リボツナ2 | ナノ



8.




リボーンの帰国当日。
昨日までは綺麗な秋空が見えていたのに、今日は雨が落ちてきそうな暗い曇り空。
そのため、いつもより肌寒い朝。

リボーンと2人、手を繋いで喫茶店まで歩いてきた。
昨日は結局、臨時休業する羽目になったが、いつもならば心配して電話を掛けてくる獄寺さえ何も言ってはこなかった。
気遣われたのだろうか。

大きい手に包まれて、今が一番幸せだ。
何も言わずに置いてきた鍵は、今頃どこだろうか。

店の前に立ち、繋いだまま片手で店のドアを開ける。
手を離して中に入ると、後ろのリボーンを仰ぎ見る。

「いらっしゃい。」

にっこりと笑えば、前からぎゅうと抱きしめられた。
背中に手を回し、抱き返す。
たった一週間で馴染んだ体温と、匂いと、大きさに泣きたくなった。

また一人になることより、リボーンが傍にいなくなることが辛い。

ついて行きたいと、唐突に思った。

ぶわりと視界が滲んで、気が付けばボタボタと零れ落ちて凭れかかったリボーンの肩に染みを作っていく。
止めなきゃと焦るのに、後から後から止め処ない。
しゃくりあげる声が漏れないように息を止めて、胸の苦しさをやり過ごそうとしていると、頬に優しく触れる暖かさに思わず声が零れた。

頬にひとつ唇を落とすと、途切れない涙を零す眦を舐め上げる。左右に何度も、何度も舌を這わされ、それでも止まらずに泣いていると耳元に低い声で囁いた。

「一ヶ月我慢してろ…戻ってくるから。」

その言葉に、まともな声も出ないから首を振って拒否する。
そんな言葉は言わないで。

唇へと辿ってきたそれは、ゆっくりと合わさる。
徐々に深くなる口付けと背中と腰を互いに抱き込めば、気持ちよさにまた涙が流れる。

「すぐに帰ってくるから待ってろよ。」

「ダメ…ついて行けないオレが悪いんだ。だから、忘れて。」

唇から、しがみ付いた背中から。
痛みを伴いながら身体を引き剥がす。

「オレのことは気にしないで…ありがとな、リボーン。」

目は赤くて瞼は腫れぼったいし、鼻も赤くてぐずぐずいってるけど。
最後ぐらいは笑って言おう。

「ダメツナが…一ヶ月くらい待ってろ。お前のところに帰ってくるっつてんだ。これも持ってろよ。」

手首を掴まれて、手の中に硬い何かを握らされた。
そっと手の平を開ける。

「鍵…。」

「マンションは解約してねぇ。絶対戻ってくる。」

漆黒の瞳に射抜かれて動くこともできずに開いた手を鍵ごともう一度握り込まされた。
じわじわと嬉しさが込み上げる。

「本当にオレ、一ヶ月しか待たないよ。」

「それじゃ、一ヵ月経ったら越して来い。」

鍵を握った手をリボーンの肩に置き、もう片方の手を絡めてキスをした。
場所は店先でも、気持ちは込める。

オレは信じて待つことを、リボーンはオレのところに帰ってくることを、誓って。











今日も店内は寂しくない程度のお客さんが、ツナの入れるコーヒーや紅茶、軽食などを楽しんでいる。
一通り注文の品を出し終わったツナは、棚の一番見やすい場所に置いてあるケータイをちらりと覗き、着信やメールがなかったかを確認する。

「あっ…。」

すると、赤いランプがチカチカ光っていて、メールが届いていることを知らせるランプが点っていた。
慌ててケータイを手に、お客さんに内容が見えないようにカウンターの隅へと身体を滑らせる。

ケータイを操作して、画面に視線を落とせば花が咲いたような笑顔になった。
それを横目で見ていたビアンキが、深くため息をついた。

「ツナ、リボーンからいい知らせなの?」

「ななななっ何?!なんでリボーンからだって分かるの?」

「…顔に出てるわよ。」

すごく悔しそうに言うビアンキに、そんなに顔に出てるのかと頬が赤らむ。

「それで?」

「あ、うん。今度の日曜に帰ってくるって。」

頬を染めながら、満面の笑みを浮かべるツナに皮肉の一つも言ってやりたくなったが、諦めた身の上では空しいだけだ。
弟の隼人のようにお似合いだから諦めた訳ではなく、お互いしか見ていないバカップルぶりに脈なしと諦めたのだから。それでもくやしいので、ちょっかいはかけていたりする。

「そう…それじゃあ、日曜日は迎えに行こうかしら。店は隼人とバイトに任せて。」

意地悪く言えば、途端に眉を寄せて泣きそうな顔になるツナの額に、ピンッ!とでこピンした。

「休業すればいいじゃない。ツナが来ればリボーンだって嬉しいわよ。」

額を押えて涙目になっているツナは、けれども首を横に振る。

「お帰り、はマンションで言うんだ。」

「…ごちそうさま!まったく、馬鹿馬鹿しいわね!何なのこのバカップルぶりは!!」

ぷいっと横を向いてしまったビアンキに、ごめんね。と顔を赤くして謝るツナ。それを遠目に見守る商店街の常連客たち。
美人なビアンキとめっきり綺麗になったツナは、最近の目の保養だ。
その内、ビアンキを連れ戻しに来た隼人と、ツナにちょっかいをかける雲雀が加わる。華々しい面々ばかりがカウンターに揃うので、あそこは美形しか座れない席だと評判だったりする。

そんな風に優しく時間が過ぎていった。





翌週の日曜日。

生憎の天気となってしまったが、今日はリボーンが帰ってくる日だ。
そわそわと朝から落ち着かないツナに、常連客も苦笑いだが本人はそれすら気付かずにポケットの中のケータイを気にしてばかりいた。

昨夜、空港から電話でもうすぐ搭乗手続きをすると電話があったのだ。
成田へ着いたらもう一度、電話をくれることになっている。

ビアンキはと言えば、やっぱり迎えに行くと言って1時間ほど前に成田へ向かった。
もやもやしなくもないが、これくらいなら大丈夫だと信じている。

今日でちょうど一ヶ月。約束の期限ぎりぎりだ。
結構長かったよな…と思っていると、雲雀がカウンターからくすりと笑った。

「長かったみたいだね。」

「う…はい。早く逢いたいです。」

あれから、気まぐれに口説かれたりはしているが、無理矢理ということもなく普通に客として来ている。何でなのかと問えば、泣かれるのは嫌だから。と言われた。あと、追えば逃げるから追わない。とか、もう一度好きになってくれればいい。とか。

昔好きだった人だから、勿論会えばドキドキするけど。今は約束の最中だから気持ちは揺れない。
それでも、雲雀に指摘されるのは恥ずかしいのでへにょりと眉を寄せて笑う。

「その顔はやたらにしないようにね。危ないよ。」

「?」

何が危ないのやら。クエスチョンマークを飛ばしていると、入店のベルが慌しく鳴った。
見れば獄寺が真っ青い顔をして、肩で息をしながらカウンターまで走ってきた。

「どうしたの?」

何故だか嫌な予感がして、どきどきと脈打つ鼓動に冷や汗を流す。
すると、やっとしゃべれるようになった獄寺がテレビかワンセグはないかと切れ切れに言い出した。

店内にはテレビはないが、カウンターの下に滅多に使わない小さいテレビがある。
少し埃っぽい。ぱっぱとてぬぐいで拭う。

それを引きずり出して電源を入れると、ちょうどテロップが流れた。
目で何気なしに追えば、聞いたことのある航空会社の名前と便数が。

「何、これ?」

目で見た情報は脳に伝わった筈なのに、上手く処理できなかったようだ。
呆然とテレビから目を外さないでいると、獄寺が肩を揺する。

「沢田さん、沢田さん!しっかりして下さい!今、姉貴が空港で確認を取っています。すぐにはムリだと思いますが、分かり次第連絡が貰えるようになってますから。」

「どういう、こと?…何で…何でリボーンの乗った便が落ちたって……」

テレビではライブ画像として、事故現場が映し出されている。胴体着陸が…生存者は…など女性レポーターの甲高い声が耳に痛い。

ポケットの中のケータイをただ握り締めていた…。


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