リボツナ2 | ナノ



1.




警察署というのは、悪いことをしていない人でも足を運ぶところなんだとは理解している。
だけど、あまり来たいところでもない。

自分の外見のせいで、先ほどから何度少年課はあっちよと声を掛けられたことか…。
その度に20歳過ぎてます。オレは被害者ですと繰り返して、やっとここまで辿り着いた。

警察署に足を踏み入れて30分は経過していた。
約束の時間の20分前には着いていたのに、10分も遅れてしまった。
それもこれも自分の童顔ゆえに…。

「ここ…だよな。」

今度は誰にも捕まることなくここまで来れた。

『防犯課』

今日ここに来たのは、恥ずかしながら男のオレが、男にストーカーをされているからだ。
近所の交番に届け出たのだが、まったく効果はなく、次第にエスカレートしてきているので、恥も外聞もなくこちらへと縋って来たのだ。

電話では署員のお姉さんらしき人が優しく対応してくれたのだが、10分の遅れが悪かったのか防犯課の室内には人気がなかった。
…って、困るんですけど?!

「すみませーん!誰かいませんかぁ!!?」

広い室内にはオレの声が空しく響くだけだ。
遅れたオレが悪いんだから待つかと、開け放たれた扉の前で立っていると。

「どうした?少年課はあっちだぞ。」

いつの間にか真横からこちらの顔を覗き込むように立っていた男が、本日7度目の声を掛けてくれた。
だから、オレは成人してるんだっつーの!!

むかっ腹が立ったついでに、八つ当たりしてやろうと横を振り向けば、刑事というよりモデルのような男が立っていた。顔に貼り付けている笑みも、ニヒルな感じでそこいらの一般人とは明らかに違う存在感があった。
思わず文句を言うことも忘れ、ぼんやりと眺めていれば、何かに気付いたのかニヤリ笑いを引っ込めると扉に凭れ掛かっていたオレに覆いかぶさるように顔を近付けてきた。

うおっ…男でも美形だと心臓に悪い。

煩い心臓にひとり突っ込みを入れていれば、ブラックスーツに中折れ帽の男は先ほどより楽しそうな笑みを浮かべてこちらをじっと見詰めている。
穴が開きそうなほど、じーっと見詰められてもじもじと視線を下に向けていれば、やっと男が口を開いた。

「ひょっとして、防犯課にストーカー被害の届出を出しにきたヤツか?」

「そ、そうです!あの、防犯課の刑事さんですか?」

だとしたら、日本の警察もグローバル化されたものだ。
この男は明らかに日本人ではない。骨格からして違うのだ。
けれども、日本語はペラペラ。何人だろう。

「…ちょっと違うが、まぁ似たようなもんだ。こっちに座れ。」

ちょっと違うのに、似たようなもん?どんなだ。しかし、聞いてくれる気はあるようで、手近な椅子を勧めて、そこいらにあった調書を手にしている。

うなずいて刑事さんの前に座ると、否応なく長い足が目に飛び込んできた。
悲しいかな、座高はあまり変わらない。

「で、どんな被害にあってるんだ?」

「その…最初は、洗濯物を取られていたんです。気付かなくて、風に流されちゃったのかと思っていたら、今度は留守電に男の声が…。」

「ああ、お前を想像してマス掻いてるって感じのヤツか?それとも、行動を逐一監視して報告するタイプか?」

「……どっちもです。オレ男なのに…。」

情けなさにじんわりと涙が滲んできた。電車に乗れば男に痴漢されることは当たり前。本屋で立ち読みしようものなら痴漢数人にしつこく追い回された経験もある。

俯いたオレの頭に、ポンと大きな手が置かれた。
びっくりして見上げれば、刑事さんの手だ。
少し筋張っていて、人種の違いからか白さが違う。
その手が乱暴ながらもぐしゃぐしゃと頭を掻き回す。

「俯いてっと、益々つけあがるぞ。上向いて睨みつけろ。」

「う、うん。」

目線を合わせて言う。強い視線だ。

「で、聞き忘れてたが名前は?」

「あ…すみません。沢田綱吉です。」

「綱吉…言い難いな、ツナでいいか?」

「はい!あの、刑事さんの名前は?」

「リボーンだ。呼び捨てでいい。…どんな被害にあってるのか知りてぇから、ツナの部屋に行くぞ。」

やっぱり外国の人だ。名前が違う。って、いうか刑事だよな?
ちょっと不審なんだけど、警察署に出入りして調書も取れるんなら警察官だよね??

「ま、待って下さい!足の長さが違うんですから!」

風のようにその場を後にするリボーンの後ろを、コンパスの違うオレは必死で駆けていった。







その後も、色々突っ込みたいところはあれど、どうにかリボーンの車に乗り込み…っていうか押し込まれ、道案内をしながら自宅のアパートに着いた。

「汚いですが…どうぞ。」

こんな美形の刑事さんが来るんなら、掃除機くらいかけとけばよかった…!
顔を赤くしていると、ふむ…と腕を組んだリボーンが土足で上がろうとした。

「ちょっと待って!玄関で靴脱いで下さいよ!」

「悪いな。あんまりちらかっているからいいかと思ってな。」

「うううぅっ…すみません。」

今日はいいだけリボーン相手に恥をかいている気がする。
いっそ、ここまで見せれば恥も外聞もなく話せるかも。

「で、電話は録音してあるか?」

「はい。…コレと」

ちらりと視線を向ければ、チカチカと録音ランプが点いている電話機。
また、あの変なヤツからの電話か。

恐る恐る再生ボタンを押す。

『綱吉くん…今日は大学がないのにどこに行ってるんだい?君を一日中眺めていたいよ。早く帰っておいで…。』

その後はいかにもオレをオカズにしてます…的な荒い息と妄想をぶちまけていた。声は変えていて、誰がこの変態じみた行為をしているのかも分からない。

気持ち悪さに、最近は友達のアパートを渡り歩いていたのだが、講義で使う教科書などはこの部屋にあるのでどうしても聞く羽目になっていた。
その度に付き添ってくれる友達が、色々と言葉を掛けてくれるのだが気持ち悪さに挫けそうになっていたのだ。
その時、一人の友人が「警察に届け出てみれば?」と教えてくれたのだ。
藁にも縋る思いで足を運べば、隣で難しい顔をしているリボーンとの縁を結んでくれた。よかったのか、悪かったのかはこれからだけど。

黙って聞いていたリボーンは、周りをキョロキョロしだすとコンセントやテレビの裏、電話などをばらしはじめた。
びっくりしたのはオレだ。

「え?どうしてそんなことするんですか?」

手元を覗き込めば見たことのないちいさな機械が、コンセントやテレビ、電話などから出てきた。
何だろうと見ていれば、その幾つかを握って玄関に出ると靴で踏み潰していた。
…すごい蹴りだった、とだけ明記しとこう。

「あの…。」

「まだあるだろうが、見つけたところだけはな。」

「あれ、何だったんだすか?」

「盗聴器だ。…お前の生活パターンを知り過ぎているから、多分知人の中にいるぞ。」

「へ……?」

何のことだろうと思っていれば、察しの悪さに肩を竦めたリボーンがオレの顔を覗き込んで言い聞かせる。

「ストーカー野郎だ。お前の知人か友人に居るぞ。」

「あ…えぇぇ?」

言われた言葉がやっと脳内に伝わる。
ショックだった。誰だろうより、何でこんなことするんだろう、の方が大きい。
呆然としていれば、ぐいっと腕を掴まれてまたリボーンの車に押し込められた。

「あの、どこに行くんですか?」

「…あの部屋に戻るにしても、友達んところに行くにしても、ストーカー野郎は間違いなくツナを追ってくるぞ。」

「どうすれば…。」

どこに向かっているのかとぼうっとしていれば、新しいモダンなマンションに連れてこられた。
大きさといい、外観といい、いかにもお金持ちが住んでます的なところだ。

こんなところになんの用が…と眺めていれば、マンションへと躊躇なく向かうリボーンに腕を引っ張られた。

「ちょっ…!どこに、何しに行くんですか?!」

「戻りたくないだろ?オレは滅多に帰ってこないから、部屋を貸してやるぞ。」

「えええっ!!そんな、悪いです!困ります!」

「何が困るんだ?あそこに戻る方が困るだろ。解決するまでここに居ればいい。」

「でも!」

「たかが刑事にそこまでして貰う必要はない、か?」

「とは言いませんけど…そんなに迷惑掛けられないじゃないですか。」

知り合いだったのならともかく、さっき話を聞いて貰ったばかりなのに。
困惑していれば、ふと真顔で見詰められた。
だんだん顔が熱を持ってきて、心臓の音も煩くなってきた。
でも全然嫌な感じじゃなくて、むしろもっと見詰めていないような…でもむず痒いような気持ちで視線を逸らせずにいれば、頭を撫でてくれたあの手が頬にそっと触れた。

このまま見詰め合っていれば、心臓破裂で死ぬかも!と思っていると、そっと手が離れて行く。ほっとしつつも残念だと思い、何が残念なんだと動揺した。

「人の好意は受け取っておけよ。」

「あ…はい。だったら、何か…片付けは出来ないですけど、料理は出来るんで居る間中は作ります!」

切れ長の瞳を丸くすると、くすりと笑ってくれた。

「それなら、せっせと帰ってこないとな。」



そうして、刑事さんとの奇妙な同居が始まった。



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