リボツナ4 | ナノ



4.




心配していたほどの波風も立つことはなく、終始和やかな雰囲気で挨拶を済ませると食事を一緒にとってリボーンは帰っていった。
それに間に合うと思っていた父さんは出張先からの帰り便が吹雪のせいで飛べなくなったとこことで、結局母さんに会っただけになった。ホッとしたような、とんでもない弱みを握られてしまったような微妙な気分だ。
車に乗ってきたからと飲酒を控えたリボーンを玄関の外まで見送って、テールランプが見えなくなってから踵を返す。
父さんは帰って来れないから鍵は閉めておこうと玄関の錠に指を掛けて音がするまできちんと回すと、キッチンで片付けをしていた母さんがひょっこり顔を覗かせた。

「もう帰られたの?」

「うん、母さんに夕飯おいしかったって伝えてくれって言われた」

まあ…と頬を淡く染める母さんに胸がもやもやとしてくる。そういえばリボーンをオレが知るより先に目をつけていたのだと言っていたことにも気付いて益々眉間に皺が寄ってきた。
後ろを踏んでつっかけ代わりにしていた靴を脱ぐと、機嫌がよさそうに鼻唄まじりでキッチンに戻っていく母さんの後ろ姿に声を掛ける。

「…母さんもリボーンみたいなヤツがいいのかよ?」

思った以上に不満げな声になったことに驚いて、そんなオレの気持ちに気付いたらしい母さんは肩越しに振り返って笑った。

「そうねぇ、カッコいいじゃない。って、焼きもちかしら?」

フフッと含み笑いを浮かべる母さんの表情を見て指摘された事に気付いて目を見開いた。

「ちっ、違う!」

首を振って否定しても、母さんはオレの言葉なんて聞かずにどんどん話を進めていく。

「そうなの…よかったわ。母さんツナが鈍いからリボーン先生が大変だと思ってたけど、大丈夫みたいね」

「何いってんだよ!オレマザコンじゃないし!」

話が噛み合わないと思いながらもそう叫べば、母さんは笑っていた顔をピタリと止めて生ぬるい顔になった。

「……ツナ?どっちに焼いたの?」

「どっちっ…て、」

訊かれて母さんをベタ褒めしていったリボーンにイラついたことを思い出す。確かに母さんはオレみたいな高校生の息子がいるようには見えないほど若い。いつも姉弟と間違われている母さんを恥ずかしく思いながらも、心の隅では自慢に思うこともなくはない。
だけど父さんがいるんだからダメだろうと思い返すと、また腸が煮えくりかえってきた。

「母さんは父さんがいいんだろ?」

オレにしてみれば、あんなだらしない父さんのどこがいいのか気が知れない。だけど父さんと母さんはいまだに新婚のように夫婦仲がよくて、中てられっぱなしの毎日なのだ。
それが突然消えてしまったようで嫌な気分になったんだろうと自分の気持ちを整理してみれば、母さんは呆れた顔でため息を吐いていた。

「勿論、父さんが好きよ。でもリボーン先生も素敵よね……って、嘘よ。ツナったらすごく面白い顔になってるわよ?鏡を見てらっしゃい」

指摘された顔を慌てて手で庇うと、母さんはおかしそうに笑い声を上げた。からかわれたことに気付いて睨むも、笑いをおさめようともしないまま母さんはエプロンを翻してキッチンに戻っていく。

「フフッ、母さんはリボーン先生の味方をしちゃおっと!」

「どういう意味だよ!」

味方って何だと訊ねても答えは返ってこなくて苛々しながら母さんを追ってキッチンを覗き込んだ。
洗い物に取り掛かろうと袖を捲くり上げていた母さんは、ふと思い付いたように動きを止めると顔をこちらに向ける。

「父さんが居なくてよかったわね」

「ホントだよ!」

母さんが少女のようにはしゃいでいた姿を父さんに見られずに済んだことにそう返事をすれば、母さんは少し困ったように首を傾げながらオレをマジマジと見詰めた。

「母さんだって賛成って訳じゃないの。でもツナのそんな顔を見たら反対出来なくなっただけだってこと、忘れないでね」

「あ、うん…」

そういえば本来の目的は、学校のある日に休んで旅行に行くことの了承を得るためだったと思い出す。
バツの悪さに視線を下げると、母さんは気にした風もなく流しの前に立って洗い物を始めた。

「しばらくは母さんが誤魔化しといてあげるから、早く気付くのよ?」

「へ…?う、うん?」

妙な台詞が紛れ込んでいたことに気付くことなく、とりあえず分かったフリをして頷いておいたのだった。











薄い空色が広がる窓の外の景色をぼんやりと眺めていた。
校庭には一日の最後の授業から解放された生徒たちがバラバラと校舎に吸い込まれていく。
これで今日の授業は終わったんだと確かめるために腕時計に目を落とすと、そんな自分の行動に気付いて苦笑いが漏れた。
何度目なのか数える気にもならないほど、今日は時計ばかりを気にしている。約束の時間まであと4時間だなと数えては、顔を机に押し付けて返りのHRが終わることを待っていた。
13日の今日は授業を終えてから出発するという約束になっている。
色々と上の空のまま通り過ぎた一日を思い返すことも出来ずに、また腕の隙間から冬の空を見詰めていれば校庭の端にリボーンを見付けてギクリと肩が揺れた。

「あんなところで何してるんだろ…」

まるで人目を忍ぶように木陰を伝い歩いていくリボーンの背中が、体育館の奥に吸い込まれていく。
気になって目を凝らしても見える筈もなく、覗き込もうと立ち上がると既にHRも終わっていたのかクラスには自分以外の人気もまばらになっていた。
一瞬の逡巡のあと、鞄を掴み取ると昇降口まで駆ける。
下校で賑わう正門と反対側にある体育館へ通じる道に飛び込んで足音を立てないように近付いていくと、今から部活に向かう生徒が同じ方向を目指して歩いていた。そこに向かい合う形で女子生徒が走り去っていく。
胸に抱えていた包みを潰しそうなほど握り締めたまま、顔を伏せてオレの横を通っていった姿に驚いて足を止めると、前を歩いていた2人組の女子生徒が声を殺しながら喋りはじめる。

「あれって一日早いバレンタインだよね?」

「ひょっとしてリボーン先生かな?受け取らないって本当かも…」

「そうみたい。しかも明日お休みするって職員室の黒板に書いてあったから、今日慌ててって子が多いらしいよ」

「嘘!知らなかった!でも甘い物は苦手だからいらないって言ってたのに、みんなあげるんだ」

「だって、一つだけ待ってるなんて言われたら自分かも…って思うじゃない!」

「と、いうことはあんたあげたんだ?」

目の前ではしゃぐ2人と後ろを通り過ぎていった女子生徒の存在に足が重くなる。勢いを失くした足は進むことを嫌がって歩みを止めた。
オレが止まったことで脇を通っていく人波が割れて、何人もの生徒が迷惑そうにこちらを振り返る。
その視線が怖くなって顔を下げると横を通る男子生徒が肩をぶつけてくる。慌てて隅に寄ってやり過ごすが、逃げ出すことも出来なくなってしゃがみ込んだ。


制服のポケットには昨日買ったばかりの綺麗に包装されている小箱が押し込められている。
そこに手を突っ込むと部活に向かう足並みが途切れるまで待っていた。


2012.02.21







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