リボツナ3 | ナノ



14.




そんなこんなでリボーン君のマンションに来ていた。
数日前の電話口での告白はリボーン君の周囲に波紋を投げかけたが、その後それらしい女の子が見当たらなかったせいで、なかったことになっているらしい。
毎朝のファーストフードに張り付いている女の子や、周囲に群がる殺意も今は随分大人しくなった。
お陰で以前通りにこうしてリボーン君の帰っているマンションに入ることが出来る訳だが、それもなんだかなと引っ掛かる。まるでオレではお話にならないと言われているような気がして、オレは男なんだから当然といえば当然だけど悔しい。
それでも、こうしてリボーン君の家の鍵を持っているのはオレだけだからと言い聞かせて中に足を踏み入れた。
見ればリボーン君は帰っていたのか玄関に靴がある。今日は他に靴はないからリボーン君だけだろう。
自分から話があるとメールをしておきながら、いざとなるとやはり逃げ出したくなってきた。
このまま友だちで居ればいいんじゃないかと、わざわざ振られるために告るのは自虐的なんじゃないかと思い始めた。
オレと性的に色々したことがあるのだから、男がまったくダメだとは思わない。だけどあの一件以降手すら触れないということは、そういう対象からオレが外されたとみて間違いない。
嫌ならやめるなんて言っていたが、そういう関係に一度なっていて、しかも弱みも握った状態で出した手を引くなんてありえない。
付き合ってみたら友だちとしては悪くなかった、といったところなんだろう。
自分はどうだろうかと何度も考えてみた。最初は嫌々働き出したバイト先によく顔を出す常連さんでしかなかった。
だけどその内よく会話をするようになって、あんなところを見られてしまったところから急速に近付いていったけれど、彼のオレに対する態度という点では最初からあまり変わっていなかったと思う。
よく気付いたなと驚くほどオレのことを見ていて、口は悪いが見捨てられたり置いてきぼりにされることはない。
一緒に居ると鈍臭いオレと何事もそつなくこなすリボーン君とではテンポが違う筈なのに、気が付くと隣に居てくれる。
だからエッチなことを抜きに仲良くなれたらなと思ったこともあった。今の関係が望んだものの筈なのに、オレはそれが不満だと思っていた。

「欲求不満なだけだったりして…」

ほんの数日前まで色々したり、されたりしていたのだ。それも否定は出来ない。
本気で自分が淫乱になった気がして、玄関で靴を履いたまま腕を抱えて唸っていれば、頭の上から突然声が落ちてきた。

「玄関で何してんだ?」

「っ!?」

ここはリボーン君のマンションだから、勿論この声は彼以外に他ならない。まさか先ほどの呟きを聞かれてはいないよなと慌てて顔を上げると、オレを見ていたらしい顔がフンを鼻を鳴らした。

「ボサっとしてねぇで入ってこい」

「う、うん」

腕を引かれて転びそうになりながらも靴を脱ぐと、母親から渡された手料理を渡す。

「いつものヤツ。よろしくってさ」

両親が揃って転勤中のリボーン君のために、母親が毎回何かを持たせてくれる。それを綺麗に平らげて、ついでにちょっとしたお菓子を律儀に返したりするから今では交換日記並みにオレを介して行き来している状況だ。
それをオレから受け取ったリボーン君は嬉しそうに口元を緩めて頷いた。

「奈々さんの作るモンはどれも美味いからな。ま、一番美味いやつはもう片方だけどな」

「ん?もう片方って?」

リボーン君の手にはオレが渡した紙袋とオレの手首しかない。他に何かあっただろうかと首を傾げていると、チラリと横目でオレの顔を覗き込んだ。

「食べ頃になるまで待ってんだぞ」

オレに内緒でリボーン君にだけ渡している物があるのだろうか。そういえば、最近漬物に凝り始めたからそれかもしれない。
オレより詳しく話す仲なんだなと感心していると、リボーン君は呆れたようにため息を吐いてリビングにオレを押し込めた。

「お前、マジで鈍いな」

「ちょっ…どういう意味だよ!」

今日は母親にも鈍いと言われ、ここでまで烙印を押されて散々だ。そういうリボーン君の方がオレの気持ちに気付いてない癖に。
そんなことなど言える筈もないけれどムゥと唇を尖らせて不満を込めて睨めば、リボーン君は手にしていた紙袋を掲げてリビングから出て行く。

「ったく、こんなに手間掛けるのは初めてだぞ。押しても引いてもピクリともしねぇってのはある意味すごいな。天然記念物並みか?」

「いや、だからなんのことだよ?」

どうにも食べ物の話から遠ざかったようだということには気付いて顔をあげるも、リボーン君は手料理をしまうためにキッチンへと向かったようだった。

「……やっぱりオレには分かんないよ、」

でも、そういうところも嫌いじゃなかった。








中古ゲームショップで見付けたというゲームに熱中すること2時間が経過していた。
持たせてくれた手料理の中にあったトマトソースでパスタを作り、チキンとゆで卵でサラダにしてからそれを平らげた後からだから、リボーン君の家に来てゆうに3時間は過ぎている。
ピコピコと単調なリズムを刻む画面に齧り付く勢いでラグの上に胡坐を掻いていれば、その後のソファに足を組んでいたリボーンが声を掛けてきた。

「で?話ってのはなんだ?」

「え!?………あぁ!」

突然の問い掛けにメールしたことなどすっかり忘れていたオレは、手を滑らせて自分の機体を敵にぶつけてゲームオーバーになった。
あと少しで中ボスを倒せただけに惜しい。なんて言っている場合じゃない。
コントローラーを掴んだまま後ろを横目で伺うと、同じくこちらを眺めていたらしい黒い瞳と視線がかち合う。

「あっ、その…えーと」

あの時は勢いだけでメールをしてしまったが、どう考えてもここで告白なんて出来そうにない。
確かに死ぬ訳じゃないが、せっかく出来た友だちを失うかもしれないと思えば口も開かなくなる。なにか別の用事を言わなければと必死に考えて、思い出した。

「そうだ!あれだよ、パシリ君!いつになったら会わせてくれるんだよ!!」

「あぁ?!」

頼みはしたものの、一向に彼に会わせてくれる気配もない。かといってバイト代を渡して貰うこともどうかと思う。なにせパシリ君はリボーン君のパシリなのだ。
バイト代をネコババするとは思ってないが、素直に渡してくれるとも思えない。うっかり忘れたとか言って2年ぐらいほっとかれそうな気もする。
ジッとラグに膝をつきながらリボーン君の顔を見上げていると、それを見ていたリボーン君が忌々しそうに舌打ちを零した。

「チッ!いいか、そんな顔は誰かに見せんじゃねぇぞ」

そんな顔ってどんな顔だ。生憎とオレにはこれしか持ち合わせがない。
理不尽で意味不明な言葉を無視してリボーン君を見詰め続ければ、手にしていたコントローラーを置いてリボーン君はソファから立ち上がった。

「しょうがねぇ、今から呼び出してやる」

「はぁ?今からって…」

「待ってろ」

言うとリビングにある電話の子機を掴んで手慣れた手付きでボタンを押していった。
というか、もう日付を跨ぐ時間帯だ。今はいいと断ろうとするも、オレが声を掛けるより早く会話が終わる。

「おい、オレだ。あと10分でうちに来い」

「って、会話にすらなってないだろ!」

自分を名乗ることもなく一方的に言うだけ言うと、相手の返事も聞かずに電話を切った。それに慌てて声を上げてもリボーン君はケロリとしている。

「大丈夫だ。10分後には来るぞ」

「イヤイヤイヤ!」

どこから突っ込んでいいのか分からなくて言葉に詰まる。オレの学生時代よりひどい。
真剣にどんな友だち関係なのか聞きたくなってきた。パシリ君が来たらバイト代を渡しながら聞いてみようかと思っていれば、リボーン君が電話を置いて戻ってきた。
ゲームに戻る気にもなれなくて、パシリ君が来るまで待つかとゲーム機を止めるために画面の下にあるそれに手を伸ばしていると背後に気配を感じた。

「本当に、それだけか?」

「へ…?」

何のことだと片付ける手を止めて振り返れば、真剣な顔をしたリボーン君が意外なほど顔を寄せてオレを覗き込んでいた。
リボーン君が好きだと気付いたのもこの数日の間のことで、しかも経験らしい経験もないからこんな時どうすればいいのかすら分からない。
分からない時は逃げる癖のついているオレは、すぐに顔を伏せると手にしていたコントローラーを棚に片付けた。もう一つリボーン君が使っていたそれも片付けようと手を伸ばすと、その上から手を重ねられた。

「返事は?」

「へ、へんじ…」

正直それどころじゃない。オウムのように言葉を繰り返したものの、意識は手に集中していて赤くならないようにするだけで精一杯だ。
それでもドキドキと煩い心音が漏れ聞こえやしないかと焦っていれば、握られていた手を上に引かれて身体ごとリボーン君の方へと振り向かされる。

「お前が嫌だっつーから待ってたんだぞ」

オレが嫌がって、待ってて貰っている返事って何のことだ。そもそも嫌がったことを覚えていないから、思い出しようもない。
忘れたなんて言えないから困り果てて情けなく眉を寄せていると、それを見ていたリボーン君の顔がどんどん険しくなっていく。

「人の告白もスルーすんのか?」

告白と言われてぎょっとする。だってあれはなかったことにされたんじゃなかったのか。
うまく説明できないながらもなじる口調に黙っていられなくなり、どうにか口を開いた。

「だって、あの後何も言わなかっただろ…!」

「あれだけはっきり言ったんだ。考える時間は欲しいだろ、普通」

「そう、なの?」

そういうものなのかと訊ね返せば、リボーン君は何かを口にしようとして諦めたように口の中で何かを呟くと大きなため息とともに吐き出した。

「……そうなんだぞ」

「そうなんだ…」

やっと納得がいったオレは、そこで返事の意味に気付いた。ぼんやりとリボーン君を眺めていたが、握られたままの手が急に恥ずかしくなって振り解こうと引いた。だけどオレの意思とは逆に腕は囚われている。

「考えたよな?」

「う、あ…」

ここで勿論と言えればいいのに、口が思うように動いてくれない。
本当に応えてしまってもいいのだろうか。それともこのまま友だちで居た方が楽かもしれない。いやいや、だけど。
とにかく返事をと焦れば焦るほど言葉が出なくなっていく。

「ツナ?」

掴まれた手首を引き寄せられて、顔が間近に迫る。
言ってみようかと思い掛けた瞬間、玄関からチャイムの音がリビングに響き渡った。

「チッ!使えねぇパシリだな」

間に割り込んできた音にリボーン君は悪態を吐くと、オレの手を離して顔を上げた。
パタンとリビングの戸が閉まる音を背中越しに聞きながら、やっと呼吸を思い出したように息をついた。


2012.04.24







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