リボツナ3 | ナノ



6.




「今日もリボーン君のおうちにお邪魔するの?」

母親の何気ない問いかけにビクンと肩を震わせて、バッグに着替えを押し込めていた手が止まった。後ろ暗いところがあるから咄嗟に声が出なくて焦る。
それでもどうにか息を飲み込んで顔を上げると、うんとだけ返事をしてまた顔を手許のバッグへと落とした。

「最近ずっと入り浸ってるわよね?リボーン君はまだ高校生なんだからツナがしっかりしなきゃダメよ」

事情も知らない母親の言葉にグッと唇を噛むと、小さく息を吐き出してから口を開いた。

「大丈夫だって、ゲームしてるだけだし。酒とかタバコとかはオレが付き合えないからさせてない。それにオレと違って頭いいらしいよ。成績も一番から落ちたことないってさ」

「まあ…!」

リボーン君から口裏合わせにと用意されていたままの台詞を呟けば、あっさりと言葉を信じた母親は手にしていた湯のみをコタツの上に置いて感嘆の息を吐いた。

「そうなのね!すごいわねぇ!顔もよくて頭もいいだなんて…」

先週の土日にうちに遊びにきたリボーンを思い出しているのか、夢見がちな少女のようにうっとりしている母親の横顔をチラリと覗き見ながら、バッグの蓋を閉めると立ち上がる。

「だからさ、大丈夫だって」

自分自身の言葉を誰よりも一番信用出来ないなと思いながら、それでも自分とよく似た面差しの母親に余計な心配を掛けさせないために、そう嘘を吐くしか出来なかった。









付き合う、の意味が分からなかったオレはあの後身を持って知らされることになった。
生まれてこの方女の子と付き合ったこともなかったオレの初めてのキスは至極あっさりリボーン君に奪われて、あれよという間にラグの上に押し倒されるとするりとズボンのウエストからリボーン君の手が入り込んできた。

「んっ」

逃げ出そうにも上から体重を掛けられてしまえば腰を浮かすことさえ出来ない。それでも首を振って口付けから逃れようと顔を横に背けるが、すぐに追ってきた唇にまた塞がれた。
息を吸うために薄く開いていた唇の隙間から生暖かい何かが入り込んできて、気持ち悪いと思う間もなく歯列を割ると舌を舐め取られる。そこまでされてやっと自分の舌に触れるそれがリボーン君の舌だと分かった。

「んんーッッ!!」

大事にしていた訳でもないがそれでも最初が男だなんてナシだと思う。今更とはいえ今朝から数えて2度目のキスさえ男だったことに居るのか分からない神を呪っていれば、口腔の中の自分以外の舌が蠢き始める。
またもオレの意志を無視した一方的な行為に気持ちは恐怖さえ覚えているのに、身体は熱を帯び始め強張っていた手足が弛緩していった。
ぬるりと舌を重ねられると蕩けてしまいそうなほど意識が霞んでいく。
まだ早朝の名残に下着を湿らせているズボンの前をリボーン君の指が這っていき、いつの間にか外されていたベルトのバックルが身動ぎのたびに小さい音を立てる。
ハッと吐き出した自分の息遣いを耳にして口付けが解かれていたことに気付いても、首筋を伝い落ちる柔らかいそれと下着の上から起立を撫でる手に意識が持っていかれてしまい声を上げることも出来ない。
肌の上を熱い唇に啄ばまれて、時折焼けてしまうと思うほどの痛みを覚える。それを宥めるようなタイミングでズボンの中の手はイイところを擦るから堪らない。
リボーン君の手が触れている下着は新たにしみを広げて、その奥で硬さを増して布地を押し上げていく。
その快楽を逃がすために息を吐き出せば、着たままだったジャケットの襟の奥の首筋にいた顔が起き上がりオレを覗き込んできた。

「お前、慣れてんのか?」

「は…?」

何を聞かれたのか分からなくて、日本人の自分よりよっぽど黒い瞳を見詰め返す。切れ長の眦は少し釣り目がちで思ったよりも睫毛が長い。
繊細というほど女々しくもないが、大雑把というほどでもない顔の造作に思わず見蕩れていると、その顔が間近に迫ってきた。

「ひぃ…!」

「妙な悲鳴をあげんじゃねー。訊ねたことに返事をしろ」

「って、何のことだよ」

この顔とキスをしていたことに気付いて頬が赤らむ。それどころか今でさえリボーン君の手はオレの下着の上からソコを撫で続けている。
チラリと下肢に視線をやると寛げられたズボンの前には白く大きな手が置かれたままになっていることを確認して耳まで熱くなる。
慌てて顔を背けるオレの視線を追ったのかリボーン君はクツリと小さく笑うと、熱を持った耳元に口を寄せて囁いた。

「気持ちいいだろ?」

「ッ、知らない!」

「そうか、ならもっとヨくしてやらなきゃなんねーな」

言うが早いか、ズボンに手を掛けるとオレの肩に手を掛けてゴロリとラグの上に転がされ身体を反転させられた。突然の行動についていけなかったオレの少し浮いた腰からズボンを剥ぎ取ると背後から体重を掛けられる。

「リ、」

「こっちに聞いた方が早いってことか」

耳朶に吐き出された言葉の意味を理解する前に、リボーン君の指がトランクスの裾からするりと侵入を果たす。
尻の際をするりと撫でられて身を竦めるも、構わず指が奥へと押し込めれた。

「イヤッ、やめろって!!」

冗談でもそんな場所を触られるのはご免だ。奥を一撫でされただけで生理的嫌悪感が湧き上がり、上に伸し掛かっていた身体を振り払おうと手を上げる。
闇雲に振り上げた手は目測もなにもあったものでなく、逃れるために必死だった一振りがリボーン君の頬に当たるとパンッと乾いた音を立てた。

「あ…」

殴る気なんてなかったオレは自分の立てた音に驚いて身動ぎを止める。
少し赤くなった白い頬を見て手を慌てて引っ込めるとリボーン君は何故か満足気な表情で鼻を鳴らした。

「ごめん、その」

リボーン君にされたこと全部が嫌だった訳じゃない。突然の口付けと手淫に驚きはしたものの昂った自身ごと責任を押し付ける気にもならない。どうするべきかと声を詰らせていれば、リボーン君の唇がついとオレの項に落ちてきた。

「うわぁ!?」

「色気のねー声出しやがって。まぁ、だからこそ『初めて』だってのが分かるがな」

「ちょ、ダメ…そこ触るなって!」

項と生え際を行き来する熱い息遣いに気を取られていると、トランクスの中に滑り込んでいた指が後ろから離れ腰骨をなぞりながら前へと伸びていく。
下着越しに弄られていたソコは後ろをなぞられて一旦は萎えたものの、直接リボーン君の手で扱かれてしまえばすぐに硬さを取り戻して手の平を汚したことに気付いて言葉もない。

「今朝抜いてやったばかりだってのに元気がいいじゃねーか。なぁ?」

「ふっ…う、ん」

下手に口を開こうものなら妙な声が漏れてしまいそうで、ラグに顔を押し付けると口を閉ざした。そんなオレに構うことなくリボーン君の手はぬめりを擦り込むように下着の中で動いていく。

「お前弱すぎるだろ。どれだけ溜めてたんだ?」

揶揄するように耳元で囁かれても返事なんて出来る訳がない。
元々性欲が薄くて学生時代ですら月に2回したかどうかなのだ。しかも最近はそれどころじゃなかったから溜まっていたのかもしれない。
言われて恥ずかしさに目を瞑ると、いきなり腕を引かれてラグの上に引き起こされた。

「自分で下着ぐらい脱げ」

「って!どうしてオレが!」

ズボンは剥かれてしまったが、上着は着たままだったからどうにか手で裾を掴むと前を濡らしてしまったトランクスを覆う。今更だということは知っていても、だ。
オレの前に膝をついて座るリボーン君は、オレの下着から引き抜いた手を眺めてニヤリと笑った。

「愚問だと思わねーか?」

ひらひらとオレの鼻っ面に濡れた手を翳すと、その手でオレの頬に触れた。

「っ…」

自分の匂いのする指が頬のラインに沿って顎を辿る。
そこでやっと一番最初の言葉の意味を悟って目を眇めて吐き捨てた。

「付き合えって、こういう意味かよ!」

最低だと思った。人の秘密を盾にする卑怯者だと。
だけどこういう時に抵抗してもムダだということも経験上知っている。他人を辱めたい輩はオレが言うことを聞くまで執拗に要求を繰り返すのだ。
バイト先の片隅で自慰をしていたところを目撃されて、しかも携帯で写真まで撮られてしまっていては言い逃れも出来ない。
どうして何でも出来るというリボーン君がオレなんかを相手にするのかは分からないが、逆に言うことを聞いてしまえば興味を失うだろうことは火を見るより明らかだ。
ぐっと唇を噛んで、前を押さえていた手を外すと視線を伏せてトランクスのゴムに手を掛けた。一瞬の躊躇いの後、羞恥と怒りに震えながらトランクスを脱ぎ捨てると、リボーン君はオレの前に膝をついて近付いてきた。

「自分で脱いだってことはいいんだな?」

脱げと強要したくせにそう訊ねられて、真意を探ろうと少しだけ視線を上げれば思った以上にリボーン君が近いことに動きが止まる。逃げ出せばいいのか睨み付ければいいのか迷っている隙に、顎を掬い取られて黒い瞳があと数センチというところまで迫ってきていた。
脅しているくせに疾しいところなんて微塵も感じられない強い視線にオレがたじろぐ。

「ひっ!」

逃げ出そうと引いた腰を横から掴まれて身体が跳ねる。そんなオレに構うことなくリボーン君のもう片方の手が背中に回る。

「逃げるんじゃねー。キスが出来ないだろが」

そんなもんするかと悪態を吐く前に再び唇を塞がれた。








勝手知ったる余所のうちとはまさにこれで、渡された合鍵を片手にマンションの扉の前に立っていた。
てっきりオレを辱めることを目的としていたのだろうと思っていたリボーン君は、オレの予想を裏切り続けている。
あれから撮られた写真ごと携帯を返されて、金品を要求されることも、不当に公衆の面前で辱められることもない。
だからといって何もないのかといえばそうとも言えないのは、身体のあちこちに残る鬱血が教えてくれる。洋服を着てしまえばギリギリ見えない場所や、下着の奥に色付く赤い痕は消えることのない頻度で刻まれていた。
バイトが休みの日にはこうしてリボーン君が一人暮らしをするマンションへと足を運ぶ。
自分の意思ではないが嫌とも言えない。
オレなんかのどこがお気に召したのか知らないが、今日も学校が終わった時間を見越してこうして呼ばれていた。


2012.02.01







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