リボツナ3 | ナノ



2.




深夜のファーストフード店は客足が絶えることはない。昼間ほどの賑わいはなくとも途切れずに注文が入る店内をどうにか少人数で回して、その波が引く時間帯が明け方でちょうど人気がなくなってくる。
一人ぐらい残ってくれればと期待していたオレの願いも虚しく、店内は自分を含めたバイトのみしか見当たらなかった。

「休憩取ってきて下さい」

「う、うん…」

昨晩から一度も休憩していなかったことを知っている獄寺くんが、眠そうに目を擦りながらそうオレに声を掛けてくれる。
いつもならありがたいと思うのに、今日はそれが死刑宣告のようにすら感じた。食いしばった唇を見られないように頷いてバックヤードに足を向ける。
結局、あれから昨日も寝られなかったから4日寝ていない。
自分でもフラフラしていると自覚があるのだから、一緒に仕事をしている獄寺くんにも悟られているのだろう。心配そうな視線を背中に感じながら扉の向こうに身体をすべり込ませると、背中を扉に預けて重いため息を吐き出した。

「やるしかないのかよ…」

出来ないと理性は叫んだ。やるしかないと感情がそれをねじ伏せる。
こんなこと、すぐに飽きるさとどこか気軽に考えていた自分の間抜けさを今は一番恨んでいた。
休憩は20分。その時間でメールの指示に従わなければならない。
嫌がる手をどうにか動かし私服を取り出す。ここの店員だとすぐに分かる帽子と制服を脱いで、着てきたシャツに袖を通しケータイを掴むと裏口へと続くドアへと歩いていった。



ネットの世界が怖いものだと知ったのは、あの一通のメールからだった。
その日は特にすることもなくパソコンの前でぼんやりと過ごし、どっぷり暮れた夜空を横目にメールチェックだけしてそろそろ寝るかと画面を覗いていた。
ウィルスが怖いことは知っていても対策をしてあれば大丈夫だと気楽に考えていたから、いつも送られてくる面白いタイトルのメールを何気なくクリックした。すると突然画面が動かなくなる。少し古いパソコンだからよくあることだと慌てずに少し待っていればいつもとは違うメールに驚いた。しまったと思ったその一瞬後に妙な画面になって焦るも、すぐに元の画面に戻ったからホッとしてメールに目を通してそれをすぐにゴミ箱に棄てた。
多分、それがはじまりだったのだ。




私服に着替えたオレは店の裏口から抜け出すと店舗を囲う植え込みの一番茂っている場所へと足を踏み入れた。朝露で湿った草の上に座るとズボンが濡れて気持ち悪い。
だが、それに気を取られている時間などなかった。
息を潜め、辺りの気配を探り、それから自分だけしか居ないことを確認するとベルトのバックルに手を掛ける。早朝の染み入るような静寂に金属音が響いて、自分のしなければならないことを嫌でも確認させられた。
どうにかベルトを外しおえると、今度はズボンのボタンに指を伸ばす。震える指がどうにかボタンを外すと、ヒヤリとした空気がズボンの中に忍び込んできた。

「っ…!」

ジッパーを降ろすと子供じみた柄のトランクスが現れる。下着なんて誰に見せるものでもないと母親に渡されるまま身に着けていたことを今更恥じても遅い。
思わず止まった自分の手を振り切るように首を振って、手早く済ませてしまおうとトランクスを引き下げた。
寒さと今からする行為に萎縮している自分自身を片手で握る。こんな状況で勃つもんかとやけくそになりながらも、それでもしなければならないことに背中を叩かれて扱きはじめた。

「んっ…んン、」

妙なメールを開けた後、パソコンの作動がおかしくなることはなかった。けれどそれはひっそりと確実に入り込み、ファイルから一番見られたくないものを盗み見られていたと気付いたのはそれから3日後のことだ。

中学の頃から好きだった女の子は今では現役のアイドルとして活躍している。その子は一方的にオレが想いを寄せていることなど知らないし、知られなくていいと思っていた。
頭の悪いオレと彼女とは高校が別になり、それでもアイドルを追い掛けるようにあの手この手で写真を入手しては小さい春に頬を緩ませていた。
その写真が手に入ったのは本当にたまたまで、その後彼女の知ることとなりデータごと没収されたと聞いていた。
だからそれを中学校の時のただの同級生だった男が持っているなんて彼女は知らない。
オレに売ったヤツも、どうやら他の男たちには回収したと言っていたというのに、印象の薄いオレにはそんな話などなかったのだ。
その後芸能界デビューが決まり、本当のアイドルになった彼女に今でも憧れている。
人知れずこっそりとパソコンのフォルダに保存されているそれ。一度見たきりで二度は見ていない。もの凄い写真という訳でもないが、いつもが大人しい本人がその時だけは烈火のごとく怒りを漲らせていたと聞いて返すこともできなくなった。
それをこともあろうか盗まれてしまったのだ。あの『黒い暗殺者』によって。

「…っ、ハッ!」

無理だと思っていたのに、しばらくご無沙汰だったせいか手の中で硬く大きさを増してく。先からしたたる体液が扱く指を助けて余計に止まらなくなる。
イくことだけを思い描いて目を瞑るとグッと先が上を向いて射精感が高まった。
一度見ただけのそれを削除しておかなかったのは、自分だけが手にしているという優越感と男のサガだったと思う。こうして自慰をする際にも思い出せないほどなのに、手元にあるというだけで興奮を覚えるのだから我ながらみっともないというか小さい。
それ以来、自慰をするたびに頭をあの写真が過ぎるからどうしたって回数は出来なくなっていて、今のこれだってかれこれ半年ぶりだ。だから自然なんだと異常な状態にも昂る起立は当たり前なんだといい訳をする。ここまでくれば止まる訳もなく、羞恥の箍が外れた手で必死に擦り上げていれば後ろから思わぬ声が聞こえてきた。

「…誰かいるのか?…ツナ、か…?」

「っっ!ひぃぃ!」

イく寸前の自分の息遣いとドクドクと煩い心音だけに支配されていた空間に、突如現れた人物の気配に身体が固まる。足音も気配にも気付かなかった自分を恨んだが、それよりも先にリボーン君が近付いてきた。

「やっ…!ダメ!!近寄るなって!」

とんでもない場面を見られてしまったことに慌てているオレより早く状況を理解したリボーン君はオレのソコをじっと見詰めている。後ろ向きだったことと、すぐに上着を被せはしたから見られなかったかもしれないと思っていたオレの期待を裏切って足音は近付いてきた。

「ほお…知らなかったぞ、ツナ」

「な、なにが?!」

「お前が露出狂の気があるってこと、だぞ」

「ちが…!」

やっぱり見られたのかと羞恥に染まった顔を背けていれば、いつの間にか真横まできていたリボーン君の手がオレの手を掴んで上着ごと引き寄せた。

「手伝ってやろうか?」

「は…」

オレよりも体格がいいとは思っていたが、ここまで違うとは思わなかった。レジで隔たれていた距離が0になったことでそれを思い知る。
振り切れない腕と見られてしまったパニックで言葉を忘れていたオレに、リボーン君の手がスルリと伸びてきた。


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