3.あれから、少しづつ距離を縮めていった2人だが、ツナの頑なさにそれ以上の関係にはなれないでいた。 無理矢理というのも違うし、かといってそうでもしないと進展しないとは思っているのだが、リボーンはどうしても手が出せずにいた。 あの、柔らかい笑みが恐怖に引き攣る様を見せられからだ。 個展もあと1週間で終わり、その後はイタリアへ戻ることとなる。焦らなければならない筈なのだが、それも今更かと思っていたある日。 いつものようにツナの淹れたエスプレッソ片手に、休憩を取っている時にそいつはやってきた。 黒いスーツと、お人形のような小奇麗な顔、黒髪に黒い瞳を持つ男が。 「ただいま、綱吉。」 と、一言でツナの優しい笑顔ごと攫いにやってきた。 「ひばり…さん?」 「いい子にしてたかい?他のヤツと群れていたらそいつを噛み殺すよ。」 人形のような顔に獰猛な笑みを添えて、それでも綺麗に笑う。 その顔を見て、首を懸命に振って否定しているツナに満足したのか笑みを引っ込めると、リボーンの一つ横に腰掛ける。 お互いに視線を絡ませるが、勿論色っぽい意味ではない。 バチバチと火花散る、視線の応酬だ。 ひと目見て、お互いに気に喰わないと思った。 ひばりと言われたこの男は、以前獄寺が言っていた雲雀恭弥で間違いなさそうだ。 黒いスーツ姿を見て、恐怖に慄いていたツナ。 獄寺はこいつのことをツナは思っていたと言っていたが、とてもそう思えない。 冷たい視線で、互いを睨んでいると、それに気付いたツナが2人の間に入る。 「リボーン、そろそろ時間じゃない?呼び戻されるよ。」 「呼びに来るまでここにいるか。」 「もう!また叱られるのオレなんだよ?」 「放っておけ。」 いつもの軽口を叩いて言い合っていると、横から刺々しい声が掛かる。 「綱吉、僕の前で群れるの?」 ふんわりと笑っていた顔から表情が剥がれ落ちる。 恐怖というより、悲しげな表情で雲雀を見るツナに苛々した。 こんな感情は初めてだ。 「関係ねぇだろ。」 「君こそ関係ない。僕と綱吉のことに口出しするな。」 互いに譲らず睨みあっていると、リボーンの方に迎えが来た。間が悪い。 それでも出て行く時にカウンター越しに腕を引っ張ると、顔を寄せて耳元で囁く。 「帰りにここに寄るから、待ってろよ。」 「リボ…」 ぽわっと頬を赤らめるツナ。決して嫌がられてはいないと自負できる。 重なる視線の甘さも、濃いスキンシップを拒否しないことからも、お互いに惹かれていることは分かるのに。 けれども、あと一歩のところで止まってしまうようなもどかしさがある。 「ちょっと、人の物に勝手に触らないでくれる?」 隣からも手が伸び、ツナはそちらに引っ張られる格好になった。 それでも腕を離さないリボーンは、雲雀を睨む。 カウンター越しに、小柄な青年を巡ってまたもにらみ合いが始まった。 慌てたのは呼びにきたサラリーマンと、それを見たツナだ。 「あの…2人とも離して下さい。」 「リボーンさん!」 サラリーマンの悲痛な呼び声に、仕方なしにツナの腕を離す。それでも視線は外さないでいると、ふいっと雲雀がリボーンからツナへと移す。 存外、柔らかい視線にツナへの想いが溢れている。 「今日は帰国祝いをしよう…まだマンションは替えてないのかい?」 「え、ええ…。」 けれども、ツナは視線を合わせない。俯いたままもごもごと答える。 「そう、まだ僕の用意したところに住んでいるんだ。」 ふふふっと笑う顔と、俯いたままの泣きそうな顔に頭を殴られた気がした。 そういう仲だったのかという憤り。黒く渦巻くこれは嫉妬だ。 「ツナ。」 一言呼べば、肩を揺らして視線を上げる。 切なく交わるのに、そこから抜け出せないのはそいつのせいか。 「迎えに来る。待ってろ。」 言って店を出て行った。 腹を焼く痛みよりも、ツナを渡したくないという気持ちが勝った瞬間だった。 . |