リボツナ3 | ナノ



19.




さんざんな目に合った昼休みが過ぎ、今日のオレが担当している授業も午後は一時限だけだった。
珍しく書類も溜めていなくて夕日が見える時間には帰れることとなった。
リボーンは生徒会の用事で遅くなるらしく待っていろと言われたけど、あんな意地悪したヤツの言うことなんか聞くもんか!無視だ、無視。

早々に帰り支度をはじめるオレを見て、ディーノ先生が羨ましそうな顔をしていた。
だけどそれは変わってあげられませんよ。
そろそろ生徒たちの通知表をつける作業に入っていて、オレは前任の教師のある程度の評価を参考に終わらせてある。ディーノ先生はそれをやっている最中なのだ。

「お先に。」

「おう、気を付けてな!」

職員室に居残る多くの教師たちや生徒などに声を掛けて、夕日を眺めながらバス停へと歩いていった。






学園前のバス停には同じくバスを待つ高校生たち2人が待っていた。
オレもそこで待つこと5分、丁度学生やサラリーマンが帰宅する時刻で賑わうバスに乗り込んだ。

朝乗る時に使っている場所は他の学生たちに占領されていて、仕方なく空いている場所を探して前へと進む。するとそこだけぽっかりと空いていて、ラッキー!と足を踏み入れて後悔した。
…朝の痴漢男だ。
だからここだけ空いていたんだと納得してももう遅い。
次の停留所で降りて歩いて帰る決意をしていると、ぐっと手首を掴まれた。

やはりというか、うんざりというか。
手を掴んできたのは痴漢男で、薄気味悪い笑顔を浮かべながらケータイ画面をこちらに見せる。
女の子の下着でも盗撮してんじゃないのかと、顔を背けるとぼそりと呟く。

「…いいのかい?こんな写真誰かに見られても。」

「なに…?」

意味が分からないながらも、何かオレに関係のある写真なのかと横目で窺うと顔が強張った。それを見て、痴漢男がまたケータイを操作して次の写真を見せる。
血の気が引くというのはこういった場面で使う言葉なのかと痛感した。
青くなっていくオレに嬉しそうに舌なめずりすると、これをバラ捲かれたくなければ公園前でバスを降りろと脅された。





逃げられては堪らないと考えたのか、先にバスから降ろされて公園へと歩かされた。
逃げる気など更々ない。逆に逃げたらあの写真をどうされるのかと思うとそっちの方が怖かった。
だからといって今、怖くない訳ではない。何を要求されるのか、金銭だろうか。
公園までの道のりがいやに長く感じて、だけど脅される怖さに短くも感じた。
後ろを歩く男の視線が背中に絡み付いて気持ち悪い。それでも下だけは向くまいと歯を食いしばって前を向いた。

バスに乗る時にはまだ夕日が残っていたというのに、今はもう薄暗がりが辺りを支配している。
公園に足を踏み入れたときには、すでに夕焼けの残像すら残っていなかった。
街灯が灯る公園の池の前のベンチの後ろに連れていかれると、芝生の上へと座るように指示された。
ゆっくりと脅すつもりだろう。
目に力を込めて男を睨むと、ヒヒヒッと楽しそうに笑い出した。

「ヒヒヒッ…前にも何度か見かけたことがある、君とこの学生が学園前で降りるのを。君は事務員だろ。高卒で入るなんてよっぽどのコネがあるのか、その可愛い顔で取って貰ったのか。」

誰が高卒だ。こいつオレのことを幾つだと勘違いしてやがる。ムカムカして益々睨む瞳に力が入る。
するとそれさえ愉快だと言わんばかりに大きな声で笑い出した。

「図星か…それなら、いくら君も未成年だとはいえ高校生とこんなことしてちゃいかんだろうな…おじさんはコレを学園に出してもいいんだよ?」

ケータイに写っていた写真は丁度そういう風に撮ったのかリボーンがオレにキスしているように見えるものだったり、尻を撫でているところだった。今のケータイはムダに画素が細かいのでばっちり写っていて、いい訳のしようもない。
下唇をぎゅっと噛むと、わざとらしくおやおや!と声を上げる。

「おじさんは君みたいな可愛い子を虐めようなんて気はないんだ。…どうだい、あんな高校生よりおじさんの方がうまいよ。おじさんと色々するならこの写真は君のケータイに送ってあげよう。データも消してやる…」

「なっ…!」

何をトチ狂ったのか手を握り、オレの上に伸し掛かってきた。
びっくりして咄嗟に足が出る。鳩尾に綺麗に決まると、男は情けなく悲鳴をあげて芝生の上に転がった。それでもオレに言い募る。

「よくも…こんなことをして、ただで済むと思うなよ!今から学園に出向いてバラしてやる!」

芝生の上を這い蹲って男が膝立ちで言い放つ。
学園に行かれては堪らないのでハシッと男のジャケットを掴んで頭を下げた。

「行かないでっ…ください…」

項垂れながら言うと、男はオレの肩に手を掛けてその手を尻と前へと滑らせてきた。ぞわっと総毛立つような気持ち悪さに、今度は出そうになる手足をどうにか押さえ込む。
首筋に掛かる男の生ぬるい吐息に吐き気をもよおすが、硬く目を閉じてそれも堪えた。

「そうだよ、物分りがいい子だ…そうして大人しくしていればいずれ返してあげるから…いずれな。」

この変態野郎、金じゃなくてオレの身体を要求してきやがった。しかも、いずれってことは一回二回じゃないつもりだってことだ。
こんなヤツ本当なら一発で伸してやるのに、あの写真が他にもデータとして送られている可能性もあって今は手出しが出来ない。
そうこうしているうちに尻をなぞっていた手と前を触っていた手がベルトに手を掛けて外しはじめた。

気持ち悪い、怖い。
ハァハァと一人興奮している男がベルトを抜いてスラックスに手を掛けた。
ネクタイもシャツのボタンも外されて前をはだけた状態で芝生の上に転がされて、手出しできないのをいいことにいきなり胸の先を弄りだす。
嫌だ嫌だ嫌だ。
リボーンとの最初も強姦だったじゃないかと言い聞かせて我慢しようと思っていたのに、男の手が身体をまさぐる度に違ったんだと教えてくれる。
こいつの行為は自慰の延長線だ。自分だけ気持ちよければいい。オレは人形かなにかだと思っているのだろう。優しさも気持ちもどこにも感じられない。
あるのは自分だけの欲望を吐き出したいという欲求だけだ。

逃げ出したいのに逃げ出せない怖さに雁字搦めになっていく。
上を辿る男の手や下肢をいやらしく揉みしだく手にもまったく反応しない身体に焦れたのか、下着越しに弄っていた手を裾からするりと中に突っ込まれた。

「…す、け…て…リ……」

嫌で気持ち悪くて、助けて欲しくて。
涙と一緒に零れた言葉を拾いきれなかった男が、怖いのかい?と見当違いな言葉を掛けてくる。
それでも裾から立ち上がる気配すらない中心を握られそうになった瞬間、草むらから声が掛かった。

「よく言えたな、ツナ。もうちっと遅かったらお仕置きだったぞ。」

「リボー…」

「なっ、何だね君は?!」

がさがさと音を立てて出てきたのはやはりリボーンだった。
手には何故かビデオカメラが。それを見た男がザーッと青くなっていく。

「おっさん、これは何だか分かるよな?そうだ、夜間でも撮影可能なカメラだ。で、このアングルだと誰を撮っていたのかも勿論分かるよな?」

「きき君は、個人の行為を勝手にビデオに収めていいと思っているのかね!」

「それはこっちの台詞だ。…てめぇ何オレとツナのラブラブ写真撮ってやがんだ。そっちこそ個人の自由を損害してるぞ。」

ああ言えばこう言うという見本のような遣り取りだ。
オレはといえば、それを転がされた芝生の上で呆然と眺めていた。
するとリボーンがオレの情けない姿をみて、眉間の皺を増やす。

「ツナ、そんな艶姿はオレの前だけでいいんだぞ。早くしまえ。」

「バッ…!」

何言ってんだ!バカ、バカ!
羞恥で顔を赤くしながらも起き上がるとはだけている前を掻き寄せて急いでボタンを留めて、スラックスも元に戻す。
そんなオレとリボーンを呆然と見ていた男は、ハッと気付くとまた性懲りもなくリボーンへとあのケータイの写真を突きつけた。

「こ、これを見ろ!お前がこの子に痴漢行為をしていた証拠を掴んでいるんだぞ!」

「だからなんだ?」

「なにっ!!」

男はリボーンに掴みかかろうとして、すいっと避けられて道路へと転がる。

「大体その画像、作った画像だな。オレ様がそんな不細工なわけねぇし、ツナももっと可愛いだろ。出来の悪い画像だな…20点ってところか?」

「は…?」

リボーンの言葉を聞いてオレは思考がフリーズして、男は身体が固まった。どうやら本当だったらしい。
その男の前に先ほど撮ったビデオのDVDをちらつかせ、一見笑っているようにも見える顔で言った。

「こいつには、ツナの顔は写らないように撮ってある。だがてめぇの顔と悪事はばっちり収めてある…さあどうする?こいつを持って警察に自首するか?」

それを聞いた男はヒィー!!と悲鳴を上げると土下座して画像を消すと、二度とオレに近付かないことと痴漢行為を働かないとこを約束して走り去っていった。


充分言葉と証拠で脅しつけたリボーンが、やっとこっちを振り返った。

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