リボツナ2 | ナノ



6.




気付かれないことと、迷子にならないことに必死でここまでやってきたが、この後どうするかなんて考えてなかった。
夜の仕事だとは思っていても、居酒屋のバイトかなくらいにしか思っていなかったからだ。
まさかホストクラブだとは想像の遥か彼方だった。

どう読むんだか分からないけど、英語じゃない言葉で書かれた文字の横には今日出勤しているホストだと思われる名前が連なっていて、顔写真はなかったところを見るとかなり高級なクラブなんじゃないんだろうか。
この場所のヤバさと、見付かったらという緊張感に、じんわり汗が滲んできた。

「おい、お前何してる…?」

後ろから声を掛けられてびくぅ!と身体が飛び跳ねた。ヤのつく人種だったり、ディープな売人だったりしたらどう対処していいのか分からない。
とにかく逃げなければ!
振り返らずに足を踏み出したのに、一歩遅かったのか声を掛けてきた男に腕を掴まれた。

「んぎゃー!何もしてませんっ!ただ見てただけです!」

掴まれた腕を離して貰えないことにパニくって大声を上げると、焦った男がオレの口を塞いで例の店先に連れ込んだ。

ヤバい!殺される!ヤク漬けにされちゃう!

手足を必死にバタつかせていると、男が落ち着けと声を掛けてきた。
恐々振り返った先には、オールバックが決まっている20代半ばくらいの黒服姿の男と、ユニさんがいた。
ってユニさん?!

「あら、よく見るとリボーンの弟の綱吉くん?こんなところに何のご用ですの?」

「いや、あの…えっと…」

それはこっちの台詞だ。
こんな所でユニさんに会ったことと、お付きの人らしいオールバックの男の鋭い視線とに驚いて言葉にならない。
だというのにこちらを眺めていたユニさんは、何か1人で納得すると、付いていらっしゃいとオレに声を掛けてきた。

「へ?…あの、どこに…」

「つべこべ言わずにお嬢に従え。大人しくしてりゃ、大丈夫だ……多分な。」

「た、多分?!って、うわぁ!」

抵抗していたオレを黒服が担ぎ上げ止まっていた黒塗りの車へと押し込められた。







何の説明もなく連れてこられた(拉致って言わない?)場所はいかにも高級そうなブティックだった。女性店員2人かがりで服や靴を見立てられて、さあ着てきなさいと試着室まで連行されかけていた。

「ちょっと!何でオレがこんな服を…」

「あら、リボーンが中で働く姿を見たくはなくて?」

的確にツボを押さえた発言にオレの抵抗がピタリと大人しくなる。
するとユニさんは着てらっしゃいな。と笑顔で応えた。

「この格好のままだとすぐにバレましてよ。女装すれば意外に気づかないものですわ。」

「そういうもん?」

何だか上手く乗せられた感は否めないが、確かにこのままだと入れない。
ホストクラブになんか入るなんて思ってもいなかったのだ。心構えも支度もついでに金もない。ユニさんが一緒に入るなら平気よと言ってくれていた。
それは大変有難いのだが、そもそもユニさんはあそこに何の用事があったのだろうか?

「男らしく腹を決めなさいな。」

「…」

男らしく女装するのってどうなの?









頼りないほど薄い布地に、少ししか隠れてないじゃん!と焦るほどの下着みたいなワンピース。上はカーディガンを羽織り、足元はヒールのない靴を履かされていた。
前を優雅に歩くユニさんが、今は悪魔に見える。
オレの横を歩いているガンマさんの視線は憐れみを帯びていた。
同情するならお嬢様を止めてくれ。
どうやらこの二人、大金持ちのお嬢様とそれを守るボディガードらしい。

歩く度に、道行く人が振り返らずにはいられない程の美少女が雑多な人垣を掻き分けていく。
その後ろをトボトボ付いて歩くとあの店に辿り着いた。
こちらを振り返るユニさんが、堂々としていなさいとハッパを掛け勝手知ったるなんとやらといった雰囲気で店内へと足を踏み入れていった。慌ててオレも付いていく。

薄暗いのかと思っていた店内は意外に明るかった。それでも昼間のような照明ではなく、少し明度を落としているのだがそれでもイカガワシサはあまりない。
清潔できちんと手入れされているカウンターを通り、丁寧な接客をするホール係が連れて来た場所は一番眺めがよくて、一番奥まった上顧客のための席だと思われた。

ユニさんが店内に現れた途端に、ホストやホール係、調理場に至るまで緊張が漲っているのが分かった。
ただの上顧客じゃないのか?
つーか、そもそもユニさんてリボーンと同い年だったよな。それでこんな店に出入りしているなんてどういうことなのか。

一通り飲み物や食べ物が運ばれてきて、ホストが横に座ってきたのだが男だとバレやしないか気が気じゃない。…じゃなかった、オレここに来たのはリボーンのことを探しに来たんだって。
ユニさんに口パクで訴えると、白魚のような指がすいっと斜め前の席を指差した。

「あっ…!」

こちらからは見えても、あちらからは丁度見えない位置にリボーンがいた。やっぱりホストをしていて、今は年配の女性客と談笑中だった。

リボーンが居たからといって、掴まえてバイトを止めさせるとかは考えていなかった。
ただどんなバイトをしているのか、それが知りたかったんだ。
知った筈なのに、なお遠くなったリボーンに言い知れない不安が募る。不安じゃないか、置いていかれた?ううん、そんなの最初からだ。

オレに見せる顔はリボーンのほんの少しの部分で、それ以上を知りたくてつけてきたのに知ったらまた謎が増えただけだなんて。
なんでこんなアルバイトをしているのだとか、ユニさんとの関係だとか。だってユニさんはリボーンがホストのバイトをしていることを知って、オレに見せるために店内にまで連れて来てくれた。
手元にあった綺麗な色の飲み物に口を付けると、ユニさんがニコリと笑って言った。

「あら、ツナちゃんカクテル飲めるのね?」

「カクテル?」

何だそれは。そんな飲み物は聞いたことがない。

「それはモスコミュール、度数は低めだけど平気かしら。」

「…度数って……アルコール?!」

ぶぶーっ!と吐き出したけど遅かった。もう2口くらいは飲んだ後で、目の前がぼやける…と思った時には身体がぐらついて、そこから先はフェードアウトした。





次に気が付いたときにはすでにホストクラブじゃなく、外のネオンがやけに眩しい車内に転がされていた。
頭はガンガンするし、身体は力が抜けて思うように動かない。
それでも身体を起こすと、運転席から声が掛かる。

「大丈夫か?…お嬢にムリに付き合うこたぁなかったんだぜ。」

ぬっと差し出されたミネラルウォータを有難く受け取り、がぶがぶと飲みきった。すごく美味しく感じる。頭を振るとまだ髪飾りが付けられたままで、見れば女装姿のままだった。足元に置かれたブティックの袋の中にオレの服が詰まっている。

「今、何時くらいですか?」

「1時だな。その内お嬢が出てくるっと…出てきたな。」

店はまだまだ閉店しそうにない。そこからユニさんがこちらに向かって歩いてきていた。

家には友達の家に遊びに行くと書置きをしてきていたが平気だろうか?紙袋から自分のケータイを漁って着信があったか確認するも、メールひとつ届いていなかった。
高校生になったのだからと信頼してくれているのだろう。少し罪悪感が疼いた。

ガンマさんにドアを開けて貰い、綺麗に足を揃えて車内へと納まった。そのユニさんの顔が不満気に膨れていた。

「どうかしたんですか?」

「…何でもありません。そろそろお家に送って行きます。ガンマ出して頂戴。」

「はいはいっと。」

我が儘お嬢様の我が通らなくてご立腹??
ともかく黒塗りの高級車が、滑るように闇夜を走り出した。



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