11.近付いてくる顔に慌てて目を瞑ったけれど、ドキドキと煩い心臓はちっとも止まなくて聞こえてしまうのではないかと心配になった。 三度目に重なる唇はことさらゆっくりと触れてきた。 顔は火照るし、動悸は激しいしでどうにかなりそうだというのに、何度も触れては離れてまた触れてを繰り返している。 目を開けて、遊んでるのかと言おうとしたらいきなり深く口付けられてもがく羽目になった。 口の中までゆっくりと進んでくる舌にどう反応していいのかさえ分からない。 歯列のわずかな隙間をこじ開けて縮こまっていたオレの舌を絡め取られる。 ぬるりとした感触に身体が震えた。 一度目は勢いで、二度目は風邪で半分意識が飛んでいた。それに比べると今回はばっちり意識がある上に最後までしてもいいとまで言ってしまっていて、しかも気持ちが拒んでいない。 ゆっくりだけど遠慮のない舌が快感を引き出していって、押しやろうと肩に掛けていた手も逆に縋る格好になった。互いの息遣いと、どちらのものとも区別もつかくなった唾液を飲み込む音が妙にはっきりと聞こえて、それなのに霞掛かった意識は現実を追いきれてはいなかった。 もう一度瞑った瞼の奥がチカチカするほど気持ちよくて身体が熱くなってきた。知らず漏らした声も他人のもののように甘いのに、恥ずかしさも消えていく。 手首から脇腹を辿っていく手が腰に周り、もう片手は背中を抱き込む。がっちりと押さえ込まれて身動きできないというのに、まだ足りないのか力を込めて抱きしめられた。 「リボ…くるしぃ。」 ただでさえ絡め取るように口腔を蹂躙されているというのに、背中に力を入れられたら息ができない。苦しくて唇を外して零せば、慌てて力を緩めた。どうやら意識せずにしたことらしく、苦笑いを浮かべている。 その顔を見てやっと羞恥が戻ってきた。 視線が合わせられない。 ベトつく口許を手の甲で拭っていると、背中に周っていた腕がするりと裾から入り込んできた。 少し冷たい手が肌着越しに腹から上へと撫で上げていく。 「…そんなとこ触って楽しいのかよ?」 「楽しくねぇな。」 だったら触らなければいいのに。肌着の上からの手付きは生地が擦れて痛いだけだ。それでもまだ中を弄る手に、何をするつもりだとろうと覗いていると、今度は肌着の中に手を這わせてきた。 「ちょっ…!くすぐったいって!」 ゲラゲラと笑っていると、それも思った反応と違ったのか首筋に噛み付いてきた。酷く痛いものではなくて、軽く食み舌を這わせる。 どちらもくすぐったくてヒーヒーと笑っていた。なのに胸の先を指で擦られて身体が揺れた。女の子でもあるまいし、そんなところがと思っていると親指の腹で捏ねられて声が漏れた。 調子付いた指が摘んだり、捏ねたりと忙しなく動いて、同じように揺れる身体と零れる声が甲高く切れ切れになっていく。 とうとう肌着を捲って肌の上に顔を潜り込ませてきたので、慌てて手で押しやった。 「何だ?」 ううううっすごく機嫌が悪そうな声だけど、ここでめげてはいけない。 押しやってもまだ脇腹をなぞる手に、勝手に身体が揺れるけれどここで流されたらお終いだ。 「オレ、風邪ひきだから!これ以上したら移るし、多分酷くなる…。」 「チッ、しょーがねぇな。待ては一回だけだぞ。やっぱりなしは聞かねーからな。」 「う、うん…。」 しっかり釘を刺されて、日にちまで指定されてしまった。 「丁度冬休みに入るしな。22日にオレのうちだぞ。」 「…分かった。」 終業式が終わったらそのままお持ち帰りされることとなった、らしい。 どうなるんだろうか……不安だ。 どうにか赤点だけは免れた成績表を鞄に詰めて、ちらりと隣に視線をやった。 着替えを持ってこようとしたら、そんなのいらねぇだろと言われて持ってきていない。 どういう意味だろう? 明日から冬休みが始まるからか、教室中が浮き足立っている。いや、冬休みだからだけじゃないのか。 クリスマスは彼氏と〜とか、彼女と遊びに行くとか。家族とクリスマスじゃ寂しいから集まろうぜ、なんて余計に侘しくなりそうなモテない野郎どもが声を掛け合っていたりとかなり賑やかだ。 風邪をひいてから3日ほど休んで出てきた学校は、賭けがあったことさえ信じられないくらい静かになっていた。あの痛い視線に晒されることもなくなって、これは余程雲雀さんが〆て回ったのではとゾッとした。ありがたかったけど。 それでも無意味に煽ったりはしたくないので、出来るだけ普段通りに接していたつもりだったのだが…。 いつものように獄寺くんと山本が一緒に帰ろうと声を掛けてきた。 それを見ていたリボーンがニヤリと笑ったので、2人を守るために思わずぽろりと零れてしまった。 「ごめん!今日はリボーンちに行くから、一緒には帰れないよ!」 そんなに大きな声で言ったつもりはなかったのに、一瞬教室がシーンと静かになると慌ててオレたちの周りから人が消えていく。 何かあったんだろうかと思っていると、黒川が呆れた顔で教えてくれた。 「あんた、賭けは終わったけどみんな興味はあるのよ?ネタを提供してどうするの。」 「そうなの?」 「そうなのよ。……で、本当はどうなの?」 笑って訊ねることじゃない。お前は女の子だろう!と言うとケタケタと声をあげて笑っている。 「だって、あんた最近キレーになったじゃない。どうだろうねって、話してたんだよね京子。」 「きょ…京子ちゃん?」 黒川の後ろにいた京子ちゃんが、邪気のない笑顔でとどめを刺してくれた。 「うん、本当に綺麗になったね、ツナ君。幸せそうでよかった!」 「……ありがとう。」 恥ずかしいよりも悲しくなってきた。あまりに理解があり過ぎて。 ハハハッと半笑いでいると、また来年ね!と言って山本や獄寺くんたちと一緒に帰っていってしまった。 残されたのはオレとリボーンだけだ。 「よかったな、幸せにしてやるぞ。」 「よくねぇぇ!オレ、お前とできてるの公認?!いつの間に??!」 頭を抱えているオレを抱えて教室から出ようとする。うん、止めろ。 これ以上ネタにされたくないよ。 「この前の一件で黒に近いグレーだと思われてたところに、てめぇが今確定させたんだろ。まあいいじゃねぇか。その通りだしな。」 「廊下で言うなー!」 「声がでけぇぞ。みんな見てる。」 「!?」 慌てて手で口を押えるが遅かったようだ。ばっちりこちらを見ている視線がいくつもあって黒川の話が本当であることを教えてくれた。 ぼわっと顔が赤らむ。 一斉に逸らされる視線の間を縫って下駄箱まで駆けていく。 その後をリボーンが悠々と付いてきて、下駄箱でオレを掴まえるとわざと見せびらかす様に首に手を回された。そして一言。 「今日は泊まってくんだろ?」 耳元で甘く囁く。 小さな声だった筈なのに、女の子のキャー!と言う悲鳴が聞こえた。 出歯亀してんな。つーか、その前にここで言うな! 二の句が告げないオレを担いで、とてもイイ顔のリボーンがみんなの間を歩いていく。 誰かこいつをどうにかしてくれ! そんなこいつがいいオレって趣味悪いんだってことぐらい知ってるけど。 どうか、この冬休みの間にオレたちの噂が消えてくれますように!とサンタクロースにお願いしてみる。 終わり |