リボツナ4 | ナノ



10.




この年になるまで恋人の一人もいなかったからキスもこれが初めてだった。キス、と呼んでいいのかすら怪しい仕草で唇を重ねて押し付ける。
チョコレートの匂いのする唇を塞いで、だけどそれ以上何をすればいいのか分からないからすぐに離れていけば、背後から回された手がせがむように囲いを狭めてくる。
もう一度ってことだろうか。そう思いながらまた口付けを落とせば、今度はリボーンの唇が薄く開かれてオレの唇を甘い舌が舐めてきた。

「んむっ」

チロチロと動く舌がくすぐったくて声を漏らせば、綻んだ唇の奥へと入り込んでくる。それにどう応えればいいのか分からない。
リボーンの浴衣の奥襟に指を伸ばすと、背中を包んでいた手が後頭部に回されて逃げ出せなくなっていて焦る。
息を吐くために薄く開いた唇の端からリボーンの舌がぬるりと入り込んできて、自分以外の温かいそれに目を見開いた。
気持ち悪いとは思わなかったが、気持ちいいとも思えない。甘い匂いを口腔で感じて、やっとリボーンとキスをしている自覚が出来た。
どこに手を置けばいいのか、どう動けばいいのかすら分からないまま、とりあえず瞼を閉じる。するとリボーンの手がオレの身体を引き倒して畳の上に寝転がされた。
顔の上にある視線が近い。
その顔が何かを諦めたように歪む。

「人が折角段階を踏んでやろうってのに、何すっ飛ばしてんだ。これからどうするのか知ってんのか?」

「どう…っ、て?」

これからって何だと首を傾げてリボーンを見詰め返せば、オレの気持ちが分かったのか疲れたように長いため息を吐いた。
それよりも畳の冷たさと濡れたままの髪に身震いがして、くしゅん!とくしゃみを飛ばすと、畳の上から解放されてタオルを持った手が伸びてくる。
何かを吹き飛ばすようにかなり乱暴に髪を拭かれ、めまいを起こしかけた頭を押さえていれば、リボーンの手に引き寄せられた。
温かい腕の中でホッと息を吐く。

「リボーンはさ、本当にオレでいいの…?」

ずっと聞きたいと思っていたことを訊ねてみる。
自分で言うのも哀しいが、運動神経は皆無、勉強は超低空飛行、要領も悪くて顔もまぁ普通だ。
これといったセールスポイントもないオレのどこがよかったのかなんて怖くて聞けないが、リボーンとの釣合わなさは自覚しているだけに不安だった。
何と答えるのかとリボーンの顔をタオルの隙間から覗いていれば、オレの頭を覆っているタオルの上に顎を乗せながら口を開いた。

「そういうお前はどう思ってるんだ?」

「んなっ!……だから、チョコ渡しただろ!」

おまけにキスまで強奪したぐらいだ。自分の行動を思い出し、恥ずかしさに顔をタオルに埋めていれば、横から手を差し込まれてタオルを脱がされる。

「そうだったな、キスもしたしな」

言われて益々顔を背ければ、頬から顎に沿ってリボーンの指がするりと伸びてきた。

「もう一度、してもいいか?」

耳元に寄せられた唇から低い声が漏れ鼓膜を叩く。ぞくりと背中を這い上がる感覚に押されるように顔を上げると、見たこともない顔をしたリボーンがそこにいた。
怖い。
強い力で顎を摘み上げられて逃げ出すことも出来ない。開きかけた口許を緩く閉じて、それから視線を外した勢いでわずかに頷く。
それに気付いたリボーンの顔が上から落ちてきて、横から掬い取るように唇に近付いてくる。柔らかい息遣いを頬に覚えながら、気恥ずかしさに目を閉じた。
なのにいつまで経っても何も起きない。
焦れたオレは瞼を押し上げると、想像以上に近い位置にリボーンの顔が迫っていて驚いた。

「な…っ、えぇぇえ!?」

またからかわれたのかという憤りも、どこかに吹き飛ぶ近さに身体が逃げを打つ。けれどリボーンの手はしっかりと固定されているから身動き一つ取れない。
唯一自由になる右腕でリボーンの腕を叩くと、急に唇を塞がれた。気を抜いていたから開いたままだった歯列を割られて声も出せなくなる。
先ほどのキスなんてキスとは呼べなかったんじゃないのかと思うほど貪られ、されるがままに舌を絡ませて溺れた時のように手をリボーンへと伸ばす。
ぎゅっと握った浴衣の生地が皺になるほど強く力を籠めていなければ、自分が誰に何をされているのかすら分からなくなりそうだった。
天井に向かって吐き出した自分の荒い息遣いを耳にして互いの唇が離れたことを知る。
オレを覗き込むように顔を寄せるリボーンの視線を見付けて、それに焦点を合わせるとまた顔が近付いてくる。
それに気付いたオレは、力の入らない手をどうにか動かしてリボーンの顔を押し留めた。

「…どうした、」

「や、だって!これ以上はなんかヤバそうだなー…って」

身の危険を感じるだなんて大袈裟だが、どうにも身体が逃げを打つ。手でリボーンを押し返していれば、オレの身体を支えていたリボーンの手が突然外れてゴロリと布団の上に転がった。その上にリボーンが伸し掛かる。

「いい勘してるじゃねぇか」

「ひぃぃい!」

逃げようとする肩を掴まれて悲鳴を上げると、顔の上で噴き出したリボーンが身体を戻して起き上がった。

「嘘だ、ってことにしてやれるほど好きだぞ」

オレが起き上がるために手を貸してくれたリボーンは、もういつも通りのリボーンで、先ほどまでの知らない男の顔はどこにも見えない。
そういう風に切り替えが出来るリボーンはやっぱり大人で、振り回される自分は子供かもしれないけれど。
乾かしてこいと叩かれた頭を抱えながらそこから立ち上がり、ドライヤーが置いてある洗面台とは逆の襖の向こうにある布団へと向かう。
オレのすることを黙って見ているリボーンの視線を背中にしたまた、その一組の布団を引き摺ってくる。
そして、先ほどの隙間をすべて埋めてぴったりと布団をくっ付けた。

「いっ、一緒に寝てもいい?」

「おまえ…」

新婚さんの寝具のように並べた布団の上で正座をしてリボーンの返事を待つ。オレの行動に絶句したリボーンが迷ったように視線を彷徨わせてから口を開いた。

「夜中に襲っちまうかもしれねぇぞ」

「大丈夫だよ、多分。リボーンはオレが本当に嫌ならしないよな?」

だから平気だと返せば、リボーンは肩を落として頭を掻いた。

「いい度胸じゃねぇか。オレの理性頼りって訳か?」

ニヤリと笑う顔がとてつもなくいやらしかったけれど、それに顔を赤くしながらもどうにか頭を縦に振った。

「う、うん。リボーンが待っててくれるなら、頑張れる…かも」

「ナニを、だ?」

「いやらしい言い方するなって!」

自分で言った台詞に照れたオレが髪を乾かさないまま布団に潜ったせいで、翌朝ものすごいことになったことをその時は知らない。


おわり




2012.03.09



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