３．少し冷たい手がオレの昂りを掴み取った。驚きに竦んだ身体が逃げを打つより先にリボーン君の手は上下に動き始める。 絶妙な強弱をつけて自分のモノを扱く指を見ていたオレは、それの異常な行動にやっと気付いて止めさせようと手を伸ばした。 「バッ、止めろって！汚いだろ…っ」 身体の大きさに見合ったリボーン君の手を外そうと躍起になって手に力を籠めても、リボーン君は無言のままオレの起立に手をかけたままだ。 萎えればいいのに、初めて知った人にかしずかれての手淫の気持ちよさに流されかて焦りだけが膨らんでいく。 「ダメ…離してっ、」 このままではイってしまう。それだけは避けなければとリボーン君の腕に爪を立てて腰を後ろに引けば、逃げることに精一杯で疎かになっていた口許を横から塞がれた。 「んむ！」 人の手も知らなければ、人の温もりも口付けさえも初めてだった。唇に押し付けられたそれがリボーン君の唇だということに気付いたのは、わずかに開いていた歯列の隙間から生暖かい何かが入り込んできてからだ。 伸し掛かってくる身体を押し退けようと手をリボーン君の手から外すと、自由になったその手が先走りを塗り込めるように動き出す。どこが気持ちいいのかを知っている手に息が漏れ、そんなオレに合わせるようにリボーン君の舌が口の中で蠢いた。 「ン…ッ」 逃げ切れずに絡め取られた舌はぬちゅりと音を響かせながら深く重なる。押し戻そうとした手は震え、リボーン君の肩にどうにかしがみ付くことで飛びそうになる意識を保っていた。 限界まで膨らんだ起立の先を弄ばれながらくびれを撫で回される。イきたくないと堪えても、それを上塗りするように快楽が押し寄せてきた。 痛いか痛くないかのギリギリのラインで上からグッと指で扱かれ、絡んでいた舌を舐め取られる。 ゾクゾクっと背筋を駆け上るそれに逆えず、身体を震わせながら精液を吐き出した。 「んあぁぁ…あ！」 絡み合っていた舌が解け、ドクドクと先から溢れ出る白濁と一緒に喘ぎ声も漏れ出る。 果てた瞬間の開放感が去ると、身体の熱も外気で霧散していき、残ったのは気持ちの悪い濡れて肌に張り付いた下着の感触と、理性という名の友を連れた羞恥心だけだった。 最後の一滴までしぼり尽くすように動いていた手がやっと離れていく。 今更だとは知っていてもシャツの裾を掴んで萎えた起立を隠そうとすると、リボーン君の手は横に置かれていたケータイを掴むとおもむろにそれを弄りはじめた。 「なにす、」 押さえていた手を無理矢理退かされて自分のそれで写真を撮られた。 どうしてという驚きより、リボーン君の行動にショックを受けた自分が可笑しい。惨めにもイかされて、その証拠まで取られてしまったことは確かに酷いと思う。けれどそれをリボーン君にされたということが何より衝撃的だった。 震える身体は怒りにか恐怖にか、それとも絶望によってかおさまりがつかない。そんなオレを無視するようにリボーン君は制服からきちんとアイロンのかけられているハンカチを取り出すと、汚れたままのオレの起立を拭い取っていく。 「ツナ」 「なん、だよ」 多少のしみはあるものの、どうにか綺麗になった下着とズボンをリボーン君の手によって元に戻されていく。 先ほどまでの濃い精液の臭いは冷えた朝の空気に紛れて消えていて、されていた行為が嘘みたいに思えた。 そんなオレの逃避が透けて見えたのか、リボーン君はオレを呼んだその唇を押し付けて口を塞ぐ。下唇を軽く啄ばまれ、緩んだ唇の合間から舌を挿し入れられて歯列をなぞられた。 「んっ、」 覚えのいい身体はキスの快楽を刻み付けられていて、嫌だと拒否する感情より先に入り込んできた舌を受け入れた。 植え込みの横をドライブスルーの車が通り過ぎていく。 建物の陰になっている上に植え込みの手入れがされていないから車からは見られないと知っていてもドキドキと心臓は早鐘を打った。 止めなければと思うのに絡む舌に羞恥ごと奪われる。 肩を掴んでいたリボーン君の手がぐっと力を籠めて身体ごと後ろへと押し付けてきた。逃げようもなく背後の草むらに背中をつけたところで、ケータイが突然鳴り出す。 「っ…じかん、だ」 休憩が終わったことを知らせる音に慌てて重なっていた顔を振り切ると、リボーン君はオレの上から身体を起こしてオレの腕を掴み上げた。 容易く引き起こされたことに驚いていると、背中に腕が回されて耳元に顰めた声を掛けられた。 「知らなかったぞ。ツナがこんなにも可愛くて積極的な露出狂だったなんてな」 「んな？！！」 誤解だと口に出すより先に離れていったリボーン君が膝をついたところで後ろのドアが開く。 「沢田さん！そろそろ時間ですよ…って、沢田さん？つーか、どうしてここにリボーンさんが？」 時間になっても戻ってこないオレを心配してか獄寺くんが扉の向こうから顔を覗かせていた。それに慌てて顔を上げてからリボーン君がオレの上から退いた理由に気付く。ハッとリボーン君に視線を向けると、知り合いだったらしい獄寺くんにニヤリと笑いながら口を開いた。 「声が聞こえたんで気になって覗いたらツナがすっ転んでたんだ。手を貸してやっただけだぞ…なあ？」 『手を貸した』の一言に韻を含んだ響きを感じ取って顔を赤らめる。意識の外で手が下肢を隠そうとシャツの裾を引き下げていると、それを知らない獄寺くんがすぐに駆け寄ってきた。 「大丈夫っすか？！」 「だっ、大丈夫だから。すぐに行くよ、ごめんな」 オレの全身を調べるように獄寺くんの視線が動くことに耐え切れず、獄寺くんの背中を押して扉の向こうに押し遣った。 そのまま逃げようと出入り口に足を踏み入れると、扉の外から声が掛かる。 「ツナ、これは預かっとくぞ」 「て、ああ！」 見覚えのあるケータイを手にしたリボーン君がニィと口端を上げながら手を振っている。取り返そうと伸ばした手を払われて扉がバタンと閉められた。 「沢田さん？どうかされたんすか？」 「え、あ…なんでもないよ！」 「ケータイならすぐ返してくれますよ。リボーンさんは今から店に来るでしょうし」 「うん…」 自分の恥部を撮られたなんて言える筈もなく、すごすごと手を引っ込めると扉の向こうの遠ざかる足音に耳を傾けた。 どうしてあんなことをしたのか、リボーン君の気持ちが分からない。 撮られた写真の行方より、何故かそれが気になって仕方なかった。 . |