リボツナ3 | ナノ



10.




これはしばらく噂になるんだろうなと思っていたのに、それ以降はピタリと女子生徒からの呼び出しも、男子生徒からのからかいもなく、至って平穏だった。
本当になにもない。
悪かった、なんて言われてどうするのかと思っていたのに、昨日と違って付き纏うわけでもなければ無視もしない、普通の生徒と教師に戻ったようだ。
それでいい筈なのに、何故だかモヤモヤする。
準備室で一人で食べる弁当が寂しいなんておかしい。

一通り机仕事を終えると、机の隅に置きっぱなしだった弁当の器を下げて軽く洗い流す。その器を職員室へと置きに行こうと廊下に出るとリボーンとばったり鉢合わせしてしまった。
リボーンの背中には可愛らしい女子生徒がぺったりとくっ付いていて、頬を染めてうっとりしている。…どうやらお楽しみだったようだ。
胸の奥がジリジリと焼けるようで、そんな気持ちになるのは久しぶりだった。そんなバカなとリボーンたちを見ていられなくて視線を横に向けると、後ろにいた女子生徒が声を掛けてきた。

「沢田先生、貧血はよくなったんですか?」

何を突然言うのだろうかと顔を戻し目を瞠っていると、リボーンが間に入ってきた。

「バスを降りたらよくなったって言ってましたよね。」

取ってつけたようないい訳だが、確かにそう言っておけば四方丸く収まるのだろう。
なのに先ほどの胸が焦げるような痛みが、ムカつきへと変わっていった。
すまし顔のリボーンに、納まらない腹の虫がひょっこり顔を出す。それを見てにっこりと笑い掛けると言葉が勝手に口から出ていた。

「ああ、もう平気だから。迷惑を掛けて悪かったね。これからは別の時間にゆっくり乗れるように気をつけるよ。」

棘のある言葉に気付いたリボーンが眉をぴくりと動かしてたが、それに構わず彼らの前を立ち去る。脇をすり抜けようとして手を掴まった。

「ちょ…っ!」

「ちょっと沢田センセイと話があるから、悪いな。」

リボーンの後ろにいた女子生徒を引き剥がすと、オレの腕を掴んだまま引っ張っていかれた。
昼休みということもあり、廊下を行き来する生徒もいるのでここで暴れて今朝の二の舞を踏みたくない。腕を振り払うことも出来ずに大人しくついていくしかなかった。
肩越しに見える顔は無表情で何を考えているのか読めない。
だけどオレもむかむかしていて、話があるんなら聞いてやろうじゃないかと腹を据えた。
そうして引っ張ってこられた先はやはり生徒会の執務室だった。



扉を乱暴に開けると、オレの腕を力いっぱい引き寄せて部屋の中へと押し込める。
純粋な力勝負だと敵わないのがくやしい。
やっと腕を離したと思えば、肩を掴まれて扉に身体を押し付けられた。
掴まれた肩が痛くて睨むと、視線の先のリボーンがイラついた瞳で眺めている。

「…人が噂を消していりゃあ…」

「誰が頼んだよ!あれくらいならその内消える程度だ。」

互いに睨み合う距離が妙に近くて、ふと気恥ずかしさを覚えた。咄嗟に視線を下に向けると肩にあった手が顎に掛かる。
くいっと顎を上に向けられても視線は外したままであわせられない。

だって今の言い方じゃ…

「…オレとの噂を消さない方がよかったのか?」

「そうじゃないけど、一々言って回ったって変わりないだろ…だから、その、」

どういい繕ってもそうとしか取れない発言をしてしまったらしい。
必死に視線を合わせまいとキョロキョロと忙しなく視線を彷徨わせていると、いきなり顔が近付いてきて逃げる間もなく口を塞がれた。
もう片方の肩にあった手は逃げられないように背中に周り、足の間にリボーンの足が割り込んで身体をもっと強く押し付けられる。

布地越しの身体が触れる度に熱くなっていった。
はぁ…とその熱を吐き出すと重なった唇からぬるりと舌が割り込んでくる。
顎にかかっていた指は徐々に下を辿っていき、シャツの襟の中へと入っていくと鎖骨をなぞった。
ぞくりと背中を駆け抜けるそれに身を任せ、口腔をなぞる舌に追いたてられて気が付けば舌を絡め取られていた。口の中を舌で蹂躙されながらもどうにかついていこうとするとネクタイの下のボタンを外された。一番上以外はすべて外されて、そこからするりと手が入り込み、胸の先を弄りだした。
どちらのものとも分からない唾液を飲み込もうとしているのに、舌を舐め取られて口の端から零れていく。

「うン…っ…んっ…」

声になりきれなかった喘ぎも零れて恥ずかしい。
それでも行為を止められず、手は縋るようにリボーンの制服にしがみ付く。
そっと忍び込んだ指が少し弄られただけで硬くなった乳首をコリコリと摘むと力が抜けた。身体が熱くてどうにかなってしまいそうだ。
ただ前にある存在だけを追っていると、肩を抱いていた手がゆっくりと背中をなぞる。
背中が弱いオレは、過剰に身体が震えてしまった。
貪っていた唇を少し離すと額を擦り合わせて目を覗きこまれながら呟かれた。

「すげぇ可愛いぞ、センセイ…」

「バカ…ッ!」

「バカはねぇだろ?…なぁ、妬いたのか?」

「誰が!」

即座に否定してやったのに、何嬉しそうな顔してるんだ。
バカだ。バカ、バカ。
顔どころか全身まで火が点いたように熱くて、しかも逃げられない。
それでもやっと羞恥が戻ってきて、リボーンの肩を押し返していると、足の間にあった膝がオレの内腿をスラックス越しに擦り上げた。
全身のどこを触られても熱くて堪らない。ゾクゾクと背筋を這い回るそれは快楽の種火で、身体の裡にひっそりと灯り始めていたことを突きつけられた。どうにもならない熱を小さく息にして吐き出した。
胸が焼けるほどの甘い吐息と、どうにもならない熱さにじっとリボーンを見詰めていると、ガチャリと扉の鍵を閉めてオレのスラックスのベルトに手を掛けた。

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