リボツナ3 | ナノ



1.




その日、ボンゴレのアジトを訪れたのはほんの気まぐれに過ぎなかった。
いうなれば現在はこれといった仕事もなく、急ぎの指示もなかったから元教え子の顔でも覗きつつからかうネタを探しに来たのだ。
それがどうしてこんなことになったのかといえば、その元教え子がトラブルメーカーだからに違いない。
成長してねぇなと嘆息して、泡を飛ばしながら守護者を集める獄寺の背中を越しに問い質す。

「で?なんであいつはホケホケと誘拐されてんだ」

すぐに死ぬ気になれんだろ、と当たり前の事実を示す。けれど、それを獄寺は首を横に振ることで否定した。

「それが…誘拐した相手が、素人なんです!」

「……なんだと?」

素人に誘拐されるマフィアのボスがどこにいる。ああ、ここか。ここにいやがった自分の元教え子のことか。
目を眇め、深く被った帽子の奥で眉を顰めていると、それを察知したらしい獄寺が慌てたように手を振り回して顔をこちらに向けた。
そこにちょうどアジトに帰ってきていた山本と、同じくアジトを訪れていたクロームも加わり、獄寺の周囲を囲むように顔を突き合わせる。
それを確認した獄寺はようやくオーバー気味の身ぶり手ぶりで経緯を語り始めた。
今日はクロームや山本も顔を出すということで、デザートとアルコールを調達しようと街へ出掛けたらしい。
何でも午前中しか販売していないチョコレートと、そこでしか取り扱っていないウイスキーを買いに私服でしかも一人きりで出歩いていたのだと獄寺は言う。
しかしそれを知っているということは、後をつけていたのだろう。そしてそれはあの元教え子も気付いていた筈だ。
甘やかしていた自覚はあるのか、獄寺は汗を掻きながら目を泳がせて続きを口にする。
取り寄せたというウイスキーを片手に、パティスリーへと足を向けていた時にそれは起こった。
行き交う人並みから押し出された元教え子は、ふらついた足取りで歩道から車道の間にその身を滑らせる。
その時、車道をゆっくりと走っていた車が突然、元教え子の横に並走すると中から20前後かというガキどもが声を掛けてきた。
遠くで見ていた獄寺は最初どこのマフィアだとナンバーと顔を携帯端末でボンゴレのサーバーに問い合わせていた。しかしいくら調べても照合しない。ならばと警察の情報をハッキングさせてしらみつぶしに照合するよう指示を出していた。
そうこうしている内に元教え子はその細腕を掴まれて、あっという間に連れ攫われてしまった…ということだった。
すぐに戻ってくるだろうと思っていた獄寺を裏切って、1時間経ってもボスは姿を現さない。
さすがに焦った獄寺が本部をけしかけて手に入れた情報といえば、先ほどのガキどもはマフィアではないということと足取りが掴めないという2点だけだったという話だ。
その話を聞いたクロームと山本は互いの顔を見合ってから、重々しく顔を伏せていく。
今日はクロームが骸たちからの書類という名の請求書を押し付…いや、報告書を渡しに来ることになっていた。
骸と元教え子との距離は相変わらずということろなのだろう。
しかしどっちつかずのクロームを心配性の元教え子はひどく気に掛けていて、ここのアジトを訪れるたびになにくれとなく世話を焼く。
自分のケツもまともにふけねぇ癖にとは思えど、そこがあいつのいいところでもある。
山本に至っては、ボスと部下というよりいまだ親友というポジションを貫きたいのか顔を見るたびに口調はくだけていくし、仕事を渡さないように画策したりもしていると聞いていた。
野球選手へと戻したい元教え子の切望とは裏腹に、山本は着実にボンゴレ守護者として地位を固めているからチグハグなのだと獄寺は複雑な顔をする。
つまりは、そんな山本やクロームを迎えるために少しでも喜んで貰おうとした結果というヤツなのだろう。
それにつけても、その準備とやらを自分でしなければならない理由にはならないだろうに何故元教え子は一人でぶらついていたのか。
それを知る人物に視線を向ければ、獄寺は顔も上げずに小さくなりながら声を出した。

「す、すいませんっ!何度か考えを変えて頂こうとしたんですが、野球馬鹿もクロームもご自分の友だちだから誰かを使うことはできないと、」

「そう言って、一人の時間を楽しんでた…っつー訳だな?」

返事が出来ないのか獄寺は俯いたままだ。それを睨みながらチャームポイントでもある揉み上げを指で跳ねる。
あいつには自由になる時間などないに等しい。立場が立場だ、いつ襲われてもおかしくない上に畏怖されることも立場上必要なのだがそれが出来ない。
長いため息を吐いて主の居ない机の上に腰掛け、バカな元教え子の右腕に畳みかけた。

「しかもそいつは今日だけの話じゃねぇだろ?何回目なのかなんざどうでもいい。が、酒屋やパティスリーに気軽に声を掛けられるまでにはなってたっつうことだ」

ようは自分の支配している街をボスだと知られずに歩きまわっていたということだろう。
威厳なんてものはあの教え子には皆無だが、それにしても身軽に出歩きすぎる。ちっとはバレることを考慮していたのかと獄寺に視線だけで問うも、緩く首を振るだけだ。
まあ、あの面を見てボンゴレのボスだと悟れという方が酷なのだが。
浅く腰かけた机からでは、まだ余る膝下を持て余して足を組む。
そこに山本が手をつくと、はぁぁと項垂れてしゃがみ込む。手にした刀からは青い炎が漏れていた。

「何だよ、どうすりゃいいんだ?ツナはどこの誰に捕えられたかも分かんねぇのかよ…」

元教え子の自業自得なのだ、精々自力で帰ってくるまで待っていてやるかと肩を竦める。
クロームも同じなのか迷う素振りでソファに腰掛けて、次の情報を待つように扉に目をやっていた。
そこに勢いよく構成員が飛び込んで来る。
見れば元教え子専属の運転手だ。
オレと山本を視界に入れて後ずさりかけた足を、どうにかとどめて獄寺へと向かう。

「お話し中に申し訳ありません!先ほど、私が街中を車で捜索していた際にこれを子どもから受け取りまして…取り急ぎお目通しをお願いします」

白い封筒には封さえない。
簡素というより適当なそれを差し出された獄寺は、乱雑に取り上げて一枚の薄汚れた一枚の紙を取り出した。
ガサリというよりゴソッという重い音に荷物を包む紙を思い浮かべる。
便せんというにはいささか大きいそれを広げ、獄寺は視線を動かした。

「なっ…!」

以前に比べ、動揺を見せることが少なくなった獄寺の顔が驚愕に歪んでいく。
部下の見ている前でと声を掛けようとしたオレの前を阻むと、獄寺の手はその紙をオレの胸元に突き付けた。
しゃがんでいた山本は立ち上がるとオレの横から覗き込む。
一行目を読んで頭痛がしてきた。

『大事な坊ちゃんは預かった
帰して欲しくば1000ユーロを用意しろ』

思わず漏れた舌打ちに、何かを感じ取ったクロームがソファから立ち上がってこちらに向かって来る。
緊張した面持ちのクロームに紙を手渡すと、えっ?とあからさまに驚いた声が響く。

「………あいつ、今年で24だったよな?」

はいとああという2つの肯定が同い年の右腕と親友から返ってくるから確かだ。
オレが家庭教師としてあいつと出会ってから11年が経過していることを思い出しても唸るしかない。

「何でボスの身代金が1000ユーロぽっちなんだ?つーか、この文面。明らかにダメツナのことを中高生ぐらいにしか思ってねぇだろ」

頷き難いといった表情の獄寺と、噴きだしそうな山本の横からクロームがポツリと呟いた。

「ボス、中学時代からあんまり育ってなかったから…」

ダメダメな教え子をフォローするために出た言葉に、むせることで顔を隠した獄寺と我慢しきれなかった山本は真面目な顔で立っていた運転手へととうとう噴き出す。
さすがのオレでも表情を失くすことは出来なかった。

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