リボツナ3 | ナノ



束の間の休息




「しょうがねぇヤツだな」と笑う小さい口許が赤ん坊とは思えないほどニヒルに口角を上げたり、毎朝その口がエスプレッソを欠かさなかったり、コスプレ好きだが最後にはブラックスーツにきちんと戻ったりすることは知っていても、その本質まで識っているのかといえばはなはだ心許ない。
毎日、毎晩。離れたことなんてあの未来に連れていかれた一件のみで、リボーンが居ない世界というものがあれ程不安で足元が覚束ないものだとは思ってもみなかった。
そして気付いた。
一体オレはどこまでリボーンを識っているのだろうかと。



人間の本質というものは言動に表れるという人もいる。
だが、政治家なんて口では上手いことをいいながら腹では別のことを考えているイキモノだと小さい家庭教師は鼻で笑っていた。
ならマフィアはどうなんだよとオレが訊ねると、これほど分かりやすいイキモノもいねぇぞと冷えた笑いを漏らした。
そう、時々リボーンはひどく冷たい顔で笑う。
なにを思い出しているのかオレには分からないが、オレとは比べ物にならないほどの経験を積んでいるリボーンだからこそ何も言わないのだろうか。

だけど赤ん坊のようなではなく本当の赤ん坊なのだ、リボーンは。
詳しくは語られなかったリボーンたちアルコバレーノの経緯は、いまだ闇の中に存在している。いつかオレにもリボーンたちの秘密を共有させてくれる日が来ることを願う。





学校が休みの土曜日の、やっと未来から帰ってきたオレを待ち構えていた宿題をそれこそ死ぬ気で片付けている午後のひと時。
ビアンキやフゥ太は母さんの買い物に付き添い、ランボとイーピンは遊び疲れて昼寝の最中だった。

あまりに進まない宿題にいっちょ死ぬ気でやるか?と拳銃で脅されて、泣き言を零しながらもどうにか一冊終えて顔を上げた。喉が渇いたから水を…と言いかけて慌てて口を閉ざす。
テーブルの上に胡坐をかいてこちらを睨みつけていると思っていたリボーンが、鼻ちょうちんを浮かべながら船を漕いでいたからだ。

小さな腕を組んだ先に握られている、レオンが形を変えた銃を持つ手に視線がいった。
もみじのような手が拳銃やライフルを握る。躊躇いなく死ぬ気弾を撃ち込むリボーンを当たり前だと思っている自分はどこかおかしくなってしまったのかもしれない。
生と死と、どちら側に傾いているのだろうか。

オレのダメダメなところをよく知っているリボーンは、しっかりしろといつも言う。だけど絶対に見捨てたりはしない。
呆れてはいるようではあるけれど、見放されたと感じたことは今まで一度もなかった。
てめぇでやれ、諦めるな、お前がやらなきゃならねぇんだ。
どれも厳しい言葉ばかりで、なんでオレなんかがやらなきゃならないんだと思っていた。逃げたいと思ったことも片手では足りない。
マフィアになんかならないと今でも思っているが、リボーンが来てからというもの仲間が友だちが知り合いがと増える一方の関係に絡め取られてここまでやってきていた。

鉛筆を置いてリボーンの寝顔を覗き込む。
プーカ、プーカと寝息に合わせて膨らんでは縮む鼻ちょうちんを確かめて、そっと手から銃を外した。
途端、姿を変えたレオンがギョロリとその眼をこちらに向ける。
それにシー…と指を立ててレオンを机から降ろしてあげた。

「ちょっとだけならいいよね?」

知らないよとでもいうようにレオンは顔を背けて部屋から出ていってしまった。
残されたオレは辺りに誰も居ないことを確認して、それからまたも恐る恐る小さい小さい家庭教師へと手を伸ばした。

最初はリボーンが殺し屋だなんて信じてもいなかった。
それ以前に赤ん坊のくせに中学生のオレの家庭教師になるだなんて、ふざけているのかと憤りすら感じていた。
それが突然拳銃を構え、オレの眉間に弾丸が吸い込まれていってはじめて本気で後悔した。
それが始まり。

起きている時どころか寝ていても触らせてくれないリボーンだったが、今は少しだけ態度が軟化してきているような気がした。
だからずっと怖くて思いきれなかったことをしてみたいと思った。

ふくふくのホッペにちょんと触れる。
慌てて手を引いて顔を覗いても起きる気配はない。
そんなわずかな触れ合いに勇気を貰って再度手を伸ばす。
大きな頭の上に乗る帽子を外し、それから頭と身体に手を掛ける。オレに赤ん坊扱いされることをよしとしないリボーンを初めて抱きかかえることに成功した。
目を開けたまま昼寝をしているのかと思っていたのに、今日は珍しく瞼を閉じている。
未来での一幕はやはりリボーンといえども体力を消耗したのだろうか。

「トゥリニセッテ、かあ…」

それの秩序を守るための存在として選ばれたのだという7人。その内の一人であるリボーン。
自分の持つリングもその一角を占めていると言われたのにピンとこない。
結局のところ、オレにはまだその秘密を共有するに足る存在にはなれていないということなのだろう。
山本に話したという内容は気になるが、ムリに聞きだす気にもなれない。

腕に抱えたリボーンは本当に小さくて、なのにいつでもどんな時でも逃げ出さない。それはアルコバレーノだからだというだけではなく、つまるところ9代目からの依頼が絶対だからだろうかとたまに考える。
それはマフィアの掟だからか。
それとも。

今では見た目通りの赤ん坊だと思ってもいない。
だけど可愛らしい姿のリボーンを見て、触れて、それでもなんとも感じないという訳でもない。
なにかあることも知って、だけどそれをオレに伝えてこない以上手の出しようもないことに歯痒さを覚えることもある。

みんなが望む未来を、なんて大層な空言をいう気にもならないが、それでも自分の目の届く範囲の人間が幸せであればいいと思う。

腕にリボーンを抱えたまま、台風が目覚めるまでのひと時をオレも共有しようと立ち上がる。
ベッドの上にリボーンをそっと寝かせると、その横にオレも身体を横たえた。




リボーンのせいで広がった範囲は、暖かくて優しくてそして酷く重い。その重みをいつでも半分請け負ってくれている家庭教師と共に今は少し休息したい。



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