リボツナ2 | ナノ



9.




人の言い争う声で意識が浮上する。
意味は分からなくとも、何となく口喧嘩になっている雰囲気というものは感じ取れるようだ。

目が覚めて一番先に感じたのは口の中の違和感だった。
膨れあがっていて、かつ口を開けようとすれば痛みが走る。
そろりと手を頬に当てて触って確認すると、口の中の歯に当たるせいでなお痛みが増した。
たいぶん寝ていたらしく、寝覚めはいい。

壁の色、天井の高さ、ベッドの寝心地。
包まれているシーツの匂い。
ここはリボーンのマンションだ。
場所が分かると安心した。ここなら大丈夫だから。

ギッと音を立ててベッドから起き上がれば、隣の部屋の喧騒も止んでいて、ドアから人が2人入ってきた。
リボーンともう一人は…

「父さん?!」

「ツナ〜!!大丈夫か?父さん今、日本に着いたことろでな…お前がストーカー被害にあってると言ってたから、丁度日本に国際手配犯を護送する件で来日するリボーンに俺が来るまで護衛を頼んどいたんだが…。」

こんなに顔を腫らして!奈々似の可愛い顔が台無しだ!!
と煩い。でもこの煩さが父さんだ。仕方ない。

滅多に帰ってこない父は、インターポールのお偉いさんだ。こんな顔だけど。
ってことは、リボーンはインターポールだってこと?!
しかも父さんが公私混同してそんなアホなことを頼んでいたなんて…。

ちょっとは気にしてくれていたのかと思ったけど、それは上司の命令からだったんだ。
そりゃあ親切にするさ。上司の息子だもんな。
ズキンと胸の奥が痛んだけど、それには蓋をして父さんに言う。

「どんな説明をされたか知らないけど、リボーンのお陰で助かったんだ。この怪我はオレがリボーンの言うことを聞かなかったからだからね。」

「だがなぁ…。」

しつこい父さんは無視して、隣でオレの腫れ上がっている顔を見て複雑な顔をしているリボーンへと向き直った。

「ありがとうございました。オレ途中で意識が無くなっちゃったんですけど、あれからどうなりましたか?」

敬語に戻ったオレを、辛そうな顔で眺める。
父の部下だというリボーンに、これ以上何を言えばいんだろうか。

あの後、どうやらストーカーに銃弾を撃ち込んだらしくすぐに警察病院へと移送され、今は取り調べを受けていると父さんが教えてくれた。
住居侵入と銃刀法違反、度重なるストーカー行為で実刑は免れないらしい。
それはいいのだけれど。


「取調べを見てきたがな…よほどリボーンに撃たれたのが効いたのか、素直にしゃべっていたよ。もう2度としないって最後には泣いてたなぁ。」


それはよかったような、気の毒なような。
物言いたげな父さんの視線を無視して、ずっとこちらばかりを見ているリボーンの視線に居心地が悪くなる。
何だろう、何か言いたいことでもあるんだろうか。


「ツナ…。」

オレを呼ぶ声に肩を竦ませる。微妙な雰囲気のオレとリボーンを見て、父さんは何か感じたのか黙ってそれを見ている。
ベッドに座るオレの前に片膝をつくと、両手を握り締めた。握られた手の平が熱くなって、じんわり汗が出てくる。離して欲しいけど、ずっとこのままでもいいような。相反する気持ちが渦巻く。


「無理矢理抱いて悪かった。」


謝られてしまった。
そりゃあそうだろう。その場の勢いでもなければ、誰が男なんか相手にするか。しかも上司の息子なんか。
心臓を切り刻まれているような感じに、視界は歪むけれどどうにか涙は零さずに済んだ。

「気にしないで下さい。なかったことにしましょう。」

握られた手を解くと、顔を見ていたくなくて立ち上がる。若干よろけるが、それはたくさん寝ていたからだと嘘をついてリボーンの横をすり抜けようとするが、腕を取られて抱き竦められた。
全身がカッと焼けるように熱い。

「好きだ、ツナ。オレの傍にいてくれ。」

好きだと言われて、嬉しいよりバカにしてるのかと頭に血がのぼる。
抱き締められている腕から逃れようと必死に抵抗するが、腕の力は緩まない。

「あんたは…!あんたにとってはだたの興味本位だったんだろうけど、オレは本気で好きだったんだ。悪いと思っているなら、この手を離せ!」

ジタバタと足掻くオレを離すまいと益々腕に力がこもる。心の中はぐちゃぐちゃだ。
このまま腕の中に居られればいいのにとか、早く離れたいとか。
年甲斐もなくポロポロと涙が落ちてきて、でもそれさえもどうでもいい。

「ツナ…聞いてくれ。ストーカーからお前を守るように言われていたのは確かだ。けどな、そんなの聞く気はさらさらなかった。話を聞いた時には男のくせに自分でどうにかできねぇのかと思っていた。……それでも義理もあるんで、顔だけ出しておくかと警察署で待ち構えていたら、お前は10分も遅れてやってきた。」

それについては事情があるのだが、情けない事情なので割愛しよう。

「最初に見たときはこんなガキによくそんな気が起きるもんだと、ストーカーに呆れていたんだが…どうしても気になって世話を焼いている内に虜になった。オレもバカなストーカーと同じだ。いや、それより悪いか。立場を隠して恩を売って、最後まで手を出しちまったからな。」

「なっ!??リボーン、お前オレの息子に何しやがった?!」

やっと話を飲み込めた父さんが、リボーンに食って掛かる。が、さらっと無視した。…父さん、本当に上司なの?
事情は飲み込めた。けど、話の先が見えない。どうしてオレを抱いたのかが分からない。いや、そうなのかなとは思うけど、それはただの希望だ。

「ツナに好きなヤツがいることを知って焦った。そんな素振りなんざなかったのに…てな。誰としたんだと想像して手荒くしちまったが、あれが初めてだっただろ?だから悪かったと謝ったんだ。したことは謝らねぇ。」

「あ…じゃあ…本当に?」

「ああ、本気だ。」

じわじわと心が解凍されていく。硬く冷たい気持ちを、リボーンの熱で溶かされていくようだ。

嬉しい。
顔に熱が集まり、茹蛸のように真っ赤に染まる。
それを見ていた父さんが、我に返ると怒鳴りだした。

「許さんぞ!父さんは許さないからな!ええい、リボーン手を放せぇ!!」

またもさらっと無視したリボーンは、向かい合わせになって視線を合わせて言い募る。

「どんなヤツかは知らねぇが、オレを選べツナ。」

「どんなヤツって…お前だけど。」

「…何?」

「だから、お前なの!」

恥ずかしさにふぃっと横を向けば、顔を掴まれて確認される。

「だってお前…ストーカー野郎に電話で言ってただろ?」

「キスからその先はお前が勝手にしたんだろ!」

腫れているぽっぺたを掴まれて、痛いやら恥ずかしいやらでどうしていいのか分からない。
視線を泳がせていると、ぎゅうと抱き締められた。

「ぐっ…ぐるぢぃ!」

絞め殺すつもりか?!
苦しくて、痛くて、恥ずかしい。でも嬉しい。
後ろで父さんがカンカンになっているけど、そんなのどうでもいいや。

痛む頬と身体を無視してオレからも抱き付いた。
すると上からリボーンの顔が落ちてくる。
目を瞑って待ち構えていると、父さんが実力行使に出てきた。
オレの肩を掴むと、リボーンから引き剥がそうとする。
…悪いんだけど、邪魔しないで欲しい。

「「それ以上やると、馬に蹴られて死ぬよ(ぞ)。」」

「ツナ〜!!あっ、待て!」

ひょいっとオレを抱え上げて部屋から逃げ出した。
追ってくる気配に気付いて、慌ててリボーンの車に乗り込んだ。

「これからどこ行くの?」

「そうだな…家光の意表を付いてツナの実家にでも行くか?電話で話しただけだが、奈々はオレとお前のことを応援してくれるそうだぞ。」

「えええっ!?電話って、どんな電話したの?」

「綱吉くんを下さいってな。」

バカだろ?バカだな!ああ、もう。
大好きだ!



終わり










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