リボツナ3 | ナノ



6.




「疲れた〜!」

ぐでーと職員室の自分の机に顔ごと突っ込んだ。多少どころでない書類やらテストの山が崩れて床に落ちたが、後で拾えばいい。今はとにかく疲れた。
ここから一歩出ると気の休まる場所がないのだ。
だから職員室にいる時だけはと机に懐いていると、斜め前から声が掛かる。

「ん?どうかしたのか?」

呑気な声で訊ねてくるディーノ先生には悪いけど、今は相手にしたくなかった。
いつどこであいつが見ているとも限らない。…と、考えてそれって変じゃないか?と気付いた。
あっちが勝手に誤解して、あんなことまでされたというのに誰にも言えないばかりか、ディーノ先生との仲を誤解されたくなくて近付かないってのはやっぱりおかしい。

いらぬ反骨精神が疼いてきた。

「ちょっと疲れたんです。」

「はははっ!まだ3日しか勤務してないんだぜ!頑張れよ、後輩。」

「はぁ〜い。」

気の抜けた返事をすると、書類の山からお菓子入りの箱が飛び出てきた。
どうやらディーノ先生へ女生徒からの差し入れらしい。
ありがたく頂戴する。

「…いーですよね、ディーノ先生は。モッテモテで…」

「そーかぁ?そんなことないぜ。それにツナも生徒に人気あるじゃないか。あのリボーンを懐かせたのはお前だけだぜ。」

「……」

そこは深く突っ込まれたくない。懐かれたのではなく、貞操を狙われてるとは言いたくもない。
先ほどまで美味しかった筈のプチシューが今は胃にもたれるようだ。

「あいつ、すげぇ頭いいから扱い難いらしくってさ…しかも、ここの理事長の孫だもんだから先生方も距離を取ってるっつーか…それがお前とは初日っからイイ感じだろ?ホッとしたぜ。」

「…ディーノ先生、妙に詳しいですね?」

「うっ!」

言葉が詰まった様子のディーノ先生は、辺りを見回してオレたちしかいないことを再度確認すると、小さな声で教えてくれた。

「リボーンとは親戚なんだ。あいつがチビの頃からよく知ってるし…その、お前をこの学園に推薦したのも実はオレなんだ。」

「そうだったんですか…」

素直にありがとうございますとは言えないのが辛いところだ。
教師にはなりたかったし、その点では本当にありがたいとは思っている。
リボーンとああなっちゃったのは、ひとえにあいつの何様な性格のせいであって、決してディーノ先生や理事長の責任ではないとは思うのだけれども。

「オレのモノになれ」発言から一夜明け、あんなことをされてどうやって接すればいいのかと一晩考えたというのに、リボーンときたら昨日身体を好き勝手したなんてなかったかのように普通に…いや普通じゃない、オレの行くところに必ず出没しては荷物を持ってくれたり、準備室に篭っていれば手を握って口説いてきたりと、そりゃあもう情熱的だ。
唯一の救いはそれ以上は無理強いしないことだろうか。

でも疲れる。

オレは男であって、同じ男に口説かれるなんてご免だ!と何度言っても分かって貰えない。しかも、手を握られると昨日の今日ということもあり、身体が勝手に竦むのだ。
だからといって無碍にも出来ない。
生徒だからだよ…と思っているのに、それだけじゃないような…手を握られたら振り解けばいいだけなのに、何故か振り解けない。
そんないったりきたりを繰り返す気持ちに振り回されて疲れていた。

机の上で腕を組んで、その上に顎を乗せて考えていると、ディーノ先生が書類の山を掻き分けてにゅっ…と顔を近付けた。

「今夜、帰りに一杯奢ってやるって!」

「…飲めません…」

「それなら美味いもん喰わせてやる。」

「デザートまで食べますよ?」

久しぶりに先輩に奢って貰えそうで、ついつい嬉しくて互いに顔を突き合わせていると、その後ろからガラリと扉が開いてリボーンがやってきた。
オレとディーノ先生を見ると目を眇め、不愉快だといわんばかりの表情でこちらに向かってくる。

「よっ!噂をすればなんとやらだな!」

「…何だって?」

「何でもないよ!」

オレとリボーンの仲がよいと思い込んでいるディーノ先生は、リボーンに睨まれていることにも気付かないでニパッと笑う。

「今晩メシを喰いに行くけど、お前も来るか?」

なんて気軽に言ってくれちゃって!
それを聞いたリボーンが、益々眉間に皺を寄せてからディーノ先生の座る椅子を後ろから蹴った。

「ツナに手ぇ出すんじゃねぇ。…行くのか?」

最後の一言はオレに向かってだ。いつの間にか敬語もなくなり、先生とも呼んでくれなくなっていた。それにちょっとムッとしていたオレは意趣返しをしたくなって、笑顔で勿論!と言ってしまった。

「お前…今は誰もいないからいいが、他の先生方がいるときにはするなよ?で、行くか?」

あくまで分からないらしいディーノ先生は目が据わっているリボーンにやっぱり気付かず訊ねる。
それにああ、とだけ答えるとくるりと踵を返して出て行ってしまった。

オレは悪くない、と思う。
だってディーノさんはただの先輩だし、先輩に奢って貰うのくらいいいだろう?しかもオレとあいつは付き合っている訳じゃない。
なのに何でこんなに悪いことしちゃった気になるんだろう。

こんなに気持ちが纏まらないのは初めてだ。

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