リボツナ3 | ナノ



2.




どうにか場所を移動し、リビングまでツナを連れてきたのだが先ほどの一件で警戒されてしまったのかソファに座ることもせず一人体育座りをしながらこちらの様子を窺っている。
猫の子が警戒心丸出しで近付く様を思い出しながら、写真をツナに差し出した。

「…喧嘩してるみたいだよな?」

「犬も食わない何とやら、だぞ。」

そういうものかと納得したらしいツナは、写真とオレとを見比べてからそっとそれをテーブルの上に返した。ツナ用にと用意したカフェラテを恐る恐る口に含むとパァと表情が明るくなる。

「オレの好きな味、知ってるんだ?」

「当然だな。」

喧嘩ばかりしていたが、昼時になれば必ずツナと一緒に食事を摂ったりと顔を見せることだけは欠かさなかった。存外自分も健気なところがあると少し前までの学園生活を思い出していれば、そんなオレの顔を見ていたツナが綻ばせたままの顔でオレに笑い掛けている。

その顔にふと魔が差したように心の奥深くに何かが膨らむ。
このままの状態がずっと続けばいい。すべてを忘れて自分しか頼る者がいない状態がずっと。
記憶のないツナなど本当のツナじゃないという思いをねじ伏せる勢いのそれに、自分で自分を嗤っていればツナが驚いた顔でこちらを見上げていた。

「どうしたんだよ?」

「いや、何でもねぇ。それよりお前は思い出したのか?」

「…全然。」

頭を振って否定する姿に嘘は見えない。気付かれないようにホッと息を吐いてからツナの方へと身体を寄せる。するとツナは手にしていたマグをオレとツナの間に突き出しながら慌てた様子で声を上げた。

「ここに来る前に名前と住所は確認したんだっ!財布の中に学生証があったから。だけど自分のいた場所がどこなのか分からなくて…丁度いい場所に交番があったから、手にしてたここの住所を聞いて来たんだけど…!」

「だけど?」

邪魔なマグを取り上げテーブルに置くとツナが危険を察知してかオレから逃れるように後ろへと下がる。そういう態度に出られれば余計にちょっかいをかけられることも知らずに。
逃げた分だけにじり寄れば、またそれを見てジリジリと下がる。何度目かのそれを繰り返したところで、広いラグからはみ出した足が床の冷たさに視線を下に向けた隙をついと腕を引くと、簡単にツナをラグの上に押し倒すことに成功した。

「リ、リボーン?!」

「どうした?」

毛足の長いラグにツナの背中を押し付けて、その上に乗り上げる。逃げられないように跨ると大きな瞳が揺れて、困り果てている心情までつぶさに曝け出した。
ひょっとしたら今しかチャンスはないのではないかと心の中の自分に唆されてツナの顎に手が伸びた。震える唇に自分のそれを寄せていくと突然現れた手に進路を阻まれて眉間に皺が寄る。

「どういうことだ。」

手の平に吹きかけるように訊ねると目の前の顔がへにょりと歪み、それを見てまた手を押し退けるように顔を下へと押し付けた。

「待っ、ちょっとだけ待てって!」

「待てと言われて待てるのは犬っコロぐらいだぞ。」

必死に力を込めていたツナの手をひょいと掴むと、ちょうどいい具合に重なっていた両手首をラグに押し付けて鼻先がくっ付くほど近くに顔を近づけた。
ぼわりと赤らむ顔に不審の影も見当たらず少し胸を撫で下ろす。

「どうして待って欲しいんだ。」

「だって…覚えてないっていうより、慣れてないような気がするんだ。違う?」

さすがにそれは隠しきれないらしい。さもあらん、付き合ってなどいないのだから。
芝居がかった仕草で肩を竦めると拘束していた両手を離してから少し身体を起こした。

「そうだな、まだそこまで進んでねぇからな。」

「そうなんだ…」

ホッとした様子で起き上がろうとするツナの、肩を押して再びラグの上に押し付ける。

「だから、今日こそして見たかったんだ。ちょうど誕生日だからな」

「誕生日…」

ツナの視線がチラリとテーブルに置きっぱなしになっている手紙に向いた。途端に顔を赤くして視線がさ迷う。
何を思い出したのか一目瞭然だ。

ディーノはツナの従兄の同級生だか小さい頃からの知り合いだったらしい。どう見ても日本人そのものなツナだが、遠い親戚がイタリアにいるのだと聞いた時には驚いたものっだ。
それがオレの知り合いだったことを知ったのはつい先日、従兄とともに日本に留学してきたディーノから覚えのある名前を耳に入れたからだった。

オレはツナの従兄の家に居候した関係でディーノと従兄とに日本語を教えていたことがある。
そんな訳で、ディーノはかなり年下のオレに頭があがらずあんな贈り物を考えたらしい。
手紙の内容はどうとでも取れるもので、ツナは記憶がない状態なのだからディーノが書いたことも知らない。

「ツナ。」

そう呼び掛ければ赤い顔をわずかに横に向けながらも、視線を重ねた。

「嫌か?」

「い、いやって言うか……」

しどろもどろになりながらも、視線を逸らしたらオレに悪いと思ってか逃げることなく覗き込んでいる。
そんなツナに畳み掛けるように訊ねた。

「なら、いいんだな?」

どう返すのかじっと見つめていれば、薄く開いていた唇が下から重なってきた。

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