6.「うわーでけー…。」 リボーンに連れて来られたホテルは、調度品がいかにも物がよさそうな落ち着いた感じのスイートルームだった。そんな部屋に通されたことなどないオレは、あちらの部屋、こちらの部屋とうろうろしていた。 「おい、でけぇ口開けてんな。いいか、あいつの動きがあるまではここに居るんだぞ?」 「へ?何で?」 「お前、尾行されてただろうが。今下手に帰って、ヤツにあそこを知られるのは困るだろ。」 「あ……ごめん。」 オレの軽率な行動が悪かったので、しゅうんと項垂れる。すると、手を引かれソファのリボーンの膝の上に乗せられた。 「バカ、そういう意味じゃねぇ。お前が狙われて危ないからだぞ。オレが居ない時に襲われたらどうするんだ。」 「…警察呼ぶよ?」 はー…とでっかいため息をつかれた。何で。 「電話掛ける暇なんざあるか。いいからつべこべ言わず、ここに居ろよ。」 「リボーンは?」 顔を覗き込めば飄々としている顔が、少し歪んでいた。 「…仕事だ。」 言って頬に軽く口付けて、背中をゆるく抱き込むとすぐに離れていった。 横に座らされ、遠ざかる体温に咄嗟に手が出てリボーンの服を掴んだ。 何かおかしい。 大事にされている感じはある。けれども距離が離れていくような、近付かせてもらえないような。 突然できた壁に動揺した。 「何だ?」 「あ…」 仕事だと言われれば返す言葉も持っていないことに、改めて気付いた。 被害者とその事件を追う刑事。それ以外の関係を持っていないことが、何でこんなに寂しいんだろうか。 ほんの気まぐれで手を出しただけで、そういう興味もなくなったのだろうリボーンに裏切られたような気がするのはオレがおかしい。 縋った手をぱっと離すと、首を振りニコリと笑う。オレにだってそれくらいは出来る。 「ありがとう。いってらっしゃい。」 「ああ、あいつを捕まえてくるから出歩くんじゃねぇぞ。」 キスもしていかない背中に、涙が出そうだった。 いつの間に好きになったんだろうか。特殊の状況でのつり橋効果みたいなもんなのかな。 籠の中の鳥は、こうやって寂しく主人を待つのかとバカなことを思って。 パタンと閉まるドアに、今までの距離を否定された。 何もすることがなくなった時間は、どんなに贅沢だといわれようとも退屈だった。 退屈で、余計なことばかりを考える。 昨夜から寝付けない訳をやっと自覚したと思ったのに、自覚した途端に距離を置かれた。 ただの興味本位だったんだよな、それを勘違いしたオレってバカ。 バカ、バカ。リボーンのバカ。 あんなことされたら、本気で好きなのかと思うじゃないか。 フェミニストだか何だか知らないが、そんなもの男相手に発揮すんな。 八つ当たりだ。分かっていても止められない。 大体なんでいきなり距離を取った? オレが本気になりそうだったから? だったら捨てておけばいいのに、わざわざこんな高そうなホテルまで取って…バカじゃないの。 「ホント、バカ。」 広いベッドに靴のまま上がり、手で顔を覆いながらうつ伏せる。 ぎゅうと掴まれたような痛さを訴える胸の奥を、無理矢理押し込める。 それでも零れるその痛みに、ゴロゴロと寝返りを打てばケータイの着信音が鳴り出した。 誰だろうと手に取れば、みたことのない番号。 すぐにピンときた。ストーカーだ。 普段なら絶対受けないだろうそれを、その時はこいつのせいでこんな苦しい思いをする羽目になったのだと、怒りながら通話ボタンを押した。 「もしもし。」 『綱吉くん。さっきの男は誰だい?』 「誰だっていいだろ!そういうお前こそ、何の理由があってこんなことしてるんだ。」 『君は僕の大事な人だ。誰にも触らせたりしてないだろうね?早く戻っておいで。』 それ以降はまた妄想を繰り広げていた。いつの間にオレのアパートが愛の巣になっていたんだ?こいつと付き合ったこともなければ、こいつの言う愛の行為をしたこともない。聞いている内にムカムカしてきて、やめればいいのについ言ってしまった。 「ふざけんな!電話で声隠して顔も見せないようなヤツとなんか付き合っているもんか!オレは、オレはちゃんと好きな人が居るんだ。お前じゃない!キスだってその先だって…!」 その先を言うことは出来なかった。手から外されたケータイは、白くて大きな手によって投げ捨てられて、毛足の長い絨毯が受け止めていたのまでは確認できた。 ベッドで座りながらしゃべっていた筈なのに、気が付けば仰向けに寝転がって両の手首をその白い手によって縫い付けられている。動けない。 顔の先にあるのは、酷く苦々しい顔をしたリボーン。 「いつの間に…?」 気配など感じなかった。それ以前に、出て行ってからそんなに時間は経っていないのに何でまたすぐに現れたのか。 驚いて目を見開いていれば、歪んだ顔が見えた。 「そんなに好きなヤツが居るのか?」 言葉にかぁ…と頬を染めて、顔を横に向ける。 聞かれていた。でもあれなら誰を好きだとは分かるまい。 胸の裡で言った言葉を反復し、バレないようにと願っていれば横を向いたことによって晒すことになった首筋に吸い付かれた。 ぴりりとした痛みと、突然の行動にびっくりして視線を戻せば、器用に口でシャツのボタンを外しにかかるリボーンが目に入る。 「何?!」 手で押し返そうにも、手首はリボーンの手によってベッドに押し付けられたままだ。 何をされるのか分からないもどかしさに、身を捩っていれば足の間に身体を捻じ込まれて体重を掛けられた。 そんな攻防を繰り返している間に、ボタンをすべて外し終えた口は躊躇いなく薄い身体に落ちてきた。 最初は脇腹の皮膚の薄いところに舌を這わせ、くすぐったさに身を捩れば軽く噛みつかれた。噛み付かれた痛さにビクリと肩を振るわせると、今度は徐々に上へと舌を這わせる。 胸を舐めたり、吸ったり、甘噛みしたりするが、肝心の突起へはわざと外されてもどかしさに声が漏れた。 「経験のないガキだと思って手加減してりゃ、キスもそれ以上もありか?こんないやらしい面、誰に見せたんだ?」 「いや……ぁ!」 何度もリボーンの与える快楽に流されている身体は、浅ましくその先の行為を期待して小さく身体を震わせていた。それを見て、暗い笑いを浮かべた口許が胸の突起に吸い付き、両手の拘束も外れた。 欲しかったところへの刺激に、身体の芯が熱を持ち始める。 舌先で押しつぶされ、形を確かめるように周りを舐め上げられると知らず声が上がり、その声に笑った吐息にすら身体を震わせた。 拘束を逃れた手は力が入らず、胸にある頭に縋るように手を這わせている。 胸の刺激によって立ち上がりかけている中心を握られて喘ぎが零れた。 最初はゆるく握られていたそこを、胸の刺激とタイミングを合わせて強めに扱かれる。 過ぎる刺激に生理的な涙が零れ、シーツに染みを作った。 段々と下っていく唇の感触に、熱く火照ってきた身体が疼き出した。 足の付け根を強く吸われ、ちくりとした痛みに下を覗けば赤い跡が付けられていた。視覚からの刺激で益々熱くなってきた中心を扱く音に粘り気のある音が混ざり始める。 何でいきなりこんなことになったのか。 まだ戻ってこないだろうと思っていたリボーンが戻ってきた。タイミングが悪かったのだろうか? 何に怒っているのか分からない。けれでも何かによって不機嫌になっていることだけは分かる。 こんな荒っぽい手付きでの行為は初めてだ。 快感を引き出すのではなく、身体を隅々まで暴かれるような容赦のない行為。 それでも酷いではなく、嬉しいと思うオレは相当イカレてる。 手荒い行為も欲せられているのならばそれでいい。 下を這っていた口が、裏筋から舐め上げてきた。 恥ずかしさに手で押えようとすると掴まれて握らされた。 「見ててやるから、自分でしてみろ。」 「なっ…?!」 ニヤニヤと笑う顔と、オレの手ごと中心を握り込む手と、すべてがこの場から逃がさないといっていた。 膝を立てられてよく見えるように広げると続きを促す。 淡白なたちなのかあまりそういう欲求のないオレは、週に一回もそんな気になるかならないかだったのに、今週だけで何度吐精したことか。 中途半端に放っておかれた中心に、自分で手を這わせると上下に扱き出した。 見られていることにも、手の上から握られている手にも感じて、けれども羞恥も捨てきれない身体は赤く染まっていく。 切なげに喘ぎを吐き出せば、食い入るような視線を感じてもっと恥ずかしくなる。けれども止まらない手は最後にぎゅうとリボーンの手に扱きあげられて白い液体を吐き出した。 果てた途端に襲ってきたいたたまれなさと、吐き出した刺激の快感によって弛緩する下肢。 ごろりと身体をベッドの上に投げ出せば、欲に塗れた瞳が覆い被さってきた。 リボーンの重さも、体温も、匂いも。すべて受け止めたくて手を広げる。 興味本位でもいいから一度だけ。 こんなに欲しいと思ったのは初めてだった。 状況を逆手に取って、欲しいものを手に入れるなんて行為も。 自分がこんなにずるいヤツだなんて、思ってもみなかった。 それでも、一時だけでも。 . |