1.年末だというのに、風もなく澄んだ空はどこまでも見渡せそうなほど高く青く晴れ渡っていた。 ガラリと窓という窓を開け放ち、掃除機をかけたりはたきで埃を払ったりと家中の汚れを落としてゆく。 もう3ヶ月も帰ってこない恋人が今日帰ってくるのだ。 渡された合鍵で週に一度は空気の入れ替えにやってきたりはしていたのだけれど、やはり埃は積もっている。 今日と元旦だけは喫茶店を休んで、恋人との逢瀬を楽しみたいとツナは思っていた。 そんなに儲けている訳ではないので、今までだったら店を休みにすることなど考えたこともなかったのに。 今はお店のことも忘れてただ早く会いたいとそれしか頭になかった。 知らず零れる笑みに、獄寺あたりが居れば「今日の笑顔は100倍眩しいっス!後光が差して見えます!」などと言いかねないほど柔らかな笑みを貼り付けて、でも手元はしっかりと掃除に余念がない。 自宅より念入りに綺麗にしていくのは、気持ちよく年明けしたいがため。 神様にだって邪魔させない。 昨日の夜から泊まりこんでの掃除をしたために、昼前にはすっかり綺麗になった。 掃除機や雑巾、はたきなどを片付けて、埃っぽくなった自身も洗い流しておくかとシャワーを浴びた。 着替えるのも面倒でバスローブを借りて髪の毛を乾かしていると、玄関から重い荷物を置く音が聞こえてきた。 予定より少し早いがきっと。 写真家というのは荷物が多い。カメラもひとつでは足りないし、レンズなど幾つもあったり、色をより鮮明に写し取るために必要とする機材などもある。 音のする玄関へと足を向け、こっそりと顔を出すとそこには、待ち望んでいた恋人がいた。 荷物を置くために下げた顔の輪郭と、大きな手の行方にドキリと心臓が跳ねた。 鼓動の度にゆっくりと身体を浸してゆくこの感覚に覚えがある。 声も掛けられずに顔を覗かせていれば、それに気付いたリボーンが顔を上げてこちらを振り仰ぐ。 「お、かえりなさい…」 やっと出た声は少し掠れていて、身体に灯った種火を見透かされやしないかと冷や冷やした。 その声を聞いたリボーンが、何も言わずに靴を脱いでゆっくり歩いてくる。 オレを見詰める視線は揺るぎがなく、バスローブから出た手足が痺れてジンジンしてきた。 一歩一歩の歩みを見ていた筈なのに、気が付けば目の前まできていたリボーンに顔をそっと掴まれる。 ろくに力も入っていない手に捕らわれて身動ぎもできない。 触れた指から漏れてしまわないかと思いながらも視線を外せずにいると、ゆっくりと顔が近付いてくる。あまりの近さに焦点が合わなくなって、そっと目を瞑ると唇の上に熱い息が掛かり、気が付いたら唇が重なっていた。 ぴったりと息も出来ないほど塞がれて、それから少しづつずらして深くなっていく。 自ら口を少し開けて誘う。 ゆっくりと歯列を割って入ってくる舌がもどかしくて、誘い込むように舐めては遠ざかりを繰り返せば、今度は強引に縮こまった舌を絡め取って重ね合わせる。 気持ちよさに頭の芯から痺れた。 リボーンの首へと縋りついた形の腕は後頭部へ辿り必死にしがみ付いていた。 恥ずかしさやもどかしさも消え去って、ただ互いの存在を確かめ合う。 長い長いキスが終わり、解かれた唇の先から吐息が漏れる。 もう一度軽く触れ合うだけのキスをして笑い合った。 「だだいま。」 そのたった一言を聞いただけで、充足感に満たされる。 首にしがみつく腕の力を強くすると、背中に回されていた腕が下へと滑っていく。 片手で腰を抱えると、もう片方の手が臀部を撫でさする。 「随分イイ格好でお出迎えしてくれるんだな。」 「ちが…っ!」 下着を身に着けていないことを確認するようにバスローブの裾を捲くって素肌を確かめていたのに、その手がするりと遠ざかっていく。 やっと戻ってきた羞恥と、その手を惜しむ気持ちとでぐるぐるしていると、身体を囲っていた腕が緩んでいく。 離された先から冷えてゆくようで、寒さにぶるりと身体を縮こまらせていると、肩を抱かれて暖かい居間へと押し込められた。 「着替えて待ってろ。カメラを置いたらそっちに戻るから。」 言うと廊下から機材を運ぶ音が聞こえる。 オレはと言えば、着替える気にもなれずにその音を聞いていた。 身体の芯に燻っていた種火は、じんわりと広がっている。 最後のひとつを思しき機材を運び込んでいるリボーンの足音が消えて、オレはリボーンがいる部屋へと足を向けた。バスローブしか身に着けていないので裸足のままペタペタと足音と立てて近付くと、戸口の前で制止の声が掛かる。 顔だけ覗かせて中を覗くと、後ろ姿のリボーンが居た。 機材を置いて、しゃがみこむ姿は普段からは想像もつかない。 顔を手で抱え、重いため息を吐かれた。 「着替えて来い。」 「何で?」 「何でって、お前……3ヶ月もお預けになっている恋人の前にそんな格好で現れりゃ、どうなるか分かってんだろ。」 「それはオレも同じだよ…」 機材を運ぶために開け放たれたドアの入り口に立つと、バスローブを唯一留めていたひもを解いてゆく。 しゅるり…と音を立て解けたそれを床の上に落とす。 寒さなんて気にならない。ゆっくりとこちらを振り返ったリボーンが目を瞠る。それすら薄れた羞恥は気にも留めない。 リボーンへと近付く度に熱を帯びる身体に突き動かされて、はだけたままのバスローブ姿で手を広げる。 「オレはリボーンが欲しいよ。……リボーンは?」 呆然とこちらを見ていたリボーンが、クッと笑うと表情を変えて伸ばしたオレの腕を取る。 ぐいっと引っ張られ、しゃがみこんでいるリボーンの膝の上に座らされると、肩からバスローブを剥がされた。 「頭からバリバリ喰っちまいたいくらいだぞ…ツナ、煽った責任は最後まで取れよ?」 勿論、と言わせて貰えずに口を塞がれた。 . |