リボツナ3 | ナノ



8.




フレンチトーストにメープルシロップをたっぷりかけると一口くらいの大きさにして頬張る。満足のいく甘さににんまりと口元が緩む。
そんなオレを見て、少々うんざりした表情のリボーンが視線を外へと向けた。甘い物は本当に嫌いらしい。
視線の先を同じように覗くとビジネスマン風のおじさんたちや、中学生くらいの少年少女たちが足早に過ぎ去っていく。

学園行きのバスの時間にはまだ30分はあるので、泊めて貰ったお礼にとモーニングを奢ることにしたのだが、あんまりお気に召さなかったようだ。
曰く、コーヒーが不味い。
一口飲んでは眉間の皺を深くしている。

「悪かったって。…コーヒーはダメでも食事は摂ってけよ。」

「朝からクソ不味いコーヒー飲んだらいらなくなった。」

「コラ、コラ。」

リボーンの注文したトーストにバターをたっぷり付けて口許まで運ぶ。するとトーストとオレの顔とに視線を交互に移して口を開かない。しょうがないヤツだ。

「ほら、あーん。」

やっと口を開けてトーストを一齧りした。
もぐもぐと咀嚼するが、視線はやっぱりオレとトーストの間を行き来している。

「なに?」

「…もっと寄越せ。」

「はい、はい。」

偉そうに。なんて思いながらもついついバターを塗ってリボーンにもう一口やってから気が付いた。
何でオレが喰わせてやらなきゃならないの。
この状況ってあれか?新婚家庭のはい、アナタ。あ〜ん!なんてヤツか?!そうなのか!?
やっと気付いて慌ててトーストを皿に戻すと、今度はリボーンがオレの皿からフレンチトーストを摘んで口許まで寄せてきた。

「口開けろ。」

「いいい、嫌だっ!遠慮する!」

ぶんぶんと首を横に振ると、手首を掴まれていまだ鬱血の残るそこへと唇が落ちてきた。
びっくりして手を引き戻そうとしても掴まれた手首はびくともしない。そうこうしている間に手首の内側の皮膚の柔らかい部分を唇で啄ばむと新しい痕を付けた。

「ちょっ…、やめ…」

いくら客の少ない時間とはいえ、無人ではない。見られているのではという意識から声を低くして言い募るのに、ちっとも聞いてくれる気がないらしい。
暴れたせいで擦れた皮膚に舌を這わせると、最後の仕上げとばかりに指の間を舐められ、ひゃっ…!と小さく声が漏れた。

「バカ!何するんだよ!」

やっと戻ってきた手を慌ててテーブルの下に隠すと、それを見て楽しそうに笑っていた。
ご機嫌は治ったらしい。眉間の皺がなくなってなにより…って思えるかっ!

急いで食べきると、リボーンもトーストとサラダだけは手をつけていつも乗るバスの時間より少し早くにバス停へと足を向けた。
だってあれ以上いたら何されるか。
恥ずかしいじゃないか。って、いやいやいや!それっておかしいだろ?!恥ずかしいだけなら2人きりだったらいいみたいじゃないか。違うよ。オレはあんなことされるの嫌だって!
心の中でひとり突っ込みを入れていると、後ろに並んでいたリボーンが小声で喋りかけてきた。ちなみに前後には人がいる。

「…列の最後尾にあの痴漢野郎がいるぞ。」

「えっ…」

よく見れば後ろに学校就任の初日に痴漢行為をはたらいた狼藉者が確かにいた。
あの時はリボーンが間に入ってくれたので騒ぎになることもなくやり過ごせたのだが、さて今日は…と横目で見ていると、こちらをちらちらと視界に入れていた。

「本気で狙われてんな、あの変態に。」

「…どうしよう……」

今度こそ手が出てしまうことは確実だ。
騒ぎになれば折角ありつけた職がパーになるかも。
どうやってやり過ごそうかと考えていると、リボーンが後ろから誰にも聞かれないほど小さな声で囁いた。

「庇ってやろうか?」

「な…?」

「一つだけ、オレのいうことを聞くならあの変態が近付けないようにしてやる。」

後ろを振り返ってリボーンの顔を覗くと性質のよろしくない笑みをたたえている。

「何させる気?」

「それは後でのお楽しみだぞ。」

ニヤリと笑う顔を見てどうしようかと悩む。
あの変態にまた絡まれるのはご免だ。でもこいつに借りを作るのもヤバいような…。しかも何か企みがあるみたいだし、どうしよう。
いや…でも…とぐるぐるしていると、バスがとうとうやってきてしまった。
乗車口が開き、前の人たちが動き出した。迷っている暇はない。
のるか、そるか。

「…よろしく……」

後ろを振り返って小さく呟くと、いいぞ。と返ってきた。
痴漢が寄ってこないようにするってどうするつもりなんだ?!とか、その後のこととか…すっっごく不安だけど一度口に出ししまった言葉は取り消せない。


後ろに押されるようにバスへと乗り込んだ。


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