リボツナ3 | ナノ



1.




本日19度目のドアフォンが広いリビングに鳴り響いた。
それを聞いたオレはチッを舌打ちをすると嫌々ソファから身を起こす。面倒だが居留守を決めても相手が帰らないことは18回もの先客が教えてくれていた。
分かっていたことだからこそ、今日だけは家から出ないつもりでいたというのにこれである。
女という生き物はどこの国でも存外逞しいものだと辟易しながらも、リビングから玄関までわざとゆっくり歩いていった。

ガチャリと一つ目の鍵を外し、それから次の鍵に手をかけたところで扉の向こうからため息と共に聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「いない、のかな…どうしよう…こういう場合、どこに行ったらいいんだろう。」

途方に暮れた声で扉の向こうから遠ざかろうとする気配に慌てて扉を開けると、やはり見覚えのある顔が丁度背中を向けるところだった。

「オイ…!」

「あれ?」

染めてもいないのに明るい茶色の髪の毛と同じ色の瞳がオレの呼びかけに驚いた様子で振り返る。
普段ならば、寄ると触ると喧嘩ばかりのこいつとオレだが決して嫌いな訳じゃない。
証拠にこいつのいなくなってしまった高校がつまらなくてこうして平日の昼間にサボっているのだから。

オレの声に振り返りはしたものの、迷うような縋るような瞳の色にドキリとした。
初めて見せる表情にらしくもなく煩い心臓を悟られないように顔をわざと顰めてやれば、ビクリと肩を揺らして逃げ出そうとする。
慌てて手を伸ばして腕を掴むと目の前の顔が真っ赤に染まり、そんな表情に益々昂っていれば突然ツナが叫ぶように口を開いた。

「ご、ごめん!その、オレと知り合いなのかな?」

「…何だって?」

慌てた様子で顔をオレから逸らしながらの問い掛けに耳を疑う。
知り合いも何も、ダメツナとは去年まで先輩後輩の間柄だ。ツナが3流ながらも今年の4月に大学に入学したせいでその関わりも途切れてしまったが、それでも知り合いに違いない筈である。
内心の苛立ちが表れてしまったのか、ツナは小さい身体をもっと縮めて俯いてしまう。

「どうしてだか、オレ記憶がなくてさ。だけど、この紙だけは握ってたから…知り合いなのかなってさ。ごめん!勘違いだよな!」

どう見てもオレの友達って感じじゃないし!と精一杯の苦笑いを浮かべながらオレの前から逃げ出そうとするツナを抱えるように引き止めた。
ぐいっと腕を肩に巻きつけて後ろから覗き込めば恥ずかしそうに視線を逸らす。その表情に嫌悪は見られないことに背中を押されながらも、ツナの手元から紙を奪う。

「何々?『今日のプルゼントだ。一日好きに使っていいぜ』?」

ディーノのものと思しき文字の癖を見つけて大体の事情を掴むことが出来た。相変わらずレとルの書き分けが出来てないことに笑っている場合ではない。
紙にはその文字と一緒にここまでの地図か書き記されていた。
と、いうことはツナが記憶をなくすことまでディーノは知っていたということなのだろう。
つい数日前の、イタリアからの謎の国際電話の意味をやっと理解出来たオレは口には出さずに腹の底でニヤリと笑った。

「よーく知ってるぞ、お前のことを。」

「え?本当かよ!?」

何によって記憶を失って、何時までその状態なのかは分からないが、イタリアからの贈り物をありがたく受け取ることに決めるとひっそりと声を潜めてツナに話しかけた。

「そんなところにボサっと突っ立てんじゃねぇ。もっとこっちに近寄るんだ。」

驚いた様子のツナに、わざと顔を寄せて肩を掴んでいた手をするりと腰に這わせた。

「ちょっ…」

「嫌なのか?いつもしてるだろう?」

覚えていないことを分かった上で腰から太腿を撫でていけば、逃げられないツナがぎゅうと目を瞑った。
その後ろにある物影から、こちらを覗いていた数人のファンという名の追っかけに見せつけながら口を寄せる。
ふうっと息をツナの唇に吹きかけてやれば、覚えていないせいでか逃げないツナが小刻みに震えていた。
飛ばしすぎは先の楽しみが減ると自分に言い聞かせて、ツナの前髪を掻き上げると額の真ん中に口付けを落とした。

「リボーンだ。恋人の名前ぐらい思い出せねぇのか?」

「リボーン、リボーン…って、ちょっと!今聞き捨てならないこと言わなかったか?!」

オレの名前に覚えはあるのか、何度も口にしていたツナが顔を引き攣らせながらオレを見上げる。頭一つ分小さい位置にある視線にそ知らぬ顔で何のことだを嘯くとツナは胸倉を掴み上げながらもオレに詰め寄った。

「こ、こいびととか…その、嘘だよな?」

勿論嘘だ。だけどオレのことも、自分のことすら覚えていないツナを言い包めることなど至極簡単だ。

「嘘だと思うなら写真がある。それを見れば納得出来るんじゃねぇのか?」

写真があるのは本当だが、言い争いをしているところを隠し撮りされたものだった。
それ以外にもツナと2人だけの写真というのはあるのだが、顔を互いに背けているものだったりと甘い雰囲気の写真などあろう筈もない。
すべて見せろと言われたらコーヒーでも零すかと算段をつけながら、それを微塵も見せずにツナを見詰めていると、少し迷った様子で見せて欲しいと言ってきた。

「いいぞ、お前が特別だと分からせてやる。」

わざと聞こえるように声をあげれば、物陰にいた数人が齧りつくようにこちらを凝視していた。
これで明日には噂が広まるなとほくそ笑みながらツナの肩を抱いて玄関の奥へと引っ張りこんだ。








キョロキョロと辺りを見渡すツナの後姿を見詰めながら、玄関の鍵を2つとも施錠すると中に入るようにと促しツナの腰を抱える。すると触れた途端にツナの背中がしなり、オレから逃れるように身体を捩った。

「て…っ、やめろよ。」

「何でだ?」

覚えてもいない癖にと、逃げた分だけ力を込めて引き戻せば、今度は逃げずに顔を赤くしたまま何やらもごもごと口の中で文句を言っていた。

「オレ、覚えてないって言ってんのに…っ!…これ以上くっ付かれたら心臓止まる…」

今まで見たこともない恥ずかしげな表情と行動に、ふらりと引き寄せられるように顔を近づけるとツナの手がそれを押さえるようにオレとツナの間を塞いだ。

「こういうこと、してたのかもしれないけど今のオレにはムリ!」

こちらにまで伝わってきそうな脈拍の過剰を表す赤い顔に、喉の奥からクツリと笑い声を上げると糸が切れたようにツナは廊下の端にしゃがみこんだ。
いじめ過ぎたことに詫びる気で頭を撫でてやるとうううっ…とツナは奇妙な声を発した。

「ごめん…ごめんな。でも、嫌じゃないから。」

振り絞るように零れた言葉を聞いてわずかにあるらしい良心は痛んだが、それ以上にツナの本音を聞いて撫でていた手が止まる。
嫌いじゃないという言葉だけでも充分なプレゼントだと思いながら、それでももっとと欲張る自分を止めることが出来なかった。

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