4.「…はい、承知しました。いいえ…お預かりします。それでは失礼します。」 誰かと電話をしているらしい先生の声が聞こえて、それを夢うつつで聞くとはなしに聞いていた。 何で声までいいんだよ。あの低く響く声にメロメロな女の人はいっぱい居るんだろうな…なんて思いながら。 だるくて、何だか身体が熱い。身動ぎすることも億劫なくらいだ。 開けていた目をまた閉じてうつらうつらしていると、足元からドアの開く音が聞こえた。 近付いてくる足音に起きなきゃと思えど、瞼が開かない。 もういいや、寝てしまえ。 意識を手放そうとした瞬間、ふわっと前髪を掻きあげられた。 大きくて冷たい手の平が額に触れる感触が気持ちいい。 「起きたなら薬を飲めよ。」 そう声を掛けられて跳ね起きた。 「あ、あれ?先生??……ってここどこ?」 先生の声に驚いて目を覚ましたが、ここはどこだろう。 見覚えはない部屋のベッドの上に寝かしつけられていたようだ。 キョロキョロと辺りを見回しても、やっぱり見たこともない。 そんな挙動不審なオレの横に座ると、手にしていたコップと錠剤を押し付けられる。 白い錠剤が2つ、コロンと手の平の上に転がった。 「これ…」 「解熱剤だ。痛み止めにも効く。…あのままじゃ帰れなかったから連れてきたんだが、熱が出てな。その体調で家に戻るのも辛いと思ってさっき電話でオレのマンションに泊まると連絡をしといたぞ。」 「あ、あの…迷惑じゃない?」 聞いてからしまったと後悔する。迷惑かと聞かれて迷惑だと答えるバカはいない。 それじゃあまるで、迷惑じゃないと言って欲しいみたいじゃないか。 いや、まるでじゃない。本当は言って欲しいんだ。 ここに居てもいいと。 オレの顔を見ていた先生は複雑な顔をしてため息を吐いた。 困らせたのだと思って慌てて顔を下に向けると、顎を取られて覗き込まれる。 「やっぱり何か誤解してるな?」 「してない、よ。」 ガキっぽい独占欲なんて見せたらすぐに嫌われちゃいそうで、それを隠したくて手にした錠剤を口に放り込むと水の入ったグラスに口を付ける。流し込もうと煽る手前でグラスを取り上げられて、水を口に含んだ先生の顔が近付いて口を塞がれた。 「んっ…!」 少しずつ水を流し込まれて、舌の上に転がっていた錠剤がひとつづつ喉の奥へと押し込められる。 小さい錠剤は難なく喉を通っていった。 水のなくなった口腔を舌で嬲られてあっという間に違う意味で身体が熱くなってきた。熱も上がってきたのかふらつく身体を先生に縋ることで押し留めて口付けに応える。 舌を絡め取られて息苦しさに意識がぼんやりしてきた。 唇が離れていくと、身体を起こしていることができず倒れ込む。 ハァハァと忙しない息を繰り返しながらオレを覗き込む先生を見上げた。 「好きだぞって言っただろうが。」 「…?」 「信じてねぇだろ。……大体な、本気じゃなかったら教え子に手ぇ出すか。」 そうなんだろうか。 でもあれだけモテるんだから、本気が2人や3人居ても不思議じゃないと思うのだ。 黙って見上げていると、コップを手元のミニテーブルに置いて仰向けになっているオレの上に伸し掛かってきた。 「だって、好きって言っても分かったとしか答えてくれなかった…」 「あの時、どこだったか覚えているか?お前、職員室で告るなよ。周りには気付かれなかったが、人がたくさん居る場所であれ以上答えられるか。」 そういえばそうだったような。 気付いたら口から出てしまっていたのだ。 何だか旗色が悪くなってきているような気がして視線を横へと逸らすと、鼻に噛み付かれた。 「いっ…!」 「どっか向くんじゃねぇぞ。…大体、獄寺の姉と居たところを見たんなら声を掛けろ。気になるなら聞け。一人で考えてんな。」 「ううっ…だってお似合いだったし、オレ男だから敵わないって思って…」 噛まれた痛さにか、じんわり涙が滲むと目の前の顔がぼやけてしまう。 どんな顔をしているのか分からないが、困った顔だったらどうしよう。 益々辛くなって瞼を閉じると眦から涙が零れ落ちた。 手で顔を隠して丸まるとその手を取られてベッドの上に貼り付けにされた。 「お前、自分から告白したと思ってるみたいだが違うぞ。あれはオレが告白させたんだ。」 「…はい?」 何を突然言い出すのかと思えば、訳の分からないことを主張し始めた。 訝しげに顔を覗くとニヤっと腹に一物ありそうな顔で笑っている。 それでも言葉の意味がさっぱり分からずにいると、顔が近付いてきて額に額を重ねた。 「本気で鈍いな…最初っからずっと口説いてんのに、まず気付いたのがそこってのがもう致命的だぞ。」 「な?!」 「ツナだけだ、補習も2人きりになりたいからしてたんだってことぐらい分かれ。」 「へ?」 「だから、入学式んときから狙ってたってことだ。分かったか?」 「はあぁぁあ!??」 ありえない答えに呆然としていると喚いて大きく開いていた口を塞がれた。 今日だけで何度目だろうか。 もう数えるのも億劫だった。 わざと音を立てて口付ける先生の顔は珍しくご機嫌だと分かるほどだ。 顔を覗き込まれて、やっと言われた言葉が頭に届く。 じんわりとひどく暖かい気持ちに満たされた。 「オレだけ?」 「ああ、だからツナも浮気するんじゃねぇぞ。」 「しないよ。そもそも相手も居ないって。」 「…居たらする気か?」 「しないってば!」 互いの顔を覗き込んでの睦言を笑って言い合う。 幸せ過ぎて怖いくらいだと思っていると。 「…どうしてオレシャツ一枚なの?」 するりとオレ腿を撫でる手を押えて訊ねる。 下着すら身に着けていないのだ。 「そりゃ、お前…精液でベトベト…」 「どわぁ!」 そういえば教室でしちゃったんだよ。しばらくは教壇を見る度に顔が赤くなりそうな気がする。 片手で腿を撫でる手を押さえ、もう片手は羞恥心の薄い口を塞いでいるとその隙にとばかりに先生の空いている手がシャツの裾から忍び込んできた。 「ひ…っ!」 素肌をまさぐられて身体が跳ねる。 足の付け根をなぞっていた手が膝裏をするりと撫でて、押えていた筈の手も同じように膝裏を抱えて広げた。 「ちょっと…!」 キスマークだらけの脚も恥ずかしいが、キスだけで立ち上がってしまった起立を見られるのはもっと恥ずかしい。 必死に着せられていた先生のシャツと思われる大きなシャツの裾を引っ張って隠すも遅かったようだ。 「熱も出てるし疲れたのかと思っていれば、中々元気だな?」 「へ、ヘンタイ!」 「これくらいでヘンタイ呼ばわりしてんのか…これ以上したら何になるのか楽しみだぞ。」 脚を肩の上に抱え上げられそのまま体重をかけられて折り重なると逃げられない。 どっちの意味で熱くなっているのか分からない身体を押さえつけられながら、着ているシャツを脱がされていく。 「熱出てるってば…!」 「出せば治る。」 そんなバカなと言う前に口を塞がれて、その口付けに流された。 確かに出さなきゃどうにもならないくらいになってきている。 そしてオレは流されることが得意だった。 「…先生。」 「名前を呼べ。」 「リ、リボーン…?」 「…何だ?」 ニヤリと笑うその顔はどこか黒い。 でもそんな先生が好きなのだからしょうがない。 「お手柔らかに…」 それだけ言うと2度目の快楽の波に連れ攫われた。 おわり |