リボツナ3 | ナノ



2.




誰も居ない筈の会議室。
午後7時を過ぎると、届け出のない部屋は明かりも空調も消される。
すべてが消されてから30分は経った会議室には、月光の淡い光でぼんやり映る影が重なっていて一つしかない。
そこにもう一つの影がゆっくりと現れた。
コツン、コツンと靴音を響かせて近付く影に、忘れられない面影と声が重なる。
どうして、今更。

「聞こえなかったのか?こんなところで何をしているんだと聞いているんだ、山本武、沢田綱吉。」

幻聴ではない証拠に再度問われた。
息をすることも忘れ、ただ声を聞いている。
顔も上げられず、足に力が入らない。
ガクガクと震えるオレの身体を更に強く抱き込むと、くるりとオレごと振り返った山本は、いつもの軽い口調で何事もなかったように問うた。

「もう終業してるんだぜ、どこで何してようが構わねぇんじゃねぇの?なぁ…リボーン。」

リボーン、と。

その名前を聞いただけで、止まっていた涙がまた零れ落ちた。
泣き顔を咄嗟に手で隠し、山本から距離を置く。
するといつの間に背後に来ていたのか、肩を強く後ろに引かれてよろけそうになったところを抱き留められた。
覚えのある匂いと異なる香りに、香りを変えたのだと知る。それでも肩に掛かる手と背中を抱える胸板の硬さは間違えようもない。
目頭を押えている手を外されて、後ろから覗き込んでくる顔。

「ツナ…。」

密やかに、そっと呟かれるその声が、背中をぞくりと駆け抜ける。
会いたくて、会いたくて、忘れたかったその顔を瞳に映して。
ほやけ始める視界に、また涙が零れてきたことを知った。

何で今更。どの面下げて。また仕事でオレを連れに来たのか。
ぐるぐると渦巻く感情にどうにもならない。

反射的に右手がリボーンの頬を打ち付け、

後ろも見ずに、駆け出した。









翌朝の寝起きは最悪だった。
起きれば瞼は腫れ上がっていて、寝癖のついた頭は普段よりもなお爆発しているような髪型になっていた。
それでも会社に行かなければならない。

ふと、辞めてしまおうかと考える。
それはとても魅力的だ。
けれども、この不況の中で次の職を見つけることの難しさも知っていた。
そうすれば益々本家の思う壺だ。
この支部にいるからこそ、平社員でいられるというのに。

朝から嫌なことを思い出してしまい、その理由がリボーンにあることまで辿り着いて、もっと気分が重くなった。
何故、本社に居る筈のリボーンが日本支部にいたのか。
4年前と同じ理由なのだろうか。

鉛を飲み込んだような胃の重さに腹をさすると、ざぶざぶと顔を洗って身支度を済ませる。
一人暮らしを始めてもうすぐ9年。
いまだ片付けるということが得意ではないオレの部屋は、洗濯済みとそうでないものの区別が明確でない。
1LDKのそこかしこに服の山や読みかけの本の山、CDやゲームのソフトなどが散らばっている。
その散らかしてある山たちをすり抜けてキッチンへと向かい、冷凍庫から以前作り置きをしたおにぎりを取り出して解凍する。沸かした湯でお茶を淹れ、ついで冷蔵庫から実家から送られてくる漬物を出す。
ポリポリと頬張り、音を立てて茶をすする。

そう言えば。
音を立ててすすることをリボーンは酷く嫌がった。
みっともねぇから止めろ。と何度も言われて、その度に蕎麦をすするのも、茶をすするのも日本文化!と返していたっけ。

ここ4年ほど思い出すこともなかったのに、昨日の邂逅でくだらないことまで思い出してしまったようだ。
本当にくだらない。
けれど、そのくだらないことが愛おしい。
ほんの、一年にも満たない思い出。

おにぎりを食べ終え、湯飲みと急須を洗うとコートを羽織って鞄を手にする。
何があっても行くしかない。
あの会社で働くことを決めたのは二度。
一度目は入社のとき、二度目はリボーンとの別れのとき。

「あれは別れじゃないよな…。」

そう、裏切られたと気付いたとき。

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