おまけ12月に入ってやっと冬らしくなってきたと思ったというのに、今日はまた秋に戻ったような陽気だ。 シャツ一枚でソファの上に転がっているのに少しも寒くない。 起き上がるのも億劫で、寝転がった姿勢のままテレビの電源を入れるとすでにニュース番組はなくお昼のバラエティ番組が映し出された。 遠くから聞こえるシャワーの音に、思わずほっとする。 疲れた。 4年前より尚ねちっこくなったアイツの相手はひどく疲れる。 朝日が昇る頃まで寝かして貰えず、意識を失うように眠りに落ちたのは雀の鳴き声が聞こえてから。 目が覚めたのはさきほどで、ようよう起き上がってここまで辿り着いたのだ。 きっと目の下にクマが出来ているだろう。 「眠ぃ…。」 寝ていればいいだろうだなんて言ったヤツは誰だ。 生理的欲求の中でオレが愛してやまない睡眠欲。 勿論オレは、愛するベッドと枕と布団に包まれて幸せな世界を旅していたい。 だけどそれはことごとく邪魔されてしまうのだ。 無防備に寝ててみろ、触られ放題の上に寝ているから逃げられなくて気が付けばもう一回…って殺す気か?! とにかく起きていれば抵抗もできるし、意外に甘いから食事や着替えの支度を手伝ってくれたりする。 意外と言えば、リボーンは料理が上手い。 オレと違って目分量じゃないからいつも同じ味になるし、手先が器用だから見た目も綺麗だ。 思い出せば腹が鳴った。 そう言えば昨夜からろくに食べてもいない。 オレは動けないから作って貰おう。早く出てこないかな。 と、シャワーの音を聞いていた時。 携帯電話の着信音が響いた。この音はオレの携帯だ。 重たい腕と足に力を込めて、昨日脱ぎ散らかしたまま床の上に転がるジャケットから取り出した。 画面を見て慌てて受ける。 「もしもし、山本?」 『おう、ツナ。今、ちょっといいか?』 「うん?いいよ。」 『…リボーンとは元に戻ったのか?』 「うっ…!えーと、うん。」 言い難さに思わず口篭る。 忘れていた訳じゃないけど、考えないようにしていたらしい山本とのことは…オレのせいで放ったまま今日まできていた。 言わないといつまでも引き摺ることになるだろう。 「オレ、リボーンと一緒にいるよ。今度はずっと。」 『そっか…』 だからごめん。とは言えなかった。 山本はいい男だからオレよりいい子なんてすぐに見付かるさ、とか色々言いたいことがあったけどそれも飲み込む。 リボーンのいない4年間、ずっと傍にいてくれたことを忘れたわけじゃない。 中途半端に依存していたオレのことを待っていてくれたのに、結局は元の鞘に収まって…酷いヤツなのに愚痴ひとつ零さない。 「ありがとう…」 もうこれしか言える言葉は持ち合わせていなくて、そんなありきたりのことしか言えない自分のバカさ加減に胸が苦しくなった。 『気にすんなよ!オレ、諦めてねーからさ!』 「……はぁ?」 『ツナ、最後の方はオレに傾きかけてたろ?まったく脈なしだったらキスしねーもんな。』 「ちょっ……!ちが」 「ほぉ?それは聞き捨てならねぇな。」 オレの声に被さるように耳元で聞こえる艶のある低音に、いつもとは違う意味でゾクリとした。 いいいっいつの間に?! 『リボーンか?聞いての通りオレは諦めてねーから!』 「聞こえたぞ。色々と、な…」 ラグの上に座ってだらしなく片肘をテーブルについた格好で喋っていたところを、後ろから抱きこまれ携帯を握っている手ごと握り込んだまま山本と会話をしている。 恐る恐る後ろを振り返ると口角が綺麗に上がっていた。 「ひぃぃぃ…!」 『ツナ?どうかしたのか?』 「何でもねぇ、気にするな。」 言うが早いか、逃げ出そうとしていたオレの腰を掴むと携帯を握っていた手を外し、シャツの裾から入った手が下肢を撫で上げる。 散々教え込まれた快楽の火がまた灯りかけてきた。 「んん…っ!」 「山本にイイ声聞かせたくねぇなら漏らすなよ?」 やわやわとわざとゆっくり動く手は、的確にいいところだけを擦り上げてくる。これでどうやって声上げるなって言うんだ、バカ。 『ツナ?どうした?!』 「う、ん…なんでもない…っ!」 とにかく電話を切ろうと声を出すと、そのタイミングを見計らって悪戯を繰り返す。 腰に巻き付いていた手が今度は上へと辿っていき指で摘まれ、声が上がりそうになった。携帯を持っていない手で咄嗟に口を押えたからよかったものの、なんつーことしてくれてんだ。 キッと睨むが益々楽しそうに顔を歪めるだけで、気にしちゃいないよコイツ。 「どうした?電話を切らせて欲しいのか?」 ぶんぶんと上下に首を振る。 山本相手にこれ以上恥は掻きたくない。 涙目になりながら頷いていると、胸と下肢から手が解けた。 ほっと息をついて、山本にイタリアでも頑張れよ!と声を掛けて終わりにしようとしたのだが。 「あぁ…っ!」 立ち上がりかけていた中心の弱いところを指の腹で擦られて、みっともない声が上がる。 咄嗟のことで声を殺すことも、携帯を離すことも出来ずに聞かれてしまっただろう声に羞恥が募る。 「オレからの餞別だ。じゃあな、山本。」 言うだけ言うと、携帯の電源を切ってオレの手から外すとぽいと床の上に放った。 オレはといえば、また始まった責め苦にすでに泣きが入っていた。 昨日からなんだよ。本気で死ぬって! 「も、ムリ…!」 「何言ってやがる。まだ聞きたいことがあるから落ちるんじゃねぇぞ?」 ラグの上で力の入らない身体を投げ出していると、その上に伸し掛かって着ていたシャツさえ剥いでいく。 もう抵抗する気すら失せた。 抵抗すると余計に疲れるのだ。もういいや。 「で?山本とどこまでしたって?」 「やっぱそれ?……何にもないって!」 「しょうがねぇ。身体に聞くか。」 「いやいやいや!本当!マジだって!!」 って、聞いちゃいない。 昨日のリピートってムリだから。 どこまで付き合わされたかは誰にも言いたくない。 終わり |