2.少しの間だと言われ、大学へも行かないようにと忠告された。 確かにここをストーカーにバラす訳にはいかないので、細心の注意が必要だろう。 リボーンの迷惑になるしね。 翌日。 昨日いきなり連れて来られたにも拘らず、リボーンは仕事だと言ってすぐに出て行ってしまい、オレはこの広い部屋にひとりポツンと取り残されてしまった。 冷蔵庫の中は材料がなかったが、マンションの向かいにコンビニがあったり、すぐ近所にスーパーがあるのでそこで買い物を済ませた。 オレの生活圏に被らなければ出歩いてもいいと言われたし。 寝床はどうしようかと思っていたのだが、リボーンも居ないしいいか…とベッドを使わせて貰った。部屋に見合った大きいベッドは寝心地が最高だ。 大学へ行くことも出来ないので、思わず昼過ぎまで惰眠を貪っていたのだが、如何せんお腹が空いた。 「…何作ろっかな。」 手付かずのシステムキッチンには、ヤカンとフライパンしかない。なのに、何故かエスプレッソマシーンがあるのが不思議だ。 買ってきた卵を割入れ、ホットケーキの素で簡単にパンケーキを作った。 バターをたっぷり乗せて、メープルシロップを掛けたら出来上がりだ。ここでエスプレッソでも飲めればいいのだけれど、飲めないので大人しく牛乳を注いだ。 母さんの言いつけ通り、ヨーグルトは欠かさない。それをぱくついて見るとはなしに、テレビ画面を眺めていた。 世は全て事もなし。か… 自分以外は普通の生活を送っているだろう世の中に恨み言などは言わないが、何だか取り残されたような気がする。 誰も居ない部屋で、いつ帰れるともしれない日常を思って暗くため息をついていると。 玄関から物音がして、ちょっとお疲れ気味のリボーンが帰ってきた。 それでも髪が少し乱れてるかな…程度で、それが益々色っぽい。 男らしいんだけどね、色気のある男って感じ? 「おかえりなさい。」 居候なのでお迎えくらいはちゃんとしよう。 居間に入ってきたリボーンから帽子を受け取り、ジャケットをハンガーに掛けて埃を落としていると、リボーンがこっちを見てニヤニヤしていた。 「何?」 「いや…甲斐甲斐しいなと思ってな。」 「そう?」 母さんの真似をしてるだけなんだけど。 粗方の埃を落とすと、キッチンへ向かう。 同じようにオレの後を着いてきたリボーンは、エスプレッソを入れるために用意をしだした。 淹れ慣れている淀みない手付きを覗き込む。 「何だ、飲むか?」 「うんん。オレ飲めないから。この機械は初めてだから淹れ方を見とけば次からオレも淹れてあげられるかなって。」 「難しいぞ?」 「…そうみたい。」 よくスイッチ一つですぐ飲めるっていう感じのヤツではない。見たことのないタイプなのだ。 飲めないけれど、匂いは好きで普通のコーヒーならフィルターがあれば淹れてあげられるのに。 それでもめげずに横でリボーンの手元を見ていれば、エスプレッソが抽出された。広がる香りのよさに驚いた。 「すごいいい香りだね。」 「豆からこだわってるからな。」 カップを持って席に着いたリボーンに、慌てて食事を用意しようとすれば、手を掴まれて横に座らされた。 「お腹空いてない?」 「いいや、空いてるぞ。」 だったら何で? 不思議で一杯になっていれば、オレの食べかけのパンケーキを指差した。 「えっと…食べかけの上に、ちょっと冷めちゃったし。すぐ作るから待っててよ。」 「そいつでいい。ツナが食べさせてくれ。」 ?お腹が空き過ぎてどうでもいいのかな?それにしても食べさせてって、フォークを持つのも億劫なのだろうか?? まぁいいや、と切り分けて開いている口へ一切れ入れる。 すると眉間に皺が寄った。 「不味かった?」 「…いや、甘いのが苦手なだけだ。」 「だから待ってって言ったのに。」 それでもまた口を開けるので、今度はシロップの付いていない部分にバターを付けて口に入れた。 眉間の皺はなくなったので甘くはなかったのだろう。 リボーンが咀嚼している間に、ヨーグルトの残りを食べていると口許に視線を感じた。リボーンしかいないので、横を向いて最後の一口になったヨーグルトをひとさじすくって差し出したが、首を振っていたのでそのまま口に入れた。滑らかな舌触りを堪能していれば、顎を摘まれてひょいっと… 「んむっ…?!(んんっ)」 抵抗することも出来なかったオレは、舌に乗っていたヨーグルトが無くなるまで舌で舐め取られた。 「ごちそうさまだぞ。」 ってなぁ!? 舌から上顎、歯列まで舐め取られて、座っているのに腰砕けになりリボーンの肩に手を縋りつかせていなければ、床に崩れ落ちそうだ。 「なななな…何?今の何??!」 赤くなっている顔を見せたくなくて、視線を床に落としながら訊ねた。 カップから離れた手が、オレの腰に巻き付いてぐいっと引き寄せられる。 「ツナの食べているものは美味しそうだったからな。」 「だからって、口に入れた物を食べないでよ!」 「美味しかったぞ、ツナ。」 ニヤリと笑った顔がそりゃあもう、エロかった。 それだけで益々顔を赤くしたオレは、リボーンの腕から逃げようと足掻くが離してくれない。 されたのはオレなのに、恥ずかしいのもオレなんておかしいよ。 手足をバタバタさせていれば、首筋に吐息が掛かって顔を寄せられていることに気が付く。横抱きにされた格好で肩に顎を乗せられて、項を舐められた。項は少し触られただけでも声が出るのに、舐められた刺激で小さく悲鳴を上げた。 「弱いのか?」 「っ…ぃや!」 仰け反って首を振ると、今度は唇に唇が重なる。先ほどより深い口付けに身体の力が抜けて凭れ掛かっていると、いとも易々と抱え上げられた。 いきなりの浮遊感に驚いてリボーンの首に腕を回していれば、向かった先は寝室で倒れ込むように伸し掛かられた。 「ツナ…。」 呼ぶ声はメープルシロップよりも甘い。 何でいきなりこんなことになっちゃったんだか知らないが、この雰囲気をどうにかして欲しい。 逃げ出そうにも手足を押さえつけられて逃げられないし。 困っていれば、着ていたTシャツの裾から手を入れられて、手が素肌を撫で上げる感覚に身体が震えた。 もう一度唇が重なって、上からの重みも増してきて、手が止まり唇は離れて耳裏に吐息をひとつ落とすと、リボーンの身体が沈み込んだ… 「お、重い…。」 オレに覆い被さる格好で寝てしまったリボーンを、すぐには退かす気になれずそっと抱きしめた。 でも耳裏への寝息がくすぐったい。 これ以上はムリなので、よいしょと横に転がす。 た、助かった…。 もう色んな意味で危なかった。 疲労が見える瞼をそっと撫でると、上掛けを被せてベッドに寝かせてあげた。 やっぱり刑事って大変な仕事なんだな。 . |