲を同じ魔物や天使などから隠してしまう魔術をかけてくれている。

見た目が15〜6歳にしか見えないツナが、補導されることもなくまたストーカー被害に遭うこともなく日々を過ごせるのは一重にゴクデラのお陰であった。

そんな自称右腕の涙ぐましい努力など理解していないツナは、一撃で倒されてしまった自身のプレーヤーにうわぁあ!と雄叫びを上げていた。

「何で、どうしてあそこでアイツが出てくるんだよ!ありえねーっ!!」

手にしたコントローラーをブンブンと振り回していると、滅多に鳴らないインターフォンが狭い部屋に鳴り響いた。
ゴクデラの施した魔術は下心を持った者や悪意を抱いた者には効果的だが、それ以外には普通にすり抜けられるようになっていた。
だからツナは今月は大家さんの集金が早いなぁ…なんて思いながらも財布片手にドアの施錠を開け、ガチャリと取っ手を押し上げて玄関の扉を開いた。

「ちゃおっス!」

「…間に合ってます!」

一度だけ見た男の顔を視界に入れた途端、急いでドアを閉めにかかるその動作より早く、男の靴がドアの間に挟まった。

「つれねぇな。だがこの格好でも惑わされないとはさすがオレが目をつけただけある。」

「訳分かんないこと言うなよ!ってか、どうしてココが分かったんだよ!」

ドアの隙間から覗く男の姿は今日は黒尽くめのきっちりとしたスーツ姿だった。
けれど先日目撃したあの破廉恥な布一枚の姿より、よほど禁欲的でストイックな格好は逆に男の色気が滲み出て同じ男でもドキッとしてしまうほどだった。

しかしそんなことを悟られたら何を言われるか分かったものじゃない。
とにかくこいつを叩き出さねばと押し込められた靴先を蹴り出そうと視線をそちらに向けた瞬間、強い力でドアを引っ張られて思わずドアにつんのめり、玄関先に転がってしまった。

「よお、天岩戸に隠れたアマテラス。なかなか強力な術で隠蔽していやがって探し出すのに苦労したぞ。」

「いてて…って、誰も探してくれなんていってないだろ!」

玄関扉の向こうの廊下に強かに背中をぶつけたツナを無視して部屋に上がりこむ男を慌てて追いかけた。
ツナより頭一つ分半は背の高い背中に文句を言ってやろうと勢いよく足を踏み出すと、突然その背中がピタリと止まって勢いを殺せなかったツナはあまり高くもない鼻をぶつける羽目となった。

「いきなり止まるなよ!」

「お前…この部屋はなんだ?これじゃオレの座るところさえねぇぞ。」

「元々ないんだよ!」

まったりのんびり試練を乗り越えようとしていたツナは、誰を呼ぶ訳でもなしと掃除も碌々していない有様だった。
たまに様子を伺いにくるゴクデラが見るに見かねて掃除をしていくくらいで、ツナには整理整頓や清潔第一などという言葉は存在していなかった。

名家の跡取りであり、魔界一の貴族でもあるツナは掃除はして貰うものだという感覚でしかない。
それに案外この狭く物が煩雑に積み重なった状態というのは欲しいものにすぐ手が届くので居心地がよかった。

だから今すぐ帰れと男を追い立てようとすると、くるっと振り返った男は目深に被った帽子の奥から切れ長の瞳をキランと光らせてツナの後ろ襟を摘み上げた。

「掃除、するぞ。」

「え、嫌…はい、します。」

落ちこぼれな上に、瘴気の少なさにヘロヘロなツナでは到底敵わない力の持ち主だと直感が告げていた。
リングで魔獣を召喚しても多分これでは相手にもならないだろう。

こいつは一体何者なんだと思いつつも、一日かけて部屋の掃除をさせられることになろうとは思ってもみなかった。


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