リボツナ3 | ナノ



7.




どんな話も相手を信じていなければ意味はない。
言葉というものはどうにでも解釈できる。
自分の思った通りに相手に伝えるのは意外と難しい。

歪む視界の先にある顔から紡がれる言葉は、信用に値するのだろうか。
いや、違う。
嘘は付かないと信じられる。
でも自分がそれを前にして、果たして最後まで聞いていられるのかが分からなかった。


現会長である九代目からは、オレの教育とできればイタリアへ連れてきて欲しいと頼まれたのだと。
ぽつりと零した言葉は、4年前と同じ。

「それなら連れて行けばよかったんじゃないの?」

行く気はなかったが、会社の辞令ならば行っただろうに。
今も、辞令一つでイタリアへ出向させることも可能な筈だ。

「オヤジもザンザスも、お前を無理矢理どうこうしようとは思っちゃいねぇ。…オレもお前が行く気にならねぇなら、行かせる気はねーんだ。」

「……どういうこと?………だったら何であの時にわざわざ、本家の人間だって喋ったんだよ?!」

何も言わず、イタリアへ帰って行けばよかったのに。
薄々は気付いていても、確信はなかった。たとえそうだったとしても、バラさなければオレは目を瞑っただろう。
バカなヤツだと笑われても、嘘でもきっと信じた。

「本気で好きになったヤツに嘘は付けねぇ。」

外耳を通って鼓膜へと打ち付けられた音は、声として脳へと送られる。その声が言葉として伝わるのにほんの一瞬も掛からない筈なのに、意味を成したのはたっぷり10秒は過ぎてからだ。
けれど、その意味が分かっても理解はできなかった。否、理解はしても心が拒否をした。
幾通りもの言葉の意味を考えて、辿り着いた答えはそれだった。

「それは信じられないよ。」

リボーンほどの男なら、引く手数多だ。何もわざわざ、冴えない、鈍くさい、地味な、しかも男なんてどう考えても頭がイカレたんじゃないのかと思うだろう。
まだ本社に連れて行くという大儀があって手を出したと思うほうがまともだ。

オレの答えは分かっていたのか、苦笑いの表情でオレの額にかかる前髪を掻き揚げると唇を落とす。
優しい感触に胸がつかえた。

「一目惚れだったんだぞ。」

「はぁ?」

益々もって信じられない。
何言っているんだと額の上にある顔を覗けば、意外にも真剣な顔をしていた。
騙されるもんかと睨むと、真剣な顔のまま呟く。

「最初が最初だったんでな、気になるのはしっかりしてねぇからだと思ってた。」

まぁそうだろう。
入社式だというのに寝坊して、式の時間に遅れたがどうにか紛れ込んだ先の末尾席。入社のしおりすら忘れたことに気付いて隣の席の男に見せて下さいと頼んだ。それがリボーンだ。
いいぞ。としおりを半分寄越されて、ありがとう。と顔を上げれば見たこともない美男子で。至近距離で見たその美貌にドキマギして慌てて顔をしおりに落としたことを覚えている。
それから、なにくれとなく世話を焼かれて気が付けば隣に居ることが当たり前になっていった。

気の置けない同僚から、意味を変えていったのはあの時からだ。

本社がイタリアなんだから、読み書きくらいは出来るようにしろとスパルタで扱かれていた夏の日。
丁度お盆休みに入ったばかりで、帰省しなかったオレはいつものようにリボーンのマンションで辞書を片手に首っきりでスペルを覚えさせられていた。
甘い物が好きなオレは、勉強の合間に持参したアイスを平らげ、また出された課題を仕上げなければとノートに向かっていた。

「おい、ツナ。付いてるぞ。」

「ん?何が?」

シャープペンを止めて、顔を上げればリボーンの手が顔に迫ってきて、何するんだろうとぼんやり見ていると今度は顔まで近付いてきた。
顎を掴まれ、迫ってきた顔がぼやけたと思ったら唇に生暖かい何かが触れていった。

「悪くねぇ。」

何が、とは聞かなかった。否、聞けなかった。
もう一度近付いて来た顔が薄く開いた口を塞いだからだ。



その後も流されるままにリボーンに流されて、気が付けば同僚から恋人になっていた。
いや、恋人だったのかさえ自信がない。
好きだとは言われたが、言った覚えはなかった。
終わるような予感がしていたから、流されたのだと思っていたかった。

間抜けなことに、本気で好きだったのだと気付いたのはリボーンがイタリアに去ってからだった。
許せなかったのは本気だったからだ。
信じられなかったのは自分に自信がなかったから。

そして今も自信などありはしない。


押し倒されて、囲われた腕のなかで、息が重なる程近くにいるのに遠いと思った。
言いたいことは聞こえているのに、信じ切れなくてふぅとため息を吐いた。
視線を外したオレに向かって、唐突に言葉を紡ぐ。

「四年間、忘れたことはなかった。どうしたら、傍に居られるのか考えて…日本に戻ればいいってことに気が付いた。」

「…趣味悪いよ。」

「てめぇで言うな。それでもお前がいいんだ。」

「っ…!」

信じたいと思った。
一度裏切られたからじゃなく、自分に自信がないから信じ切れない。
リボーンを信じていない訳じゃない、これだけ傾いているのに寄りかかることが出来ないのは言葉をうまく飲み込めないからか。

目の前にある顔を引き寄せると、そっと唇を重ねた。
頭を抱え、リボーンの重みを身体が思い出すように引き寄せた。 

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