リボツナ3 | ナノ



16.




好きなだけヤってろと身体も気持ちも投げ出して床に転がっていると、それに気付いたのか乱暴な手付きで身体をまさぐりはじめた。
今までは手加減されていたのかと思うほど容赦のない手は、弱い部分をしっかり覚えていてそこばかりを苛め抜く。

皮膚の薄い脇腹に吸い付かれ、背中に手を入れられて指で一つひとつの背骨を撫でていく。ぞくりとくる感覚に仰け反り、胸を顔に貼り付ける格好となった。それに構わず至るところに痕をつけ、歯型を残してゆく。
痛みと快楽の境界線は曖昧だ。
一番弱い胸の先には手を付けず、まわりを指で撫でたり舌で舐め取られたりして焦らされる。
頭を振ってやり過ごそうとしても、すぐに弱い部分を弄られてまた高ぶりに戻された。

下肢に熱が溜まり、リボーンの着ているシャツを汚していく。まだジャケット以外は身に着けているリボーンと、全裸で喘ぐオレ。この状況は何だか今の立ち位置と似ている。
余裕綽々のリボーンと、恋と欲にまみれたオレと。
我慢していたものが急に溢れていく。止めようもなく零れる涙と噛み殺しきれなかった嗚咽とかついて出た。
みっともない。
ガキにいいようにされて、身動きがとれないほど骨抜きになって…どうにもならない辛さに泣いている。滑稽過ぎて笑いが込み上げてくる。
顔を手で隠しても、その下から漏れる涙と自分への嘲笑が止まらない。

するとその笑い声が気になったのか手を止めて顔を覗き込まれる。
これ以上暴かれるのは御免だ。
片手で顔を隠したまま、もう片方の手を振ってリボーンを遠ざける。

「ヤりたいなら構わずやれ。」

「ツナ…」

顔だけ隠して身体を投げ出すのに、その上から退いていくリボーンに益々苛ついた。
極力リボーンを見ないように起き上がり、先ほど脱がされたばかりのシャツを纏ってベッドに腰掛けた。
その間中もずっと視線が絡み付いていたことも知っている。
顔を上げリボーンを見れば、言いたいことがうまく言葉にできないといった表情でこちらを見ていた。
何をいわんや。
これ以上傷付くのが嫌で、曝け出すだけの強さもなくて。
咄嗟に出た言葉は本音と嘘が入り混じっていた。

「お前のおもちゃにはならないけど、お前が飽きるまで付き合ってやる。ただし、学校や人の目のあるところでは御免だ。先生が生徒に手を出した、なんてオオゴトにされるのは嫌だからな。」

言えば目を瞠る。
羽織っただけのシャツを肩から落とすが、リボーンの手によって止められた。
膝をつく姿勢でにじり寄ってきた格好のリボーンと顔が近い。
覚悟を決めた筈なのに近い視線に肩が揺れると、それを見て顔を強張らせていった。

「ツナのことをおもちゃ扱いしたことはねぇぞ。」

睨む視線の先で困惑気味の表情を浮かべるリボーンに、鼻で笑ってやる。

「そんなこと、もうどうでもいいだろ?ほら、好きにしろよ…」

リボーンの手を取ると胸に押し当て、目を瞑り顔を近付けていく。
破裂しそうな心臓を宥めながらその唇に吸い付くと、思ったよりも暖かいんだなと場違いな感想が思い浮かんだ。舌を這わせ、自ら差し込むとそっと絡めた。舌と舌がゆっくりと重なっていくと、ねっとりと絡め取られてすぐに息が上がりはじめた。
オレが覆い被さっていた筈なのに、気が付けば上から伸し掛かられていた。ベッドの向こうの壁に押し付けられて、手は逃げられないよにか壁に貼り付けられていた。
主導権は完全にリボーンに取られてしまっている。
それでもいいさと舌を擦り合わせると、気持ちがいいのに、何故か胸の奥が苦しくなってきてまた涙が零れた。

快楽だけ追っていけたらどれだけ楽だろう。
できもしないことを思って泣くと、口付けがしょっぱくなっていく。
苦くて塩辛い口付けをしばらく続けていると、手首を押えていた腕を外して背中と腰に巻き付いてきた。
やめて欲しい。
そんな最愛の恋人にするような仕草に、胸の痛みは増すばかりだ。
苦しいと思う心に任せて手で胸を押し返すと、あっさりと解けてゆく腕と唇に歯噛みした。

「…どうすりゃいいんだ?」

見詰める瞳は何かに焦れていた。けど、それはオレが言いたい言葉だ。

「そっちこそ、どうしたいんだよ。好きにしろって言ってるだろ!」

感情的に怒鳴るオレをただ見詰めるだけの視線に苛々して風呂場へと逃げ出した。
コックを捻り、熱いシャワーを頭からかぶる。皮膚が赤くなるような熱さに身体の中の熱も流してしまいたいと思った。
水飛沫をあげて跳ね回るシャワーに身を委ねていると、コンコンと小さくノックする音が聞こえた。
扉の向こうにリボーンがいて、疚しさと曝け出すことの怖さに身体が竦む。
入ってくるのだろうか。
好きにしろとは言ったが、今は抱えきれない感情を流すだけで精一杯だ。
擦りガラスの向こうの影を目で追う。
だが入ってくることはなく、小声で帰るぞ、と言って出て行った。







「ああ、無情…」

「おっレ・ミゼラブルか?」

ぼんやりと職員室の自分の席から覗くと、空は綺麗に晴れ渡っていた。
寒の戻りなのか、3月に入ったというのにまた寒さがぶり返している。
いい天気が恨めしくてつい呟いていたら、斜め向かいの席に帰ってきたらしいディーノ先生が声を掛けてきた。

「違いますよ。…どうにもならないことってあるんだなと思ってたんです。」

「あー…まぁ、そりゃ人の心は如何ともし難いしな。うーん。」

酔いに任せて吐き出してしまったらしく、ディーノ先生はオレが彼女に振られたと思い込んでいた。
彼女だったらどんなによかったか。実はリボーンで、身体の関係までありますなんて言える筈もない。
黙って苦笑いしていると、ちょいちょいと手招きされる。

「何ですか?」

「しーっ!…誰にも言うなよ?明日、M女学院の女教師たちと合コンがあるんだ。一人、生徒にインフルエンザを移されて休みなんだけど…ツナ来ないか?」

辺りに聞こえないように小さな声で誘ってくれた。
でも気が乗らない。首を横に振ると、ディーノ先生にポコンと頭をグーで叩かれた。手加減してくれたようであまり痛くない。

「バッカ!お前、女はそいつ一人じゃないぜ!どんどん他を探してくんだよ!」

「…前向きですね。」

「おう!いつかオレのドジもひっくるめて好きになってくれる子を探すんだっ!」

「声が大きいです。」

熱く語りだしたディーノ先生の声に、周りの先生方の視線が集まった。
恥ずかしいったらない。
でも、そんな前向きな先輩を尊敬していたりもする。
ふと魔が差したとでも言うのか、つい承諾してしまった。

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