7.あれから、雲雀さんは店を訪れなくなった。 ひょっとすると、リボーンが帰国してから通うつもりなのかもしれないが、オレは何と言われようともやり直す気はない。 ついて行かないし、待たないけれども、好きだと思う気持ちがあるうちは抱えていようと思う。 最近ではリボーンも諦めたのか、それについては言わない。 けれども、残り少ない時間を互いの身体の空く限りは傍にいるようになっていた。 今日は喫茶店の定休日。 リボーンも粗方の用事は済んだようで、2人でリボーンのマンションに昨日の夜から何をする訳でもなく、けれでも離れずにくっ付いている。 ソファの上で横になるリボーンに後ろから抱き込まれる格好でごろ寝中だ。 ぶかぶかのシャツを羽織っただけの姿で、テレビに夢中になっているツナ。それに手を這わせて腿から上へと撫で上げるから、バシリと手を叩いてやった。 「つれねぇな…ツナ。」 「しつこいリボーンが悪いんだろ。」 「そりゃあ、お前…昨日しなかったから、つい触りたくなるんだぞ。」 言いながらまた撫でる。また叩くが、今度は離れない。 首の後ろを吸い付かれて仰け反ると、シャツの裾から手が這い上がってきた。 「今からしたら、明日の朝まで離してくれないから嫌だっ!」 「こっちはイイみたいだけどな。」 「んんっ。」 気持ちよさに声が漏れると、もう片方の手も調子付いて腿の内側を撫でる。 柔らかい皮膚を掴んだり、そっと手を這わしたりする感触にゾクゾクする。 「着替えを持ってこないから悪いんだぞ。」 「だって…。」 ジワジワと追い詰められて、息が荒くなってきた。 あと2日で帰国するリボーンの家に着替えなんぞ持って来る訳がない。 私物は一つも入れていない状態で、身体だけ傍にいる。そんな感じだ。 羽織っているシャツはリボーンの物で、体格の違いかかなり大きい。 肩は落ちているし、袖から指がほんの少し出る程度だ。裾もお尻どころか腿まで隠れる。ズボンは借りようと思ったのだが、長さが合わなかった。…ちょっと傷ついた。 面倒でシャツだけ借りて、寝巻き代わりにしていたのだが、これならば早めに自分の着てきた服に着替えればよかった。 ソファに仰向けにされ、伸し掛かられた状態でシャツは胸まで捲くられている。 「ちょっ…!」 下手に口も開けない。開けばとんでもない声が出そうだから。 胸に落ちてきた頭をポカポカ叩いて顔を上げさせる。 それでも手はしっかり肌を撫でているが。 「何だ?」 「っ…ここはダメ!」 上擦る声で、どうにか叫べばニヤニヤした顔を見る羽目になった。 「キッチンみたいに、座る度に赤くなるからな?」 ボボボッと耳まで熱くなる。 ニヤけている顔をぐいと押し遣ってソファから這い出ると、抱え上げられた。 「昨日寝ちまうからだぞ。」 「だから!普通はワイン一瓶空ければ眠くなるって!」 慌てて首に手を回す。落とされたら大変だし。 真昼間からするのはなんだけど。大人の時間ということで。 どうにか夜には開放された。 バスルームからタオルを片手に出ると、先に出ていたリボーンがソファでまた一杯やっていた。 イタリア人の肝臓ってどうなっているんだろう。 横に座って、置いてあるチーズを摘めばグラスを差し出された。 「もう飲めないよ。今日まで飲んだら明日起きれないって。」 「丁度いいじゃねぇか。ついでに辞めちまえ。」 「リボーン…。」 ワインを口に含んだまま重ねられ、少しづつ喉の奥へと流し込まれる。 それでも口の端から零れる液体が喉を伝い、まだなにも身に付けていない胸へと下っていくと同じようにリボーンの唇も下っていく。 されるがままに大人しくしていれば、もう一度同じことを繰り返す。それを3度ほど繰り返したらワインのアルコールと口付けの熱さにドロドロに溶かされた。 リボーンの羽織るバスローブを握る手も、力なくただそこにあるだけ。 抱え直されて頭をリボーンの肩へと凭れかければ、支えていない方の手が下肢へと伸びる。 アルコールの熱と、先ほどまでの余韻の残る身体にまた火を点けられてみっともない声が漏れた。 聞かれたくない一心でリボーンの頭を抱えて唇を合わせると、ソファに押し倒される。 気持ちいい重みに目を閉じていると、口付けを離された。 恨みがましい顔をしていれば、苦笑いを浮かべる顔が。 「こんなによくても別れんのか?」 「……リボーンのためでもあるよ。心残りなんて、ない方がいいでしょ。」 きちんと笑えているだろうか? 涙は出ないから、大丈夫。きっと笑えている筈だ。 「別れる気はねぇぞ。」 真剣な顔だね。カッコいいなぁ。一目惚れしちゃうくらいだもんね。 きっとオレの方が好きだよ。 大好き。 だからこれ以上の別れは耐えられないよ。 言っても聞いてくれなさそうだから、言わない。 にこにこと笑い、首に腕を巻きつけて下からリボーンに口付けた。 もう一度、その熱に包まれたいから。 ソファの前にあるテーブルには、飲みかけのワインとチーズ、そしてこのマンションの合鍵が鈍く光っていた。 . |