リボツナ3 | ナノ



7.




顔を上げることも出来ず、身体の上に乗り上げていたリボーンさんの肩を突き飛ばすように押し返して下から抜け出した。下着どころか甚平の半ズボンまでべっとりと湿っている。
こんな生々しい交わりなど経験したこともないオレは逃げ出すという選択肢も忘れたまま呆然とそこを眺めていた。

「…何かねぇのか?」

「ご、ごめん。」

こんな姿など見せる気ではなかったのだと、男同士とはいえこんな気持ちの悪いものを見せて悪かったという気持ちでそう呟くと足を掴み取られて引き摺り戻された。
精液でベトつく前に顔を歪めながらそれでも隠すうように手でそれを覆った。

「なにするんだよ…っ、」

「何ってそのままじゃ気持ち悪いだろ。」

言うと隠していたオレの手を掴んで前からどけると、下着ごと半ズボンを毟るようにさげられて驚いた。

「見るな…見ないで!」

自分ですらまともに見られない白く汚れた下肢を、マジマジと見ているリボーンさんの視線を感じて羞恥でどうにかなってしまいそうだ。逃げ出そうともがくオレを上手に押さえ込むと長い指が起立に伸びて張り付いていた白濁を一掬いしていった。

「コレがどんな味か知ってるか?」

「やだ、やだぁ!」

掬い取ったそれを鼻先まで押し付けられて仰け反ると畳の上に転がり込んだ。そんなことなどどうでもいいほどパニック状態になる。
脱がされまいと掴んでいた半ズボンから手が離れると、すぐにリボーンさんの手に力が入って膝まで脱がされてしまう。けれどそんなことなどどうでもいいと思うほど、目の前のそれが気持ち悪くて仕方がない。
いくら自分の排泄物とはいえ舐めようなどと思ったこともないし、自分の汚らしい欲求の結晶なんて見たくもなかった。

顔を背けて横を向いていると濡れそぼって冷たくなっていたそこが温かい何かに包まれてびっくりして慌てて顔を下に向けて驚いた。

「ひぃ…っ!」

曝け出された下肢の間に頭を埋めるリボーンさんの後頭部を見て悲鳴があがる。
乏しい知識しかないとはいえ、これはさすがに何をされているのか分からない訳がなかった。

根元からじゅるりと音を立てて扱かれて眩暈がする。
気持ちいいとか悪いとかではなく、そんなことを『リボーンさん』にされているのだということが信じられない。
逃げ出すどころか動くことすら躊躇われて見開いたままの瞳で凝視していると、筋を辿るように舐め上げる舌が視界に入った。

「やだっ、お願いやめて!」

言葉とは裏腹に起ち上がっていく自身を目の当たりにして身体が震える。これからどうなるのかなんて知らない。だけど身体は覚えていた。
邪魔だとでもいうように左右に割り広げられた膝に手を掛けられると、ビクンと跳ねながらも意識とは裏腹に従順な態度で腰が浮いていく。そこに指が忍び込んでくると、尻の間をなぞられた。

「ん、は…っ!」

白濁を舐め取るように動く舌と、窄まりの奥のぎゅうと縮こまっている襞を同時に弄られて身体を支えている足がビクビクと反応する。
やっと離れたリボーンさんの口がくくくっと小さな笑い声を漏らして歪な形を作った。

「イヤだ、イヤだと言いながらえらく絶景だと思わないか?センセイ…?」

見ろと言われて思わず下げた視線の先には赤く立ち上がった自身と、それを押し付けるように浮かされた腰、それに奥で蠢く指の動きにもどかしさを募らせた震える足が見て取れた。

「あ…」

頭を振ることでそこから視線を逸らそうとしたオレの顎に手をかけたリボーンさんは、そのまま顔を寄せるとオレの唇に吸い付いてきた。
奇妙な匂いを纏った舌がぬるりと差し込まれて気持ち悪さに顔を顰めるも、逃げることも許されずに重なり合う。
奥へと逃げる舌を追って絡め取られ、その隙をみて指が中へと入り込んでいった。

「ふんン…っ、ん!」

横に逃げようとした動きすら読まれている。片足を畳に押し付けて目の前の肩に手を掛けるも、逆にその上に覆い被さられて余計に身動きが取れなくなった。
その間にも舌はいやらしい音を立てて絡まり、指は確かめるようにゆっくりと奥へと飲み込まれた。
ぐちゅりぐちゅりと響く音を聞きながら、ふと向いた横に転がるローションの文字を目にして、自分が何をされているのかをリアルに知った。
広げるように蠢いている指がまた一本増える。ぬるっと入り込む感覚にぞわぞわと鳥肌が立つような、気持ちよさに腰が砕けてしまいそうな、そんな相反する感覚に襲われる。

窒息寸前でようよう離れた唇からはどちらのものとも知れない唾液で溢れていた。そんな濡れた口許を舌先で舐め取りながらも顔を覗き込まれる。
恥ずかしさにぎゅっと目を瞑ると、許さないとでもいうように奥をぐりぐりと指で擦られて息があがった。

「『初めて』なのにイヤらしい身体だな。」

言われて羞恥が全身に広がる。
どうしてそれを知っているのかと問いたいのに、本当のことだと知られたくなくて口を閉ざすと、そんなオレの態度が気に入らなかったのか奥を弄る指が乱暴に抜き差しを始めた。
排泄器官を弄られているというのに痛みをあまり感じない。それすら不審に思うことなく震える手でリボーンさんのシャツにしがみつくと、脱げかけていた甚平の最後の紐を解かれてパサリと乾いた音が畳の上で立った。

「ゆうべの続き、するか?」

低い声が耳朶を打ち、その響きに今まで感じたことのない熱を身の裡に感じて身体を強張らせた。

「続き…」

続きということは先があったということで、ここまでされればガキでもあるまいし、この前がどうだったかなんて言われなくても分かる。
知らないのは行為の仕方であって、行為そのものの存在を知らない訳じゃない。当たり前だ。
じっとりと浮かぶ汗が肌を伝って布地に落ちていく。
酔った勢いというにはいささかならず常軌を逸していたといわざるを得ない。違う、そんな風に逃げてはいけない。
いや、知らぬ存ぜぬで逃げればいいのか?

それでもリボーンさんの手と舌を覚えているらしい身体は、熟れた果実のように赤みを帯びて期待に震えている。
どんなに言い繕ってもムダなほど興奮し続きを望む自身を前に、困惑が負けてしまいそうだ。
浅く息を繰り返しながら暑さとは別の身体の疼きが湧き上がって、そんな自分を持て余して視線を畳の目に落とす。

「だんまりは卑怯だろう?センセイが…ツナがシテ欲しいと言い出したんじゃねぇか。」

「んなっ…?」

女性としたことがないからといって、男に…それもリボーンさんのような黙っていても女性が寄ってくるような人にそんなことを頼むなんて、いくら酔っていたとはいえ恥ずかしさで消えてしまいたくなる。
ぎゅうと瞼を閉じて顎を引くと、睫毛を舌で舐められて驚いて目を開けた。

「逃げるな。するかしないか、どっちだ?」

訊ねられてビクっと身体が震えた。
したいと言えば出来るものなのか。それともリボーンさんはこう見えてどっちでもいける性癖なんだろうか。
だとしたら最初の頃にかけた電話口での、あの悩ましい声を漏らしていた女性とはどういう関係なんだろう。

と、そこまで考えて自分がしないことを選んでいないことに気付いた。
昨日のことを覚えている身体のせいじゃなく、興味本位からでもない。
逃げ出したいほど怖いのに、欲しいと思う気持ちを誤魔化せない。
緊張で乾いた唇をペロリと舐めてから小さい声を振り絞った。

「したい、よ…」









言葉通り食べられてしまいそうな勢いで身体中をくまなく嬲られて、畳の上でぐったりと手足を投げ出している。
舐められたり、齧られたり、それから捏ねられたりする度に思いもよらない感覚に声を上げて泣き言を漏らした。
イヤだと言う度にしつこく繰り返される行為に次第に興奮して、あられもない姿になっていることに気付かずに。

下着ごと取り払われた隠すものもない下肢と、結び目を解かれた甚平が辛うじて肩に引っ掛かっているだけの状態になっている上半身には赤い跡が散乱している。
ところどころ噛み跡も見えるというのに、起立の先はいやらしい体液にまみれて続きを待ち侘びていた。
力が入らないのは疲れたからじゃなく初めての快感に溺れたから。

こんなみっともない格好ですべてを相手に委ねるという行為に羞恥は浮かんだが、今はそれさえない。
普段のオレなら死んでもイヤだと思った筈なのに何故だろう。
けれどそれを考える暇など与えられる訳もなかった。

さんざん後ろを指で弄られて、それは昨晩もだったのか想像よりずっとスムーズで痛みは少なかったせいかはたまたリボーンさんが上手いせいなのか分からないが、悪くはない…ではなく、よかった。
男にもイイところがあるのだと教えられて、自分でも耳を塞ぎたくなるような声が漏れ吐き出す寸前で起立を握られている。

「も、勘弁してよ…っ、」

泣き声交じりだと自覚はあっても我慢できない。いきたいという本能に突き動かされるままにリボーンさんをなじると握っていた手に力を込めてその先を舐め取られた。

「ひ…っ!」

また先走りが割れ目から溢れ出る。舐め取られれば舐め取られるほど滲む先走りに身体は開放を求めてビクビクとうねる。
畳に爪を立てて堪えていれば、そんな姿のオレを下から眺めていたリボーンさんは先から口を離して震える脚に歯を立てた。

「あぁ…ん!」

痛みさえ快楽にすり替わる自分に恐怖すら覚える。
それでも物足りない何かを求めるように足を開くとカチャカチャという金属音の後に布地をずらす音が聞こえてきて顔を上げた。

「これをここで受け止めるんだぞ…」

「なんっ?!」

突然後ろに宛がわれた熱さに目を瞠ると、固いそれを襞に擦りつけられて身体が強張った。
知識としてはそういう方法もあるらしいと聞いてはいたが、それを自分がされるのだと思うと急に怖くなって身体が逃げを打つ。
それすらお見通しだったのか腰を抱え上げられてイヤと言う暇もなく押し込められた。
ズッ、ズッ…という粘膜を擦る音と広げられる鈍い痛みに仰け反る。
息を止めていると上から苦しそうな声が聞こえてきた。

「くっ、もう少し緩めねぇと裂けるぞ…?」

「しらな…、ムリっ!…だめ、ヤっ!やぁ!!」

言葉を吐き出せば自然と息も出る。その瞬間を見逃さずにズルリと奥まで突き入れられて悲鳴が漏れた。
腹の中に納まる熱塊がドクンドクンと脈打つ様まで感じ取れる。
自分以外の熱さを初めて身の裡に受け止めたオレは痛みのせいではなく、涙が止まらなくない。
しゃくりあげるオレを見て勘違いしたリボーンさんがあやすように背中を抱きかかえて引き寄せた。

「謝らねぇぞ。」

それだけ言うと背中を抱え上げたまま律動を始める。しがみ付くようにリボーンさんの首に腕を回して身を任せたオレは、獣のように言葉もなく互いを貪り合った。








庭からはどこからともなく飛んできたセミが思い思いの声を張り上げて一夏の命を歌い上げていた。
夏がくれば秋が巡る。
変わることのない関係など、ありはしない。

それがどんな結末になろうとも。

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