リボツナ2 | ナノ



5.




その夜は中々寝付けなかった。
ベッドに転がれば、居ないリボーンの匂いがしてされた行為とその時のぐちゃぐちゃな気持ちを思い出してしまうのだ。
上掛けに包まっても、枕に顔を押し付けても、そこに寝ているだけなのに抱き締められているようなそんな気がして。


寝付けないのでむくりと起き、ケータイへと手を伸ばす。
今日一日大学へ行かなかっただけなのだが、山本から電話が掛かってきていた。
誰かとしゃべればすっきりするかもと思うのだが、それは禁止されている。
ストーカーから守って貰っているのに、何故か監禁されているような…そんなバカなことを考えていた。


ある意味それは正しいのかもしれない。
今までにない状況、会ったばかりの刑事さんとの同居、その刑事さんからの…

「セクハラ?」

そう言えば何であんなことをするのか、聞いていなかった。
ただ、ただ、嵐のように通り過ぎて行った行為に気持ちが付いていけなかった。

いかにも遊び人といった手馴れた行為に思える。
日本に来て、ちょっと毛色の変わった日本人と戯れてみたかっただけだろうか?

そうじゃないと思いたかった。
けれど、それを肯定も否定もできるだけの判断材料はない。

それでも、かなり忙しいのだろう仕事の合間を縫って帰って様子を見に来てくれたんじゃないんだろうか。
きちんとストーカーとおぼしき3人にまで辿り着いて、それを持ってきて。



結局、その晩は一睡も出来ずに朝を迎えることとなった。










ベッドへも戻れず、ソファの上でうつらうつらと船を漕いでいたらしい。
ソファで小さく丸まって寝ていたようで、ハッと目を覚ませばもう少しで落ちるところだった。
つけたままだったテレビからは、朝のニュースが流れていた。

変な格好で寝たせいか、足が攣りそうでおそるおそる床に足を付ける。
冷えた床に裸足を乗せると身体まで冷えた。
エアコンを入れ、湯を沸かして紅茶を淹れるとすこし空気が暖かくなった。

何気に見たニュースで、言われた日付に全てが止まる。

「今日の出ないとヤバイ。」

大学にどうしても行かなければならない。
どうしようかと思ったのだが、とりあえずリボーンのケータイへ電話を掛けてみた。

「……繋がらないや、どうしよう。」

しかし、どうもこうもない。
あれに出ないと本当にヤバイのだ。

それから1時間後、リボーンの部屋から出るツナの姿があった。








きょろきょろと、まるで自分が不審者のようだ。
いやでもあの3人に見付かる訳にはいかないし。

大学までの道のりを遠回りして、人ごみに紛れて、こっそり入り込んでとここまできた。
この時間だけ出たら、すぐに帰ろう!と心に決めて。


「ツナ!」

「わわわっ…しーっ!山本、静かに…っ!」

目敏く見つけた山本が、こっそり隠れるツナに駆け寄ってきた。周りを見渡すがあの容疑者3人は居ない。
ほっと息を吐いていると、山本が近付いてきた。

「昨日も電話でねーし、何かあったのか?」

「ん…ちょっと、後で話すよ。」

山本の知り合いも容疑者の1人なのだ。そんな風に知人を疑われるなんて嫌だろう。
曖昧に笑うと、山本は悲しそうにこちらを見る。

「本当にゴメン!」

両手を顔の前でパンと合わせる。

「…分かった。今度話してくれよ?」

それ以上は深く追求せずに横に座ってくれた。

「警察には届出たんだろ?今はどいつんちに逃げてんだ?」

「んーと…刑事さんち。」

「はっ?!」

「話せば長くなるけど、ストーカー被害の届出を出しに行ったら、何故か刑事さんが自分ちに来いって…で、お世話んなってる。どこかは言えないけど。」

いつも飄々とした山本が、目をまん丸にしてこちらを見ている。

「それ、大丈夫かよ?」

「へ?大丈夫って何が??」

いや、ツナは可愛いから…とか何とか、ブツブツと小さく呟いている。
やっぱりおかしいよなぁ。普通、いくら刑事だからって自宅まで貸してくれる人なんて聞いたことないし。
しかも何にもない訳でもない。

でも、ひょっとしたら実地で危ないんだぞと教えてくれてるとか?
…ムリがあり過ぎるか。

それでも何故だか悪い人には思えない。


「ツナ?何か変な顔してるぜ。」

「ななな…何でもないよ!」

最後のキスを思い出していたなんて、オレって恥ずかしい。
ノートで顔を隠すその姿に、山本が目を光らせていたことは知る由もなかった。



その後。
どうにか出席して、来週まではどうしても出席しなければならない講義もないので、代返を頼めるものだけ頼むと、すぐに大学を後にした。
送って行ってくれると言われたのだが、山本にも知られる訳にはいかないので丁重にお断りして、来た道を辿っていく。



朝、自宅のアパートへ寄ったのだが、留守電がチカチカと光っていて、伝言があるのは見えた。聞きたくなくて、見ないふりで必要なものだけ取ってくると駅のコインロッカーに入れて大学に向かったのだ。
まぁ必要っていっても、洋服と下着だったのだが、何故か下着がほとんど無かった。合鍵まで作って進入したのだろうか。

リボーンの言っていたこともあながち間違いではないのだろう。
相手はなりふり構っていない。
その恐怖を思い出して、ぶるりと肩を震わせた。

すると、ケータイが鳴る。
恐る恐る覗けば、リボーンからだ。

「リボーン!」

『今どこだ、ダメツナ。何抜け出してやがる。』

「ご、ごめん…どうしても出なきゃならない講義があって……。」

電話越しにふぅとため息を付かれた。
心配させたのだろうし、あそこまで気を使ってくれていたのにそれを無視して来たのだから、呆れられたのだろう。当然だ。
言葉もなく黙ると、普通の声でまた聞かれた。

『どこにいるんだ?車で迎えに行ってやるから言え。』

「ええ…でも、悪いし。」

『悪いって分かってるなら、ストーカー野郎がいるとことへノコノコ出掛けんな。』

「うん。」


そうして、駅で待つこと15分。乗るのは2度目になる黒塗りの車が目の前に滑り込む。
片手に持った荷物を見て察したのだろうリボーンは、荷物を後ろに放り投げるとオレを助手席へ押し込めて、すぐに車を発進させた。

「な、何?」

「お前、見張られてたぞ。」

「え?」

「親友のともだちとか言うヤツが。」

ぞくりとした。
まったく気付かなかったことにも、何も声を掛けずに様子を窺っていたのだろうことにも。

「あの目…あいつがクロだ。」

遠回りしているのだろう車は、何故かホテルへと吸い込まれていった。



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