リボツナ4 | ナノ



1.




女心と秋の空、という言葉があるらしい。同じように男心と秋の空ともいうことわざがあるので、ようはどっちもどっちだということだろう。
そんなことはどうでもいい。
今、オレにとって一番気になることと言えばコレだ。

「なに呑気に湯船に浸かってやがるんだ。オレの背中を流せってのが聞こえなかったのか?」

「イイエ、聞こえていました」

シャキンと顔に向けられた水鉄砲を前に、慌ててバスタブから立ち上がる。
リボーンの背中なんて小さいのだから洗うも洗わないもない、なんて言ったら水鉄砲で酷い目に遭うことなど刷り込み済みだ。
レオンが変身している水鉄砲の威力は半端ない。昨晩はそれで危うく窒息するところだったのだ。もう水鉄砲というより水マシンガンだろう。

「ツナ!オレの背中も洗えだもんね!」

「嫌だよ。ランボはもう大きいんだから洗えるってこの前言ってただろ!」

何かとリボーンに張り合うランボは、その一言にぶうと頬を膨らませた。

「もう!いいから先に洗えって」

一々構っていたら今度はリボーンの雷が落ちる。つい先日までは触れることも許してもらえなかったというのに、最近のリボーンは変だ。
そうは思いながらもただの気まぐれだろうと勝手に結論付けて、ランボに石鹸のついたスポンジを渡すと何を思い付いたのかいきなりバカ笑いを始めた。

「ガハハ!そうか、そうだったもんね!ランボさんはリボーンより大きいから一人で洗えるもんね!」

「お前な…」

懲りるという言葉を知らないランボは、いつでもリボーンの逆鱗に触れては酷い目に遭わされている。
今日はどんな騒動を巻き起こすつもりなのかと黙って座っているリボーンに視線を向けるも、ムッとするでもなくオレの顔を見詰めていた。

「なっ、なんだよ!」

「いいから早く洗え、ダメツナ」

格下は相手にしないと言いながら、その実ランボのうざったさに切れてしまうことが度々あるリボーンなのに今日は視界に入れる気すらないらしい。
楽といえば楽だが、そうするとヒートアップするのが子供な訳で。

「まだ洗って貰ってるのか。やっぱリボーンは赤ん坊なんだもんね!」

「…」

調子付いたランボの台詞にも答えることなくオレだけを見続ける。

「ツナ」

「う、うん」

妙な雰囲気があるような気もするのだけれど、それが何なのかオレには分からない。
分かるのはリボーンの言うことを聞かなければ、後が怖いということだけだ。
呼ばれて逆らえる筈もなく、リボーンの背中に回りこんで手を伸ばす。
リボーン専用のスポンジにソープを付けてよく泡立たせてから小さい背中をそっと擦り始めると、その横で別のスポンジを握っていたランボが騒ぎ始めた。

「うえぇぇえ!リボーンばっかずるいー!ランボさんもやっぱりツナに洗って欲しいもんね!」

「うわぁ!バカ、それは…!!」

仲間外れにした訳でもないが、一人では寂しかったのかランボが涙を鼻水を垂らしながらスポンジを床に叩きつけた。
泣くと何故か髪の毛のモジャモジャの中を漁りはじめるランボは、やっぱり今日もいつものお約束を取り出して…。

「こっちに向けるなーっ!!」

ドカンと一発大きな砲弾の音の後に、慌ててしゃがみ込んだオレの頭上スレスレをそれが飛んでいった。
その先にはリボーンがいることなど知ってはいたが、ランボの弾に当たるほど可愛げなどないリボーンだから大丈夫だろうとタカを括っていた。
なのに。
横目で弾の行方を確かめていたオレは、リボーンが少しも動かないことに気付いて顔を強張らせた。
また動けないのかと声を掛けようとしたオレに向かってリボーンはニヤリと笑う。

「いいか、オレの言うことだけをよーく聞くんだぞ」

「って!」

そんな場合じゃないだろうと手を伸ばした先で、リボーンは白い煙に包まれていった。








オレにとっては毎度のこととはいえ、リボーンが10年バズーカに当たったのはこれで2度目だ。
1度目は未来に強制移転させられたことを抜けば、これが初めてと言ってもいい。
もくもくと白い煙の向こうから現れた人影の大きさに目を瞠る。
だってリボーンは赤ん坊だ。例えこれから成長するにしてもこの目の前の大きさにはなり得ない筈だ。
つまりはそれぐらい大きかった。

手にしたスポンジを握り締めたまま、次第にはっきりしてきた背中の広さに呆然と立ち尽くす。
自分と同い年の山本は随分上背がある方だがこの白い背中とは肩の広さが違う。
大人の男だと分かる背中を見詰め続けていれば、脱ぎかけていたYシャツを片手で毟りながらこちらを振り返った。

「…なんだ、随分懐かしい場所に飛ばされたもんだな」

開かれた唇から響く、艶のある低い声に聞き覚えはない。
一体どうしてリボーン以外が現れてしまったのかと、男の顔を眺めていて気付いた。

「似てる…」

そうリボーンに似ている気がした。
クリクリとした大きな眼とこの切れ長の釣り目ではまったく接点など見当たらないけれど、オレを見詰める視線とか、真意の読めない薄く笑みを浮かべているようにも見える口許など雰囲気が似ていた。
そんなバカなと頭を振って、オレを見下ろす視線に向かい合う。
すると、男は明らかに笑みを深くして口を開いた。

「10年経っても変わってねぇと思っていたが、さすがにちっとは育ってたんだな」

顔というよりその下を見ての呟きに慌てて下肢を手で覆う。

「どこ見て言ってるんですか!ってか、誰だよ!」

見られまいとしゃがみ込んだ先には男のナニが下着のない状態でこちらを向いていた。
正直、その状態の他人のそれを見たのは初めてだ。
一体これはどういう状況なんだとしゃがみ込んだ先で顔を伏せて逃げ出そうとするも、二の腕を掴まれて引き戻される。

「分からねえか?」

「分からない…と思う」

だってこれがリボーンだとしたら、今までの赤ん坊姿に納得出来なくなる。
10年バズーカで入れ替わった10年後のリボーンがこんな大人の男になる訳がない。
変わり過ぎだと頭を振って男を見上げていると、この風呂場に不似合いな男は肩を竦めオレに背を向けてしゃがみ込んだ。

「スポンジを持ってるってことは背中を洗うところだったんだろう?丁度いい、洗え」

「んなっ?!どうしてオレが」

リボーンならまだしも、何故突然現れた見知らぬ男の背中を洗わなければならないのかと言いかけて口を噤んだ。
ジロリとオレを睨む視線は覚えのある冷たさで、否応もなく身体が自然に動きだす。
やっぱり本人なのかと勘に突き動かされる形で、男の背中に手を伸ばす。
よく泡立てていたスポンジだったが、時間の経過で泡がしぼんでしまっていた。
いくら広い背中とはいえ、これでは痛いかもしれないとスポンジを外すと桶に張っていたお湯に漬けて水分を行き渡らせた。そこにボディソープを垂らして泡立てていれば、大きな手がぬっと伸びてオレの手ごとスポンジを掴んだ。

「まどろっこしい手付きだな、昔も。貸してみろ」

そう言うと男の両手はオレの手ごとスポンジを揉みはじめた。
あっという間にきめ細かい泡が膨れ上がり、膝をついていたオレの下肢を白い泡が隠していく。
それでも止まらない男の手に段々意識が鈍りだして、誰の目からも隠すように足どころか腰まで泡にまみれていた。
その中をするりと何かが動き出す。

「っっ!」

腿と腿の間を泡を擦りつけるように手で撫でられて息を飲むと、目の前の男がクツリと声を漏らす。

「やっ、ちょ」

「ランボが見てるぞ」

言われて横を見ればランボがムッとした表情でオレと男とを睨んでいる。
いつもなら真っ先に割り込んで来るのに、男が誰なのか知っているのか、それとも怖いのか。
見られていることに気付いたオレは、男の手を外そうと泡の中に手を伸ばすがそれも男の手はすり抜けていく。
中心を避けて腰骨をなぞり、そのまま尻の膨らみへと伸びてきた。
泡のすべりのせいで拒むことも出来ずに撫でまわされて顔が赤らむ。
妙な声が出そうになって、見られている恥ずかしさに唇を噛んで堪えようとしても、それを許さないというように手はどんどん奥へと入り込んでくる。

「っ…!は、ぁ!」

食いしばった歯の隙間から漏れた息遣いが自分のものとは思えないほど艶かしくて、益々顔が熱を持つから慌てて俯いた。
それでも手は自由気ままにそこを撫で上げる。

「ひぃ…っ!!」




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