6.アブラゼミの鳴き声が一定の音量と速度で鳴り響く庭へ布団片手に出たが、いつもよりぺしゃんこになっているそれをみてハァと肩を落とした。 近所の布団屋に持って行って綿を入れなおして貰おうと思っていたが、今月は色々と物入りでそちらに回すことが適わなくなってしまった。 暑いし、持っていく手間も面倒だからいいかとすぐに納得して、それにしてもと軋む身体を手で撫でた。 「酔ってなにしたんだろ?」 アルコールというものは人の隠されている本心を引き摺り出すことがままある。 今まで暴れたり、大声を張り上げたりといった人の迷惑になる行為はしたことがなかったが、今回もそうだとは言い難い。 覚えていなかったことに不安を覚えたオレは、京子ちゃんにメールをしようと携帯電話を取り出して驚いた。 いつの間にやり取りをしていたのか、京子ちゃんへ謝罪のメールを入れていたオレへの返信が届いていたのだ。 慌ててそれを開くと京子ちゃんらしい言葉があった。 『気にしないでね。また食事をしようね!』 との可愛い絵文字付きでの内容に少しだけホッとする。 自分が送ったらしいメールを読んでも、いつ送ったのか皆目見当もつかなかった。 「時間は…夜中の1時?」 そうするとその前にはここに戻ってきたということだろう。 合わせが逆になってはいたがいつも通り甚平を着ていた。だから何事もなかったのだと思いたかったが、この身体の軋みが異常ありと告げている。 リボーンさんに昨晩のことを訊ねても何でもねぇの一点張りで、だけど違和感を覚えていた。 ツナなんて呼び捨てにされたことよりも、その後のオレの態度にほんの一瞬だけ覗かせた顔にひどく胸が騒いだ。 「文芸論を闘わせた…とかじゃ、ないよなぁ。」 そういう雰囲気じゃなかった。 ならば何だといわれても、人の機微に疎いオレにはさっぱり分からない。 多分、この身体の痛みと関係している筈なのに。 またもため息を肺から吐き出すと、ボサボサになってしまった髪の毛を掻き毟りながら枕を抱え縁側へと放り投げた。 実際問題、リボーンさんに書いてみないかと言われた話はまだ数行書き出したところで止まっている。 話の流れも書きたいことも決まっていたのに、何故そんなことになっているのかといえば主人公の描写がどうしてもリアリティを持たせられなかったからだ。 女性というにはまだ若いが、少女というには少し周りを見渡せる主人公の独白から始まる日常の日々。 少しとぼけた口調の主人公の恋愛観を語るところで筆が先に進まなくなった。 「…ムリ、か。」 そう泣き言が漏れるのも当たり前で、オレ自身が恋愛らしい恋愛に向かい合うことを避けてきたからに違いない。 だからこそ京子ちゃんとの会話から少しでもヒントを得られないかと模索したのだが、昨晩の会話を一つも思い出せないのだからムダというところだ。 正直なところ、京子ちゃんとどうこうなるなんて気は少しもなかった。 昔からずっと憧れていたがそれは遠い存在を愛でるといった心理で、京子ちゃんが女優だからという訳ではなく、人との関わりにどこか一線を引いている自分を感じていた。 感情の流れに身を任せることがひどく怖いのだ。 大学在学中に一度だけ同級生だった女の子と付き合ったこともあったが、その時ですら沢田綱吉という誰か他の人物が付き合っている状況というのを横から見ているような、そんな他人事として捉えていた節があった。 多分それが相手に伝わってしまったのだろう。 キス以上進むことなく破局を迎えた恋と呼ぶには淡すぎたそれ。 そしてそれ以降、何もない。 人としてどこかおかしいのかと思ったこともあったが、生きていく上で困ったことはなく、そして児童書ではそれでも問題はなかったのだ。 甚平の裾から扇風機の風が入り込んできて、皮膚の表面に浮かんでいた汗を吹き飛ばしていく。気化熱と風とで体温が下がると、寒い訳でもないのに身体がぶるりと震えた。 抱えるように腕を身体に巻きつけると思わぬ場所からじわりと熱が浮かび上がってくる。 あばらを沿うように落ちる手に覚えがあった。しかし、そんな場所を触られた覚えなどない。 肉付きの薄い脇を思い出すように撫でていくとあらぬ場所が熱を帯びてきて、それに驚くも手を止められなくなっていた。 今まで自慰をしたことなどないとは言わない。それでも自分の身体を昂ぶらせるためにまさぐるなんてしたことなどなくて、ならばどうして今こんなことで自身が熱を持ち始めたのかすら分からなかった。 甚平のごわついた布越しではなく、もっと直接触れたらどうなるのだろうか。 ふと思いついたそれに唆されるまま手を合わせの間に忍びこませたところで、玄関から声が掛かった。 「オイ、センセイ!どこにいるんだ?」 建てつけの悪い玄関がガタガタ音を立てていた。 リボーンさんの声に今までの自らの行為に水を差されてハッと意識が戻ってくる。 慌てて手を戻すと甚平の下から主張していたソコを上着で隠して頭を振った。丁度のタイミングでリボーンさんが顔を出した。 「アイス、買ってきたぞ。喰うだろう?」 「う、うん!」 「どうした?顔が赤いぞ。」 訝しげにオレの顔を覗き込んできたリボーンさんにバレないよう、手で上着を押さえながら膝に手を置く。 そんな行動を見ていたリボーンさんは少しだけ眉を顰めながら真横に座ってきた。 「ちょ、どうして近寄るんだよ!」 「どうして寄っちゃいけないんだ?なにかあるのか?」 顔を寄せてきたリボーンさんから逃れるために、必死に上半身を逸らすと甚平が手から外れそうになる。それに慌てたオレは手に力を入れるも、今度は身体のバランスを崩して畳の上に転がってしまった。 背中から転がったせいで一瞬息が詰ったところを、リボーンさんが上に乗り上げるように顔を覗き込んできた。 「な、なんでもないっ!」 ぴたりと止まった視線の先を確認して思わずそう声を張り上げるも、それに笑うでもなく苦い顔をするでもなく佇立したままのリボーンさんを見上げて羞恥で顔が赤らんできた。原稿をしていたのではないことを知られて身体が竦む。 見られてしまったソコを甚平で隠しても今更だ。 バツの悪さに視線を反らしたまま、その場から逃げ出そうと畳に肘をついて起き上がろうとする。けれどもオレの上から退こうともしない身体に阻まれて、困ったオレは肩に手を掛けると横に手を伸ばしてすり抜けようとした。 そこを腕ごと背中から押さえつけられて逃げられなくなる。 肩越しに覗いた顔は書きかけの原稿用紙を一撫でしてからすぐにこちらを振り返った。 「原稿は手付かずで何してたんだ、センセイ?」 「してな、」 「本当か?」 訊ねるというより確かめるように掛けられた言葉に答えられずにじっとしていると、甚平の合わせの奥へと手が入り込んでするりと結び目を解かれる。 なにをする気なのかと見上げた先でニヤリと笑い掛けられて身体が震えた。まるでこの先を知っているかのように。 足を絡めて逃げ出すことが出来なくなったオレの甚平の胸元に手を合わせると、そのままバッと開かれる。そんなところを晒されると思ってもいなかったオレは手をリボーンさんの肩にかけたが、構わず鼻先が合わせの奥へと入ってきた。 「ちょ、なん?!」 からかうにしてはやり過ぎだと、上げようとした声を遮るように肌の上をぬるついた何かで撫でられて言葉が詰る。 先ほど一人で慰めていたあばらまで触れるそれに、ようやく何で撫でられていたのかを知った。 「ヤメ…!舐めるなって!」 あばら骨をなぞるように舐め上げられてビクビクと身体が震える。身を捩って逃げ出そうとしたオレを腰を掴むと、大きく開いた甚平を毟るように引っ張られて片方の肩から甚平が脱げる。 そこに先ほどの舌が躊躇いなく伝って膨らみのない先へと辿り着いた。 「シタことがないんだろう?だったらされてみるってのはどうだ?」 「っつ!」 触れるか触れないかギリギリの場所からの言葉と一緒に先を息で嬲られて身体が強張った。 逃げ出すことも出来ずに固くなったオレの身体に大きな手が触れて、その手がゆるりと撫でていく度に吐き出す息が熱くなっていく。 自分でした行為と比べるまでもなくイイ。 腰から腿へと下る手が甚平の下から入り込んでソコを握った。 羞恥を上回る快楽に身体から力が抜けて畳の上へ崩れ落ちる。 ハッハッと熱い息を吐き出す胸に絡みつく舌に翻弄されて、ぐったりと畳に背中を預けると握っていた中心を下着越しに擦り上げられて声があがった。 「やめ…、ヤダッ!」 他人の手を知らないソコが言葉とは裏腹に浅ましく立ち上がり、その隙をつくように胸の先を齧られた。堪える術もなく一際膨らんだ中心が下着を汚す。 すえた覚えのある匂いが広がって、やっと羞恥が戻ってきた。 . |