リボツナ3 | ナノ



2.




朝からそんなことがあって、元々オツムの出来がよろしくないオレだったので勿論授業など身に入る訳もない。
一時間目が終わり、二時間目の体育の後にはリボーン先生の数学が待っていた。
顔を合わせ難いったらない。
体育で転んで頭でも打ったら一時間ぐらい保健室で休ませて貰えるだろうかと考えたりもしたが、そういう時に限って転がるどころかファインプレーになったりして…ダメツナもたまにはやるな!と背中を叩かれた。嬉しいと素直に喜べない。
裏目裏目に進んでいく。
仕方なしに次の授業の用意をしていると、前の席の獄寺くんが鞄をゴソゴソ漁って何かを取り出してきた。

「沢田さん!体育お疲れ様です!少し腹減りませんか?オレ、今日いいモン買ってきたんスよ!」

「いいもの…?」

何だろうと机の向こうに身体を乗り出すと、獄寺くんの手にはピンク色の可愛らしい小箱がこっそり隠れていて、それを開けると中には小さなクランキーチョコが出てきた。

「へぇ…新しいヤツだよね?」

「そうっス!」

クランキーのガリガリっとした食感が好きで、うきうきと手を伸ばすと今度は横から声が掛かる。

「ツーナ!こっちも新しいぜ!」

そういって山本から渡されたのはピンクのチョコ柿ピー。イチゴだらけのお菓子たちに春の訪れを感じながら、ちらりと山積みになっていチョコレートの袋を確認した。
山本も獄寺くんもオレと違って本当にモテる。獄寺くんは一切受け取らない主義だと断っていたが、山本はどうやら受け取っているらしい。
そんなチョコレートの山からではなく、明らかにコンビニ袋から出てきたそれに少しホッとして、当たり前だよなと苦笑いを浮かべた。こんな日に男に告白するなんてやっぱりありえない。
いくら山本と怪しいだの、獄寺くんはガチだのと言われていようが現実はこんなものだ。だからやっぱりリボーン先生のあれも言葉の行き違いとかそういうものだったんだろうと無理矢理思い込む。
モテないオレに恵んでくれるのはこれくらいで丁度いいと獄寺くんから貰ったクランキーチョコを口に放り込もうとしたところで後ろから声が掛かった。

「もう授業が始まるぞ。っと、ツナ。その手にしているのは何だ?」

「えっ、と…」

リボーン先生の言葉にオレ以外の誰もがピタリと動きを止めた。
いつの間に教室に入ってきていたのか驚いたことに誰も気付かなかったらしい。女の子たちすらぎょっとした表情でいるところを見ると気配を消して入ってきたのかもしれない。
原則、並中は菓子やゲームなどの学業に関係のない物の持ち込みは厳禁だった。だけどバレンタインだけはあの煩い風紀ですら大っぴらにしなければ見逃してくれる日というだけあって、女の子のみならず男もこっそり持ってきてはつまんでいる。
口に入れそこなったそれを手に俯いていると、山本がくれた小さな袋と獄寺くんから貰った小箱ごと取り上げられた。勿論手にしていたチョコまで。
それを見ていた他の生徒たちもそっと菓子をしまい込む。
なんでオレばっかり…と恨めしく思いながら、オレの前から立ち去らないリボーン先生の足元を見ているとオレ以外には聞こえないほど小さな声でポツリと呟いた。

「オレからのは受け取らねぇで、山本と獄寺のヤツは受け取るんだな」

「え?」

慌てて顔を上げるとそこにはいつもの飄々としたリボーン先生しかいなくて、だから今の言葉は幻だったのかと錯覚しそうになる。

「放課後取りに来るように。おい、てめぇら授業を始めるぞ!」

そう言うと山本や獄寺くんからのそれらをジャケットに突っ込むとリボーン先生は教壇に向かっていった。オレはといえば呆然と広い背中を見詰め続けるしかなかった。








付き添うと言い張った獄寺くんをどうにか宥め、何かあったら電話しろよと声を掛けてくれた山本に首を傾げながらリボーン先生が待つ、数学準備室へと向かった。
さすがに放課後ともなれば女の子たちが鈴なりになっているんじゃないかと思っていたのに、数学準備室の前はいつもよりガランとしているようだ。
呼び出しておいて、よもやここに居ないのではと不貞腐れそうになって慌てて頭を振る。ここにいなけりゃ探す手間が掛かるからだと自分に言い聞かせ、コンコンと目の前の木の引き戸を2回叩き付けた。

「リボーン先生いますか?」

「ああ、いるぞ。いいから入れ」

てっきり居ないと思っていたのに、リボーン先生からの返事が返ってきたことに驚いた。下の階から聞こえる賑やかな気配を背に、静まり返っている準備室の戸をそっと横に引けば4つある机の前には3つの空席と1つの在席が見える。
本当にリボーン先生しかいないことにびっくりしながら、妙な居心地の悪さを感じて戸を閉め切れずにいた。ここを閉めたらヤバいと思う。ゾクゾクと震える背中を戸に凭れ掛けさせながら顔も上げないリボーン先生の足元を見ていると、その足がこちらに向かってきた。
逃げたいと思ったのに、それより先に腕を掴まれて戸を閉められた。しかも錠までかけられたことに狼狽えているオレの腕を引っ張ると教材が山積みになっている机の上へと押し遣った。

「いた、」

「チョコなら棄てたぞ」

「んなっ?!」

上から身体ごと押さえ付けられている格好で机の上に座らされて、身動きが取れずにもがいていればそう吐き捨てるように言われてカッとした。

「なんでだよ!確かに校則違反だけど、人が貰った物を勝手に棄てるなんて酷いだろ!?」

友だちからの貰い物を勝手に棄てられたことに声を荒げ、その横暴さに顔を上げて睨み付ける。するとリボーン先生はそんなオレの顔を見てうっすらと笑った。

「酷いだと?それをお前が言うのか?」

「オレ?」

意味が分からずに睨みつけたまま見上げていれば、オレを見詰めている黒い瞳が眇められていく。笑っているようにしか見えないのに、気配は完璧に怒った人のそれであまりの怖さに乗り上げた机の上を後退りした。背中に当たった硬い感触にそれ以上後ろがないことが知れて焦りで机を足で蹴り上げてしまえば、その足ごと掴み上げられた。

「ひぃ!」

「オレの告白には無視で、山本と獄寺の気持ちには応えられるんだな?」

「ち、ちが…」

どうしてそうなるんだと頭を振っても、リボーン先生は退いてくれない。

「あれはただのおやつであって!」

「どうだか…お前が好きな味を今日渡す意味ってヤツを分かっちゃいねぇんだな、ツナは。だからオレの気持ちも平気で踏みにじる」

「そんなこと」

「あるだろ?こうして呼び出さなかったら、逃げてたんじゃねぇのか?」

違うとは言えなくて口を閉ざすと、上から深々とため息を吐かれて唇を噛んだ。オレばかり責められているこの状況はやっぱり納得がいかない。および腰ながらもどうにか顔を上げて口を開く。

「…だって、オレが好きなんて嘘じゃないの?女の子も、食堂のおばちゃんや同じ先生たちだって女の人はみんな先生がいいって言ってるし…オレ、美少年なんて柄じゃないし…突然だったし……分かんないよ」

どこがいいのか分からないともう一度呟けば、足を掴んでいた手が外れて代わりに顔が近付いてきた。びっくりして目を閉じてしまえば、迷ったように吐息が唇に掛かってびくりと肩が震えた。

「目ぇ開けろ、このタイミングで瞑るバカがいるか」

なんだか分からないながらも薄目を開けて確認すると、目の前の顔がもっと近付いて鼻の頭に痛みを覚えた。

「いひゃい!」

犬歯を立てられたのかガブリと音がするほど噛み付かれて眦から涙が浮かぶ。2、3回噛み付いた後に今度は生暖かい何かが鼻先を撫でていく。それがリボーン先生の舌だと気付いたのは最後の仕上げだと目元までベロンと舐められて、驚きで見開いた瞳に先生の顔が離れていったのを見送ってからだった。

「な、な、な…!」

上手く言葉にならずに口を開いていると、今度こそ唇に唇が重なってきた。
初めてのキスだからどうしていいのかも分からない。ただくっ付ければいいのかと思っていたそれが、横から食らいつくように重ねられて息も出来ないほどぴったりと合わさった拍子に口の中まで舌を押し込められた。
これが普通なのかそうじゃないのかも知らない。
なのにオレの葛藤も驚愕も置いてきぼりのまま先生はどんどんオレの奥へと侵入を果たした。

「ふ、ぁ…っ」

首を振ってどうにか隙間を確保しても、すぐに唇が追ってくる。気が付けば机の上に転がされ、そこでぐったりと仰向けにされたまま荒い息を吐き出してリボーン先生を見上げていた。
先生の指がオレの口端から零れていた唾液を拭い取り、そんなわずかな刺激にさえビクリと肩を震わせた自分が恥ずかしい。

「まさに唾をつけたってヤツだな」

その台詞に顔が赤らんだ。
自分のものともリボーン先生のものとも分からない唾液に濡れた唇を手の甲で拭い取ると、その手を取られて舐め取られた。見ていることも出来ないほどいかがわしい光景に視線を横に逸らす。
そんなオレを見ていたリボーン先生はオレの上から退くと、オレの腕を引いて起き上がらせてくれた。

「もうこれでなかったことにも出来ねぇだろ。逃げるんじゃねぇぞ」

「うっ!」

「返事は1ヵ月待ってやる。そういうもんなんだろ?」

「ええぇぇえ!!ちょっ…早っ!」

どこまで日本文化を理解しているのやら。それとも実は全部理解した上でわざと曲解しているのではと思いついたのは、それから1ヵ月先の話だった。

おわり

2011.02.08



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